ヤクルト山田哲人が語る「モチベーション維持の難しさ」 WBC、五輪、日本一を経験後の原動力
ヤクルト・山田哲人インタビュー(後編)
ヤクルト・山田哲人のこれまでの経歴はまぶしい。侍ジャパンの一員として、東京五輪(2021年)で金メダル、第5回WBC(2023年)では世界一に貢献。またヤクルトの看板選手としても、2021年に日本一。そのシーズン後、7年の長期大型契約を結んだ。年俸は、出来高も含めれば総額40億円に達することになる。そして、前述のように打ち立てられた個人記録の数々......。これから何をモチベーションにするのか、そこが見えづらくなったりすることはないのだろうか。
プロ14年目を迎えた山田哲人 photo by Koike Yoshihiro
「もちろん、そこは難しいですし、そのとおりなんですけど......なんて言うんですかね、達成感とか関係なく、やっぱりシンプルに結果を残したいと思うんですよね。みんなに見てもらっていますし、そこで頑張るためにも、今年もキャプテンでいさせてもらいました」
今シーズンは通算300本塁打や通算200盗塁といった節目の記録が近づき、山田自身はゴールデングラブ賞を目指している。
「通算記録はそんなにこだわっていませんが、ゴールデングラブ賞は毎年のモチベーションになっています。正直、2000安打を打ちたいなと思ったこともないですし、やっぱり僕はシーズンの成績を重視していますので。そういう意味で、キャプテンになって1年目はそれほど成績が悪くなかったんですけど、2年目、3年目はよくなかったので、今年は個人成績を上げることをモチベーションにしています」
オフに今までやったことのないトレーニングを取り入れたというニュースを知った時は、新鮮な驚きがあった。山田は打撃フォームや道具など、"変えない"というイメージがあったからだ。
「変えてもいいんですけど、それでよくなるかと言われても正解じゃないかもしれない。よく『変える勇気』という言葉を聞きますけど、『変えない勇気』だってある。言葉の難しさというか、結果がよければ正解になりますし、悪かったら失敗となる。自分は思った方向でやるだけで、こっちがいいなと思えばそれをやるだけです」
【トリプルスリーは永遠の目標】2014年、山田にどういう野球選手になりたいかと聞くと、「目指しているのは長打があり、時にしぶといバッティングをする。つまり、相手から嫌がられる選手になりたい」という答えが返ってきた。あれから10年、今はどういう野球選手を目指しているのだろうか。
「そこは今も変わらないですね。相手ピッチャーから嫌がられたり、守っている選手から嫌だなと思われるだけでも、配球だったり、コントロールがバラついたり、こっちにとってはプラスに働くので。これからもそういうバッターになりたいと思っています」
これまで驚きの記録を並べてきた山田だが、「トリプルスリーは永遠の目標です」という観点で見れば、最年長達成記録は岩本義行(松竹ロビンス/1950年)の38歳となっている。今年32歳になる山田に「まだまだ先の話ですけど......」と向けると、「さすがに38歳は無理じゃないですか」と苦笑いを浮かべた。
「そこまでは想像できないですけど、僕はスピードを生かして野球をするのがもともとのスタイルなので、そこは長所にしたいですし、そこを目指して頑張りたいと思っています」
浦添キャンプでは、グラウンドでの打撃練習を終えると室内練習場に場所を移し、打撃投手相手に打ち込む日々を過ごしている。ひと振りひと振りの眼光は鋭く、若い頃の練習風景とはまた違う雰囲気を漂わせていた。
郄津臣吾監督は、今キャンプでの山田の印象について「彼の心の中は本人にしかわからないので、こちらは表情や動きからしか確認できないんですけど」と前置きして、こう答えた。
「あきらかに10年前と違うところが何カ所かあると思います。そこに気づいて修正していこうとするのか、ほかの部分を伸ばそうとしていこうとするのか。それぞれの考え方があって、どれが正解かとは言いづらいですが、そこは彼にしかわからない部分だと思います。チームにとって、彼がふつうにセカンドを守ってくれて、3番を打ってくれるのが一番の立ち位置だと思っていますし、彼の代わりはいないと思っています」
室内での打撃練習は、時に恐怖を感じるほどの迫力がある。猛烈なスイングスピード、強烈な打球音、体のキレのよさ......打撃投手があまりに強い打球に体をのけぞらせるシーンもあったほどだ。
山田は充実の表情を浮かべ、次のように語った。
「ここまで手応えは感じています。このキャンプを通してのテーマは"力強さ"で、思いきりスイングしようとやっています。いろいろ探りながらとか、丁寧にやるとかではなく、しっかりフルスイングしながらバッティングを磨いていくというか、やりたいことができています」
力強いスイングは、やがて右の手のひらにできたマメを潰した。これは状態のいい証なのだという。昨年は大きな不振に陥った山田だったが、今年は「これが山田哲人だ」というプレーを見せてくれるに違いない。
山田哲人(やまだ・てつと)/1992年7月16日、兵庫県生まれ。履正社高から2010年ドラフト1位でヤクルトに入団。14年に日本人右打者最多のシーズン193安打を放ち、15年にはトリプルスルーを果たし、チームの14年ぶり優勝に貢献。史上初の本塁打王と盗塁王のタブルタイトルを獲得し、MVPにも輝いた。16年は史上初の2年連続トリプルスリーを達成。18年にも3度目のトリプルスリーを果たした。21年からキャプテンに就任。同年夏、日本代表として東京五輪で金メダルを獲得。23年は第5回WBCに出場し、世界一に貢献した