宇宙は加速度的に膨張を続けており、そのことはジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡による観測でも裏付けられています。宇宙の膨張を加速させている力の候補として、ダークエネルギーの存在が示唆されていますが、新しく「別の宇宙を吸収して膨らんでいるから」とする説が提唱されました。

Is the present acceleration of the Universe caused by merging with other universes? - IOPscience

https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1475-7516/2023/12/011

Our universe is merging with 'baby universes', causing it to expand, new theoretical study suggests | Live Science

https://www.livescience.com/space/cosmology/our-universe-is-merging-with-baby-universes-causing-it-to-expand-new-theoretical-study-suggests

宇宙の膨張スピードが次第に速くなっているということは、ビッグバンの残光である宇宙マイクロ波背景放射の研究によって明かされました。この観測事実を宇宙理論に当てはめるため、物理学者らは「宇宙を満たす未知の力、ダークエネルギーが宇宙を押し広げている」と仮定していますが、それを確かめることが一向にできない中、多くの天体物理学者らは他の可能性に目を向け始めています。

2023年12月12日付の学術誌・Journal of Cosmology and Astroparticle Physicsで発表された研究で、科学者らは「宇宙の膨張は他の宇宙との衝突と融合を繰り返すことで引き起こされている」という考えを提唱しました。



論文の筆頭著者であるデンマーク・コペンハーゲン大学の物理学者のヤン・アンビョルン氏は、科学系ニュースサイトのLive Scienceに「私たちの研究の主な成果は、謎のダークエネルギーが宇宙の加速膨張を引き起こしているとする代わりに、いわゆる『赤ちゃん宇宙』との合体という、よりシンプルで直感的な説明ができるかもしれないということです。そして、そのための宇宙モデルは標準的な宇宙論モデルよりも観測データとうまく合致する可能性があります」と述べました。

私たちの住む宇宙が別の宇宙と相互作用しているという考え方は、これまでにも提唱されてきましたが、アンビョルン氏と東京工業大学の綿引芳之氏は今回新しく、他の宇宙が私たちの宇宙の進化に与える仮想的な影響を探る数学的モデルを開発しました。そしてその数式から、他の宇宙とこの宇宙との合体が宇宙の体積を増加させることと、それが人類の観測機器によって宇宙の膨張と認識されうることが導き出されました。

研究チームが実際にこの理論を使って宇宙の膨張速度を計算したところ、その結果は従来の宇宙論モデルよりも観測結果に近いものだったとのことです。

しかも、この理論は宇宙のインフレーションの問題に対処することも可能です。人類が住むこの宇宙は、ビッグバンで誕生した直後の数ミリ秒で指数関数的な膨張を遂げたとされており、これまでは「インフラトン」という仮説的な場によってインフレーションが起きたと説明されてきましたが、このインフラトンもまだ正体がはっきりしていません。



一方、新しい理論では「私たちの初期の宇宙がいきなり膨張したのは、より大きな『親宇宙』に吸収されたから」だということが示唆されます。より大きな宇宙に飲み込まれて急激に大きくなった私たちの宇宙は、その後も小さな赤ちゃん宇宙を飲み込み続けながらどんどん大きくなり、現在に至っているとのこと。

これまでのところ、宇宙が合体する過程が詳細にわかっていないため、この理論が提唱しているようなシナリオが実現するかは確かめられていませんが、綿引氏はLive Scienceに「ユークリッド望遠鏡とジェイムズ・ウェッブ望遠鏡の観測によって、どのモデルが現在の宇宙の膨張を最もよく記述しているかの決着が付くと確信しています」と話しました。