8年越しの悲願を達成した「丸亀製麺」。ヒットを連発できる秘訣を社長に聞いた
数ある外食チェーンのなかでも、稀代のヒットメーカーといえるのが日本を代表する讃岐うどん専門店「丸亀製麺」です。ここ数年でも「丸亀うどん弁当」や「丸亀シェイクうどん」といったメニューが人気を博し、今春も期間限定で出店した「丸亀製麺所」が大盛況など勢いは増すばかり。こうした新奇性豊かなアイデアはどのようにして生まれるのか、社長インタビューでその秘訣に迫ります!
希少だった麺職人の絶品うどんが全店で味わえるように
丸亀製麺のブランドメッセージは、“ここのうどんは、生きている。”数々のヒットメニューを生み出しながら最も大切にしていることが、うどんそのものの美味しさです。そのため、2016年から「麺職人制度」を掲げ、麺づくりのスペシャリストを育成してきました。
麺職人の試験には実技試験と筆記試験があり、一つ星から四つ星までの4段階。合格率は、一つ星麺職人試験で約3割、二つ星麺職人試験となると約1割と、合格するのが非常に難しい試験となっています。
その麺職人が、日本全国の丸亀製麺838店舗(2024年2月末時点)の全店に配置完了したことを記念して実施された企画が、前述の「丸亀製麺所」の限定出店です。同店では全国各地から麺職人を集め、3種類のうどんを食べ比べできる「丸亀製麺所 三種の利きうどん」を提供。計10日間で7000名を超えるお客さんが、この特別商品を堪能しました。
全店配置までに費やした期間は約8年。自身が初の麺職人であり、指導しながら店舗の厨房に入ることもあるという山口 寛社長に、これまでの道のりを振り返った所感から聞かせてもらいました。
「審査基準は譲れない部分なので、合格ハードルも高いんです。しかも当初は私を含め数人しか麺職人がいなかったため、指導する人間も少なくてなかなか数が増えませんでした。
社内で、まわりにほとんど麺職人がいないわけですから、イメージとしては雲の上の存在になっていたのかなと。ですので、麺職人を目指す人材も少なかったですし、浸透にも時間がかかりました」(山口さん)
こうしたなか、社内外で積極的に発信することで受験者も合格者もちらほらと。社内で麺職人が身近になることで憧れるスタッフも増えていき、2022年ごろにはバックアップ体制をより強化。改めて皆で麺職人を目指していこうと機運を高め、その数は合計1632名(2024年2月末時点)に。当初の目標より約1年の期間がかかったものの、全店配置の悲願が達成されたのです。
同社が直近で仕掛けた企画は「ひと口醤油うどん」。2024年4月9日から11日までの限定で、店内飲食のお客さん全員に「ひと口醤油うどん」を無料で提供するというキャンペーンです。
丸亀製麺の全店に麺職人が配置されたことにより、一層おいしくなったうどんの麺そのものの美味しさを、より多くの方に実感いただきたいという想いから実施したと山口社長。
「当社はこれまで、創業月の11月に『夜なきうどんの日』や『麺匠イベント〜匠の技を堪能する夜〜』などを実施してきましたが、全店で麺職人のうどんを提供できるようになりましたから、その魅力をしっかりお届けしたいですね。より多くのお客様に麺職人ならではの美味しさを体験いただくべく、これからもユニークな企画を積極展開していきたいです」(山口社長)
うどんづくり体験による食育も積極的に展開
丸亀製麺は、食育にも積極的な企業。その理念を体現するべく開業したのが、体験特化型施設「手づくり体験教室」。1号店は2023年11月にオープンした「手づくり体験教室 東京・立川」で、ここではうどんはもちろん、天ぷら、いなりづくりを体験できます。
「手づくり体験教室」の前身は2012年から一部店舗で開催していた「まるごとまるがめ体験教室」です。コロナ禍によりしばらく休止していましたが、このイベントも名称を「こどもうどん教室」に変更して2024年より期間限定再開。第1弾はゴールデンウィーク期間を対象に、全国10都市の丸亀製麺で実施されます。
昨今は子ども向けの職業体験テーマパークも人気ですが、丸亀製麺が外部施設ではなく自社店舗で実施する理由は、製麺所などの設備が整っていて、なおかつ長時間じっくり体験できるからだと山口社長は話します。
「うどんの手づくりには、水に塩を混ぜ、小麦粉に入れて、混ぜてこねて、足で踏んで、生地をうどんにするという工程があり、それらは数十分で完成とはなりません。私たちとしても、時間をかけてでもその全工程を体験いただきたいという想いがあります。
そして最後に、自分たちで一からつくったうどんを味わっていただくことが真の学びとなり、手づくりやできたての美味しさを実感いただけるものだと思っています。『こどもうどん教室』もまずはゴールデンウィークでの実施ですが、また折を見て期間や店舗数を拡大して今後も実施したいです。立川のような専用施設もどんどん増やしていきたいですね」(山口社長)
ヒットの秘訣は足で稼ぐことと失敗を肯定する社風
冒頭で述べたように、「丸亀うどん弁当」や「丸亀シェイクうどん」といったヒットメニューはどんな着眼点から生み出されているのでしょうか。アイデアの秘訣について聞くと、繁盛店に足を運んで現場を見ることが最も大切だと山口社長は言います。
「飲食店はもちろんですけど、ジャンルは限りません。繁盛店には、お客様が訪れたくなる理由が必ずあるんですよね。例えば、2023年にドライブスルー併設の丸亀製麺をつくった際は、旭山動物園に見せ方のヒントがありました。
当店は製麺や調理工程をお客様から見えるように店舗設計をしていますから、ある種エンターテインメント性も特徴だと考えています。そのワクワク感を、ドライブスルーでも体験いただきたいと思い、活気ある店内が見えるよう店舗のガラス面を増やすなどの設計に生かしました。この見せ方は旭山動物園が参考となっています」(山口社長)
ほかにも、ロードサイド(幹線道路沿い)の繁盛店を見て気付かされたと話すのが、看板の見せ方や店舗の明るさだったとか。
「ロードサイドを利用されるお客様の多くは車で来店されるので、目立つことが大切なんですよね。看板が小さかったり店舗が暗かったりすると、存在感も弱くなってしまいますから。
最近はその点を強く意識しており、改装時に内外観の白い部分を多くするなど明るく見えるようにしています。すると、特に夜間の来客数が増えるなど、実績にもあらわれてくると感じます」(山口社長)
そして、次々と繰り出されるアイデアの源泉には、失敗を恐れずに肯定するチャレンジングな社風があると教えてくれました。
「社内に提案制度があり、月平均で500件ほど挙がっています。中身は商品に限らずオペレーションの改善案などもあるのですが、こうした声を表彰する制度もあり、これらの積み重ねが強みになっていると感じますね。
『丸亀シェイクうどん』は、まさに社内のコミュニケーションから出てきたアイデアです。それこそ、ドライブスルーの店舗をつくろうと考えていた際に、車のドリンクホルダーに入るサイズのうどんがあってもいいのでは?と。そこから、全国提供へと発展していきました。
『丸亀シェイクうどん』が2年目となる今年は、さらにブラッシュアップした『よくばりシェイクうどん』が4月16日から期間限定で登場します。こちらは昨年の企画でお子さまたちと触れ合うなかで聞いた声をもとに完成した、夢の一杯ですのでぜひご賞味ください!」(山口社長)
アイデアメニューは全国各地に種があり、たとえば北海道では一部店舗で鍋焼きうどんを販売したり、九州の一部では肉ごぼう天うどんを提供したり。こうしたテストマーケティングから、全国採用に至るケースもあるとのこと。この春だけでも様々な企画や限定商品を展開するなど、攻めまくっている丸亀製麺。引き続き目が離せません!
写真/中田 悟(人物、丸亀製麺所店舗、武蔵小杉店)