久保建英のカウンターがPSG撃破のカギ CLベスト8進出へ「右サイドからの攻撃」が突破口となる
いよいよ注目のチャンピオンズリーグ(CL)・ラウンド16の戦いが始まっている。興味深いカードが目白押しとなっているが、そのなかでも日本のサッカーファンが楽しみにしているのが「パリ・サンジェルマン(PSG)対レアル・ソシエダ(ラ・レアル)」ではないだろうか。
このカードの第1戦は、現地時間2月14日(日本時間15日未明)にPSGの本拠地パルク・デ・プランスで行なわれる。だが、アジアカップの決勝戦が現地時間10日に予定されていたため、当初は直前までカタールにいることが予想された久保建英の出場は絶望的と見られていた。
しかし、日本代表が準々決勝でまさかの敗退を強いられると、久保は急遽スペインに戻ってチームに合流。コパ・デル・レイ準決勝第1戦のマジョルカ戦(現地時間6日)、続くラ・リーガ第24節のオサスナ戦(現地時間10日)と、公式戦2試合連続でフル出場を果たしている。
久保建英のドリブル突破をPSGも恐れている photo by AFLO
カタールからの移動後、5日間で2試合を戦ったことについて言えば、たしかにコンディション面の心配もある。軽傷とされるものの、マジョルカ戦では打撲もしている。
しかし、現在多くの故障者を抱えるラ・レアルのチーム状況からすれば、久保を休ませる余裕はない。中3日で迎えるアウェーでのPSG戦でも、2029年夏までクラブとの契約を更新したばかりの久保がスタメンに名を連ねるのは確実と見られる。
戦前の予想では、近年のCL決勝トーナメントの常連でもあるPSG優勢と見る向きが圧倒的だ。だが果たして、ラ・レアルがホームチームにひと泡吹かせる可能性はあるのか。また、久保の活躍は期待できそうなのか。そのポイントを探るために、今シーズンからルイス・エンリケ監督が指揮するPSGの現状から紹介したい。
まず大前提として、PSGはクラブの方針により、一昨シーズンからチーム編成のコンセプトが大きく変わっている。
【今のPSGには経験を生かせる人材が少ない】一般的には、FWネイマール(現アル・ヒラル)やFWリオネル・メッシ(現インテル・マイアミ)ら大物が勢ぞろいして来日した"新銀河系軍団"のイメージが強く残っているかもしれない。だが、この2シーズンで新陳代謝が進行。将来有望な若手を中心に補強を展開する一方で、昨夏にはメッシやDFセルヒオ・ラモス(現セビージャ)をはじめ、6シーズンにわたってチームの中軸を担ったネイマールも手放した。
たとえば昨夏に獲得した新戦力を見ても、計算できる即戦力はDFリュカ・エルナンデス(28歳)、DFミラン・シュクリニアル(29歳)、FWウスマン・デンベレ(26歳)、FWマルコ・アセンシオ(28歳)で、そのほかはMFマヌエル・ウガルテ(22歳)、MFイ・ガンイン(22歳)、FWランダル・コロ・ムアニ(25歳)、FWブラッドリー・バルコラ(21歳)、ゴンサロ・ラモス(22歳/ローン)といった若い面々。今冬も、ブラジル人のDFルーカス・ベラウド(20歳)とMFガブリエウ・モスカルド(18歳/今夏に合流予定)を青田買いした。
今季これまで出場時間が多いほうの選手のなかで、30歳以上はCBとしてプレーするMFダニーロ・ペレイラ(32歳)のみ。20代前半から半ばの選手を中心に新しいチーム作りが進められており、その点では過去11シーズンのCLにおける経験値を生かせるような陣容ではない。
事実、今シーズンのグループステージではニューカッスルに1度も勝てず、終わってみれば2勝2分け2敗。何とか2位通過を果たしたが、その苦戦ぶりはチームの実状を如実に示していた。つまり、経験がモノを言うCL決勝トーナメントの戦いではあるが、10年ぶりのCL参戦となったラ・レアルと大差はないと見ていいだろう。
そんななか、カタールW杯でスペイン代表を率いたルイス・エンリケ監督が開幕前から浸透させようとしているのが、ポゼッションスタイルだ。
【マンチェスターCを目指した可変システムの完成度は?】基本布陣は4-3-3だが、シーズン前半戦は3-4-2-1や4-4-2もトライ。そしてCLグループステージ突破を決めてからは、ボールを保持する時に4-3-3から3-2-4-1(3-2-2-3)にスライドする「可変システム」に挑戦している。
ペップ・グアルディオラ監督のマンチェスター・シティを目指しているわけだ。しかし、アフリカ選手権に参戦した右SBアクラフ・ハキミの不在期間が長かったこともあり、完成度は高くない。
とりわけ、ネガティブトランジション(攻撃から守備への切り替え)が最大の弱点で、リーグ・アンの試合でも脆弱なディフェンスが露(あらわ)になるシーンが散見される。しかも、守備の要マルキーニョスの不調が続くうえ、負傷離脱中のCBシュクリニアルの復帰は3月の見込み。また、復帰間近の左SBヌーノ・メンデスも第1戦には間に合いそうもなく、現在は冬に補強した若手ブラジル人のベラウドをCBや左SBで使い回さざるを得ない状況だ。
もしルイス・エンリケ監督がラ・レアル戦でも可変システムを採用するなら、予想されるスタメンは、GKジャンルイジ・ドンナルンマ、DFは右からハキミ、マルキーニョス、リュカ・エルナンデス、ベラウドの4人。中盤は底にファビアン・ルイス(またはウガルテ)、左にヴィティーニャ、右にワレン・ザイール=エメリ。前線は右にデンベレ、左にバルコラ(またはコロ・ムアニ)、1トップにキリアン・エムバペといった11人になる。
ちなみにアジアカップを戦い終えたばかりのイ・ガンインは、合流後の休養期間が設けられているため、第1戦でスタメンを飾る可能性は低い。
以上のメンバーで3-2-4-1に可変すると、最終ラインは右からマルキーニョス、リュカ・エルナンデス、べラウド、ダブルボランチはザイール=エメリとファビアン・ルイス、2列目は右からデンベレ、ハキミ、ヴィティーニャ、バルコラ、1トップにエムバペとなる(ザイール=エメリとハキミが入れ替わるパターンもある)。
【久保建英がPSG戦のキーマンとなる最大の理由】では、ラ・レアルはどのようにしてPSGを攻略すべきか。
ひとつは、PSGのビルドアップ時にハイプレスを仕掛けることだ。特にGKドンナルンマの足もとの不安定さは相変わらずで、今シーズンも度々ビルドアップでボールを失ってピンチを招くシーンは多い。抜群のシュートストップ能力とは裏腹なその弱点を徹底して狙うべきだろう。
もうひとつが、PSGが3-2-4-1に可変した時、いかに効果的なカウンターアタックを仕掛けられるかだ。特に3バックの左を担当するベラウドは、ヨーロッパ初挑戦の若手DF。将来有望なタレントではあるが、いかんせんまだ経験が浅く、デュエルにも強くない。つまり、ラ・レアルから見て右サイドからのカウンターが有効になる。
そこでカギを握るのが、右ウイングを担当する久保の存在だ。
ドリブル突破を得意とする久保にとって、対峙する相手がリュカ・エルナンデスだと厄介な部分もあるかもしれないが、ベラウドならば勝機は十分。カウンター時はもちろんだが、PSGが4-3-3で守る時でも積極的に仕掛けたい。
PSGはクロス対応に難を抱えるため、カットインからの左足シュートを見せつつ、縦突破からのクロス供給も大きな武器となるだろう。逆に左サイドからのクロス供給に対しては、久保がフィニッシャーとしての力を発揮する絶好のチャンスにもなる。
もちろん、PSGにはエムバペ、デンベレ、ハキミなど、チーム戦術を破壊するだけのハイレベルな個の能力を持つ選手は多いので、ノーガードの打ち合いになるとラ・レアルの勝ち目は薄くなる。より勝利の確率を上げるには、ハイプレスと自陣からのカウンターを時間帯や戦況によってうまく使い分け、できるだけロースコアの試合に持ち込みたい。
そのなかで久保が攻撃の突破口になれるかどうか──。そこが勝敗の分かれ目になりそうだ。