【渋井 哲也】都内の公立中学で起きた性加害事件がまさかの展開に…そして被害者家族が練馬区を訴えた「許しがたい理由」

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2022年5月、東京・練馬区の中学校で男性教諭による男子生徒への性加害事件が起きた。男性教諭は強制わいせつの疑いで逮捕されたが、保釈後に自殺。被害者であるはずの男子生徒はクラスメイトらから誹謗中傷を受けた。

事件から2年が経とうとしていた今年2月、「学校の対応は不適切だった」として、男子生徒と保護者は練馬区に対し裁判を起こした。

前編記事『「先生はボクをトイレに押し込めて」…都内の公立中学で性加害事件を起こした教師が言い放った「衝撃の一言」』に続き、報じる。

逮捕され、保釈後Aは自殺した

関東地方の学校に通うマサトさん(仮名・16歳)は中学3年生だった2022年5月、担任の男性教諭Aから性被害を受けた。

トイレ掃除が終わった時間、Aはマサトさんを無理やり個室に押し込め、身体を触ってきた。

マサトさんはすぐさま別の教諭Bに相談。帰宅後、母親に被害を訴え、後日親子は学校側と話し合うことになった。だが、話し合いは平行線をたどったままだった。

校長は、『申し訳ありません。改善させますから』と頭を下げましたが、Aがやったことは強制わいせつ、犯罪です。同じことを繰り返すと思っていましたから、『改善は無理だと思う。マサトは納得しない』と訴えましたが、聞いてもらえず……。最終的に『警察に相談させてください』と言い残し、(警視庁)光が丘警察署に被害届を出したんです」(母親、以下「」も)

翌日、Aは強制わいせつの疑いで同署に逮捕された。その3日後、釈放された直後に自宅マンションから転落死した。SNSには遺書と思われる投稿がされており、警察は自殺とみている。

東京地検は、2022年6月28日付でAを被疑者死亡で不起訴とした。

突然の教員の死により、学校内は騒然とした。だが、学校側から生徒、保護者に十分な説明がなされなかったことで、その矛先はなぜか被害者のマサトさんに向けられたのだ。

《ぶっ殺してやる》

《A先生が逮捕されたのは、大げさに言ったからだ》

SNS上では、マサトさんに対する誹謗中傷が相次いだ。

誹謗中傷の対応に消極的だった学校

だが、Aのものと思われる、SNSの裏アカウントが発見されたことで、マサトさんへの非難は沈静化していく。わいせつな写真のほか、未成年男子とのデートをにおわせる写真などが投稿されていたからだ。

とはいえ、SNS上の誹謗中傷が完全にやむことはなく、母親は学校側に相談していたが――。

「いくら『指導してください』と訴えても、校長は『スマートフォンを買い与えたのは保護者。なので、保護者の責任がある』との一点張り。私が『SNSのいじめにあたる。きちんと教育してください』と訴えても全くの平行線でした」

そのため、母親は練馬区教育委員会に相談することに。

「区教委に『学校の対応はこれでいいんですか?』と尋ねると、区教委の担当者は『校長の対応はよくなかった』と回答してくれてホッとしました」(母親)

教育委員会からの後押しもあり、学校側もようやく重い腰を上げた。事件から2ヵ月余りが経過した、夏休み前直前のことだ。

それでもなお、学校側の対応は消極的だった。

校長先生が誹謗中傷をした生徒宅に電話をかけてもつながらなくて、最終的にすべての生徒に電話がつながったのは8月末、夏休み明け直前でした。先生が誹謗中傷した生徒に注意しても、彼らは『消しました』というだけです。謝罪も反省もありませんでした」(マサトさん、以下「」も)

話し合いも無視する学校側

マサトさんの受けた心の傷は深かった。不眠、集中力が続かない、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の診断も受けた。

「3時間目を超えると胃が痛くなることが多かった。集中できず、授業内容はあまり覚えていません。気がついたら、授業が終わっていることがありました。ずっと一点を見つめている感じで、まったく記憶がないときもありました。しんどくて早退することもあり、勉強も遅れていきました。部活動も練習に出られないことが続いた。試合の会場にも行くのがやっとでした」

Aが亡くなり、誹謗中傷もひと段落したと学校側は思っていたことだろう。

だが、マサトさんら被害者家族は到底、納得などできない。教育委員会立ち会いのもと、学校とマサトさん家族で話し合いの場を設けたこともある。

しかし、教育委員会の担当者は母親からの日程調整の連絡を2度無視。そのためマサトさん自ら、区長に手紙を書いて、対応のずさんさを訴えたこともあったという。

「わいせつ事件が起きたときに保護者会を開催はしていましたが、その際、学校側は法律(教職員による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律)にそって対応できていない、と言っていたんです。当時、マサトの精神状態は悪く、私は保護者会には出られませんでした。ですからどんな説明がされたのか、学校に聞きましたが、それへの回答もない。

また、マサトへの謝罪については文書で出すことはできるとは言われましたが、これもいつになるのかわかりません。学校側に謝罪会見を求めましたが、それも拒否されました」(母親)

練馬区を相手取り330万円の損害賠償裁判

学校側の情報管理もいいかげんだった。卒業前にマサトさんが校長宛に書いた「A先生を通報してほしかった」という内容の手紙が、後日、Instagramに勝手に投稿されていたのだ。投稿したのは同校の生徒で、勝手に校長室から持ち出したものだという。

「教職員による児童生徒性暴力等の防止等に関する法律」は、事件の1ヵ月前の22年4月に施行され、教職員が児童生徒に対する性暴力を禁止。学校や学校設置者は、必要な措置を取ることになる。

文科省のガイドラインによると、犯罪の疑いがある場合は、所管警察署に通報しなければならない。放置したり、隠蔽した場合は、同法律の義務違反や、信用失墜行為として地方公務員法による懲戒処分の対象となり得る、とされている。

そこでマサトさん親子は今年2月26日、一連の対応について「学校側の安全配慮義務違反ではないか」と練馬区を相手取り、330万円の損害賠償を求めて東京地裁に提訴した。

「裁判をしようと思ったのは、事件の対応があまりにも不適切で、A先生の加害を未然に防げなかったことについて、学校や教育委員会に対して許せないと思ったからです。

僕がA先生にされたことの対応について考えると、学校も教育委員会も、大人たちは給料をもらう資格がないと思います。自分の組織のためのことしか考えていなくて、保身に走っている! 自分の子どもが同じ目にあったら、このような対応で納得できるといえるんでしょうかね? このままじゃ終われないと思ったんです」

「事件を隠そうとしている」

当然だが、母親も学校や教育委員会の対応には納得していない。

「学校や区教委は『事件を隠そうとはしていない』と言っていますが、対応が十分ではないところを見ると、隠したいのではないかと思ってしまいます。被害者に寄りそった対応をすると言っておきながら、結局、自分たちの保身に走ろうとする能度に不信感しかありません。学校側が生徒や保護者に真実を正しく伝えていれば中傷を受けることはなかった。同じような思いを持つ生徒をなくしたいだけなんです」

「重大ないじめとして、別件で最後まで加害生徒や保護者に対応を求めています」(マサトさん)

練馬区教委は、事件を受け、23年12月、外部有識者による特別対策委員会を設置した。

子どもに接する仕事を就く人に性犯罪歴がないかを確認する「日本版DBS」法案が閣議決定し、議論がされている中、性犯罪をした教員への行政対応をめぐる裁判として注目を浴びそうだ。

「事件から2年が経ちましたが、まだ解決したと思っていません。日本の法律が少しでも変わってほしい。特に、子どもが性被害にあっても救われる仕組みがないから、救済される仕組みがほしいです。もう他の子どもが学校の犠牲にならないでほしい」

マサトさんと家族の戦いはまだ始まったばかりだ。

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