日本三大酒処の東広島・西条は“美酒鍋”や酒チョコも楽しめる地酒のテーマパークだと断言したい
兵庫の灘、京都の伏見と並び“日本三大酒処”に数えられる、広島の西条(さいじょう)。酒都とも呼ばれる背景には、日本酒の醸造や商売に適した自然や立地に加え、酒質を向上させるために尽力した発明家がいたことなどが挙げられます。実際、訪れてみるとそこは地域一帯が、まるで地酒のテーマパークのようでした。蔵元のほかにショップや飲食店など、この街ならではの魅力をレポートします。
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酒都の歴史や文化を五感で楽しめる酒蔵の施設へ
西条は、街歩きを楽しむ観光スポットとしても秀逸。それは、地域を代表する7つの酒蔵が駅から徒歩圏内にあり、古くは江戸時代の建造物も残る伝統的な町並みであること。また、各酒蔵では見学施設や直売所がにぎわっていることも魅力です。
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数ある酒蔵のなかから訪れたのは、1873(明治6)年創業の賀茂鶴(かもつる)酒造。冒頭で述べた発明家のひとりに、日本初の動力式精米機を生み出した佐竹利市氏がいますが、この精米機の開発を依頼したのが賀茂鶴酒造の創業者、木村和平氏です。
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当初から評価は高く、賀茂鶴は1900(明治33)年のパリ万国博覧会で名誉大賞を受賞。さらに1917(大正6)年の全国酒類品評会では日本初の名誉賞受賞、1921(大正10)年には同品評会で全4222点の出品中1〜3位を独占するなど、古くから広島における造り手のトップランナーとして有名です。
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見学室直売所となっている一号蔵は、国の史跡にも指定された明治時代初期の建造物。館内には酒造り解説ムービーの上映や、醸造を身近に体感できる展示コーナー、日本酒や関連グッズなどを販売するショップなどがあり、そこでは試飲も楽しめます。
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賀茂鶴酒造における近年の有名なトピックスが、2014年に来日したオバマ大統領が安倍晋三首相(ともに肩書は当時)と会食した際、銀座の有名鮨店「すきやばし次郎」で飲んだ日本酒が「特製ゴールド賀茂鶴」だったというエピソード。直売所ではこの名酒のほか、蔵元限定酒の購入もできます。
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その蔵元限定酒が「蔵出し原酒」。色艶淡麗にしておだやかな香りの先に、濃厚な風味と軽快ななめらかさがあって飲み飽きない。そんな、賀茂鶴酒造の伝統的な味わいを表現した一本となっています。
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【SHOP DATA】
賀茂鶴酒造 見学室直売所
住所:広島県東広島市西条本町9-7
営業時間:10:00〜18:00(入場17:45まで)
休業日:お盆、年末年始。その他酒まつり前など臨時休業あり
アクセス:JR「西条駅」南口徒歩3分
酒を贅沢に使った西条ならではのご当地グルメ「美酒鍋」
その賀茂鶴酒造が2005年、酒蔵のすぐ近くにオープンしたのが数寄屋造りのレストラン「佛蘭西屋(ふらんすや)」です。西条には酒都らしく、日本酒を贅沢に使った「美酒鍋(びしゅなべ)」というご当地グルメがあり、その元祖もまた賀茂鶴酒造。終戦間もない、食糧難の時代に生まれたといわれるこの料理を名物に、同店では多彩な和洋食を提供しています。
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いまや東広島市内の10店を超える飲食店で提供されている美酒鍋。生み出したのは、賀茂鶴酒造の当時の役員が「蔵人にも腹いっぱいの料理を食べてほしい」との想いで考案したのだとか。つまり、まかない料理がルーツ。その後、1990年から西条で毎年10月に開催されるようになった「酒まつり」で振る舞われ、地元の名物として浸透していきました。
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日本酒仕込みの本番は冬で、厳しい寒さのなかで作業が行われます。この鍋には、そんな酒造り期間を乗り越えるためのレシピが凝縮。肉は栄養価が高い鶏のホルモン(やがて現在の砂肝に)を主体に、野菜は冬に旬を迎える白菜やネギなどを入れていたそうです。
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現在の美酒鍋は、日本酒と塩胡椒のほかニンニクも効かせるなど、現代的な味付けへと進化。具材にも鶏モモ肉や豚肉が加わり、よりコク深いおいしさに。実際に食べてみると、どこか塩こうじで味付けしたような、素材のうまみが凝縮したようなふくよかな味わいに感じました。添えられた卵を溶いて、すき焼きのように浸していただくと、いっそうリッチな芳醇さが楽しめます。
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なお、2024年3月には文化庁が主催の、地域に根付く食文化を応援する「100年フード」の新たな認定料理が発表され、広島ではかきの土手鍋などとともに美酒鍋が加わりました。今後、知名度はいっそう高くなっていくことでしょう。
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ほかにも同店には、日本酒との相性を考慮した様々な料理がラインナップ。西条で贅沢なフードペアリングの体験を満喫したいときは、ぜひ「佛蘭西屋」へ。
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【SHOP DATA】
佛蘭西屋
住所:広島県東広島市西条本町9-11
営業時間:11:30〜14:30(L.O.14:00)、17:00〜22:00(L.O.21:00)
休業日:第2第4月曜、木曜、年末年始
アクセス:JR「西条駅」南口徒歩3分
全酒蔵の酒を使った8種のトリュフを供する洋菓子店
もう一軒紹介したい、ここならではの個性あふれる店が「御饌cacao(ミケカカオ)」。西条町のパティスリー「菓子工房mike」が、開業10周年を機に駅から近い場所に新規オープンしたショコラトリーです。
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「御饌」とは、神社や神棚に献上するお供物のこと。カカオの学名、テオブロマ カカオの「テオブロマ」がギリシャ語で“神様の食べ物”を指す、その共通点から店名に採用されました。他方、日本酒もお清めに使わるなど、神事と深い関わりがあります。そこに込められたのは、「『御饌cacao』の名にふさわしいチョコレート店を目指したい」という店主の決意。その思いはやがて結実し、ほかにはないスペシャリテを生み出しました。
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その傑作が「西条酒8蔵の日本酒トリュフ」。西条が誇る全8蔵元の日本酒と酒粕をそれぞれの中心に練り込んだ、各酒の個性を楽しめるオンリーワンのトリュフチョコレートになっています。2022年度には、市のお墨付き土産「東広島マイスター」に認定されました。
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具体的には日本酒と酒粕をガナッシュに練り込み、薄い4層のチョコレートでコーティング。このレイヤーによって食べた瞬間にチョコが砕け、なめらかなガナッシュと一緒に溶け出す“口福”なハーモニーに。各日本酒の味が最も引き立つよう、それでいてアルコールの風味が出すぎてチョコレートの邪魔をしないよう、ひとつずつ素材との組み合わせや配合を変えているので、香りとうまみが口のなかで絶妙に調和します。
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三宅シェフは本店にあたる「菓子工房mike」にいるため、取材では奥様のゆり子さんが開発秘話などを教えてくれました。例えば、各社から協力を得るまでの経緯。「西条を盛り上げたいという思いがあるので、一社も欠けることなく全蔵元様から許諾をいただくことが私たちの絶対条件でした」と話します。
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「西条に『菓子工房mike』をオープンした当初より、この地から世界へ発信できるスイーツを商品化したいと考えていました。となればやはり西条は銘醸地ですから、地元の蔵元様の協力がいただけたら一番だなと。そこで一社ずつお声がけし、『御饌cacao』の開業時には全8蔵様とのコラボトリュフを完成させることができました」(三宅さん)
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もちろん同店には、その他のスイーツも種類豊富にラインナップ。人気商品の例を挙げれば、「チョコレイトディスコ」がオススメです。このネーミングにピンと来た人はご名答。こちらは、シェフが世界的音楽ユニットPerfume(パフューム)のファンであることから商品化されたスイーツ。名曲「チョコレイト・ディスコ」は、いまやバレンタインデーの新定番ソングとしても有名です。
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ほかにも同店には「甘酒たると」(300円)や「酒蔵通りの日本酒ケーキ」(270円)といった、西条ならではのスイーツをはじめ、ビーントゥバー(カカオ豆の産地の違いを楽しめる板チョコレート)やチョコレートドリンクなども。さらに、カカオを使ったメキシコの「モーレ」風カレー(1100円)や、パフェにカクテルといった個性派メニューも盛りだくさん。イートインでくつろげる座敷も併設されているので、ひと休みスポットとしての利用にもオススメです。
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【SHOP DATA】
御饌cacao
住所:広島県東広島市西条本町15-25
営業時間:水〜金曜11:00〜18:00、土・日曜祝日11:00〜17:00
休業日:月・火曜
アクセス:JR「西条駅」南口徒歩4分
西条では前述の「酒まつり」が毎年10月に開催されるうえ、4月にも毎週土曜に現地の10蔵による「東広島蔵開き」が開催。この日はエリア内の酒造が蔵開きを順に行い、新酒を味わえたり杜氏から酒造りの話を直接聞けたりできます。ぜひ今度の休みは、この地へ足を運んでみてはいかがでしょうか。
※価格表記はすべて税込みです。
※「御饌cacao」の価格表記はテイクアウト時のものです。
※情報は2024年3月末日のものです。
撮影/鈴木謙介