メジャーキャンプ直前の2月上旬。昨年3月に侍ジャパンがWBCで世界一に輝いた舞台(マイアミのローンデポパーク)でラテンアメリカ野球最大の祭典が行なわれた。その祭典とは、ウインターリーグの各国チャンピオンが集うカリビアンシリーズだ。

 かつては大物メジャーリーガーも参加していたウインターリーグだが、選手の年俸が天文学的な数字となった昨今、最高でも月100万円ほどの報酬のためにプレーすることはない。ここに集うのは、メジャーへの昇格を目指すマイナーリーガーか、FAとなって次の行き先を模索中のベテランメジャーリーガー、さらに北半球のプロリーグでプレーできない地元選手たちだ。

 それでも各リーグのチャンピオンが冬の王者を決めるこの大会は、各国とも補強選手制度を最大限に使い、"ナショナルチーム"を編成して臨む。ひと昔前までは、この大会に参加するのはベネズエラ、ドミニカ共和国、プエルトリコ、メキシコの"ビッグ4"のみだったが、ここ数年はウインターリーグを復活、もしくは新たに創設させた国も参加するようになり、大会はより注目を浴びるようになってきた。


カリビアンシリーズに参加したウラディミール・バレンティン photo by Asa Satoshi

【昨年WBCでもオランダ代表で参加】

 今年は、昨年WBC本戦に初出場を果たしたニカラグアと、前年セミプロリーグとして初参加し、この冬にプロリーグを発足させたキュラソーが参加した。

 カリブ海に浮かぶオランダ領のキュラソーは、今や「メジャーリーガー製造工場」と呼ばれるほど多くの選手をMLBに送り込んでいる。近年、世界の強豪国のひとつに数えられるようになったオランダだが、ナショナルチームのメンバーの多くはこのキュラソーにルーツを持っている。

 今回のカリビアンシリーズのメンバーにも、ジョナサン・スコープ、ディディ・グレゴリウス、アンドレルトン・シモンズ、ジュリクソン・プロファーといった錚々たる顔ぶれが名を連ねた。

 その豪華メンバーのなか、打線の中核を担ったのが、かつてヤクルト、ソフトバンクでプレーし、ヤクルト時代の2013年に日本プロ野球シーズン本塁打新記録となる60本塁打を放ったウラディミール・バレンティンだ。

 2011年から11シーズン日本でプレー。ヤクルト時代は3年連続ホームラン王に輝くなど強烈なインパクトを残し、2020年からソフトバンクに移り、2021年シーズン後に日本球界を去った。

 この時、37歳。"現役引退"をほのめかしていたが、翌年の春にはメキシカンリーグ入りが伝えられた。しかし成績が振るわず、開幕後、ひと月ほどで戦力外となった。それでもナショナルチームに合流し、同年夏にオランダで行なわれたハーレム国際大会に出場。社会人日本代表の前に立ちはだかった。

 そして昨年開催されたWBCを最後の花道と定め、ドミニカのウインターリーグに参加し東京ドームを目指したが、台湾での1次ラウンドを突破できず、日本のファンの前にその姿を見せることはなかった。

【今さらファンもオレを求めていないだろう】

 そのバレンティンだが、現在はマイアミで悠々自適の生活を送っているようだが、キュラソーがカリビアンシリーズに出場することになり、声がかかったのだという。

 この冬に発足したキュラソーリーグは、たった3チームが12試合の公式戦を行なうだけのミニリーグで、今回は大幅な選手補強枠をもらっていたようだった。バレンティンはこの冬、母国のリーグには参加することなくメキシコのウインターリーグでプレーしていたのだが、カリビアンリーグは「キュラソー・サンズ」の一員として参加。

 このシリーズ、バレンティンは絶好調だった。バッティング練習ではスタンドにポンポンと放り込み、予選ラウンドにあたる総当たりの「ラウンドロビン」では打率.391、ホームラン2本と主軸の役割を果たした。

 しかし決勝トーナメントに入ると、7打数1安打と当たりが止まり、チームも準決勝で敗退。3位決定戦にも敗れ、4位に終わった。それでもバレンティンは大会ベストナインに輝くなど、39歳の今もまだ健在であることを示した。

 チームメイトたちは、これから所属先を探すことになる。ある意味、メジャー球団のスカウトが集まるカリビアンシリーズは、次の契約を勝ちとるためのショーケースとなる。しかしバレンティンは、そのままマイアミで家族と過ごすことを選んだ。試合後、妻と愛息の出迎えを受ける彼の姿を見ると、「もう野球はウインターリーグだけで十分」というスタンスであることが伝わってくる。

 3月上旬には、オランダのカリブ勢も多く参加するヨーロッパ選抜チームと侍ジャパンのテストマッチが組まれているが、バレンティンは今のところ参加する予定はないという。

「今さらファンもオレを求めていないだろう」

 そうバレンティンは語るが、気まぐれな彼のことだ。いざシーズンが始まれば、世界のどこかでバットを振っているかもしれないし、ひょっとすると侍ジャパンの前に現れるかもしれない。