【元警察官に聞く】位置情報共有アプリは危ない? 便利すぎるアプリを安全に使う術
SNSを起点として犯罪に巻き込まれた未成年数の数が2023年で1663人に上ると、2024年2月に警察庁が発表した犯罪情勢で明らかになりました。過去10年で最も件数が多かった2018年の2082人に比べると2割以上の減少。過去10年では3番目の少なさにはなっていますが、警察庁としては「依存として高い水準で推移している」と位置付けています(参照:警察庁)。
事犯の内訳は、2023年分が未発表のため2022年分の統計で紹介すると、被害者が最も多いのが「児童ポルノ禁止法」(658人/前年比0.2%増)。「青少年保護育成条例」(583人/前年比12.3%減)、「児童買春禁止法」(321人/前年比4.5%減)と続きますが、横ばいまたは減少傾向にあります。一方、重要犯罪として位置付けられる強制性交等は44.1%増、強制わいせつは52.9%と大幅に増加しています。
端末はスマートフォンを起因としたものがほとんどであり、被害に遭った90%近くが中学生と高校生です。昨今はこれまで定番だったSNSに加えて、新しいタイプのSNSも増加。特に10代に人気のアプリも出てきています。今回は昨今人気となっている「位置情報共有アプリ」を紹介していきます。
位置情報共有アプリは若年層を中心に人気が高く、ナイル株式会社が10代の男女2176人を対象に行った調査によると、2023年7月時点で10代の約7割が位置情報共有アプリを利用しているといいます。用途は相手と待ち合わせをするときが最も多く、次点で特定の人間の位置情報を確認したいとき、暇なときと続きました。
大人数で集まるときに便利なほか、防犯・安全対策としてスマホにアプリを入れている人も多いでしょう。しかし、その利便性ゆえに犯罪に悪用されるケースも見受けられます。
位置情報共有アプリを使う際の注意点や、アプリを悪用した犯罪のケースについて、18年の警察経験を持つ佐藤卓也氏に聞いてみました。
便利なアプリの影に潜む犯罪
佐藤氏によると、「位置情報を共有できるアプリを利用して相手とトラブルになり、相談を受けるケースが年々増えている」とのことです。
「2022年に北九州市で起きた母娘殺傷事件では、被害者の居場所の特定を目的として、加害者が位置情報アプリを利用した可能性が高いとみられます。被害者の女子高生と加害者の少年はSNS上で知り合い、直接の面識はありませんでしたが位置情報アプリでお互いの居場所を共有していたそうです。 当時は、当該アプリの是非がワイドショーで取り沙汰されるほど社会問題にもなりました」(佐藤氏:以下敬称略)
実際に佐藤氏が担当した案件にも、似たようなケースがあったといいます。
「私が相談を受けたなかで印象的だったのが、女子大学生がSNSを通じて知り合った男性に好意を持ち、位置情報を含めた個人情報を渡してしまい事件に発展したケースです。SNSでやりとりを続けていくうちに女性は男性に対して違和感を持ち、コメントを返さなくなりましたが、ある時から男性はストーカー行為をするように。女性から相談を受け、出来事の記録を取ることや落ち着くまでは通学路や拠点を変更することを促しましたが、大事になるとは思わなかった女性はそのまま過ごしてしまい、結果として自宅に乗り込まれてしまったのです。
幸いにも女性は無事で、男は逮捕できましたが、SNSの情報から事件に発展した記憶に残るものでした。
このように、ストーカーやリベンジポルノに発展した事例がありますが、どれも軽い気持ちが発端となっています。被害者側から頼まれてもいないのに情報を発信しているケースが多くあります。」(佐藤)
実際にアプリを利用する際に、どのような点に気をつければいいのでしょうか。
「一つの有効な対策は、位置情報のアクセス権限に配慮することです。位置情報公開アプリの中にはGPS情報の公開範囲を自ら設定できる種類も多くあります。閲覧できる人物を家族や友人など親しい間柄に制限し、第三者が位置情報を取得できないよう工夫することを勧めます。また、位置情報が共有され続ける時間が長くなるほど、知らない人間に居場所を特定されるリスクも上がります。アプリの起動中のみGPSが機能する設定に変更しておけば、安全性の向上を期待できます」(佐藤)
一般的なSNSでも注意が必要
位置情報アプリのみならず、写真共有アプリなどのSNSからも情報が抜き取られる可能性があり、注意が必要だと佐藤氏は説明します。
「別の事例では、SNSで画像をやりとりして、その画像内に位置情報が含まれていたため、自宅がバレてしまい犯罪に発展したケースもありました。画像内の位置情報で重要な情報が漏れてしまうのは徐々に認知が広まっていますが、位置データを消し忘れたり、設定の変更を忘れてしまっていたりといったケースがあります」
また、SNSの場合、アカウントを乗っ取られ、個人の特典や機能を勝手に使われることもあります。過去にはIDやパスワードを見破られてしまい、LINEのオンラインギフトカードが搾取される事例がありました。その他、SNSでやり取りした相手と安易に位置情報アプリの連絡先を交換し、個人情報を搾取されるケースもありました。アプリのアカウントIDをSNSに公開したり、位置情報が表示されたスクリーンショットを迂闊にネットで晒したりするのも絶対にNGです」(佐藤)
加えて佐藤氏は、位置情報共有アプリやSNSの使用の際は、不正ログインを防ぐためにIDやパスワードの使いまわしは厳禁だと強く念押ししました。
位置情報共有アプリは、中高生に人気なだけではありません。子どもの安全を守るためにアプリを入れる家庭や、認知症を発症した老人の徘徊防止や介護を目的とした利用もあり、その用途や使用年齢は幅広いです。
正しい使い方ができてこそ真価を発揮するのが位置情報アプリといえるでしょう。