高橋克典、『サラリーマン金太郎』の人気爆発で数々の“不思議な体験”。高速でバイク集団が…「左右に道を空けてくれて(笑)」
1993年、『抱きしめたい』で歌手デビューすると同時に、『ポケベルが鳴らなくて』(日本テレビ系)で俳優としても活動することになった高橋克典さん。
『サラリーマン金太郎』シリーズ(TBS系)、『特命係長 只野仁』シリーズ(テレビ朝日系)、『広域警察』シリーズ(テレビ朝日系)など主演ヒットドラマシリーズも多数。映画『新・仁義なき戦い/謀殺』(橋本一監督)、『バイオレンスアクション』(瑠東東一郎)、連続テレビ小説『舞いあがれ!』(NHK)、『正直不動産』(NHK)に出演。
2024年2月16日(金)から『劇場版 マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿 鬼灯村伝説 呪いの血』(光岡麦監督)が公開される高橋克典さんにインタビュー。
◆初ドラマで憧れの緒形拳さんからビンタ
両親が音楽家という家庭に生まれ育った高橋さんは、3歳からピアノの英才教育を受けていたという。
「両親が音楽家だったのでやらされましたけど、僕はちょっとダメでしたね。やっぱり親に習うとあまり良くないです」
――中学、高校ではラグビー部に?
「はい。運動はあまり得意じゃなかったんですけど、からだがちょっと大きくなって、急にからだが動くようになってきたので運動したくなったんですね(笑)」
――その頃、将来目指しているものはありました?
「中学生の頃に文化祭でバンドをやってからは、もっぱらバンド、音楽が楽しくなったので、音楽方面に行けたらいいなと思っていました」
――1993年に『抱きしめたい』で歌手デビューされて。
「はい。でも、当時アメリカン・ニューシネマブームで、音楽と映画が世界観的には近い部分がありました。僕も好きな世界観で。それに影響を受けた日本のテレビドラマなどに影響を受けて育ちました」
――歌手デビューされたのが28歳。それまでの間はどのように?
「ずっとバンドと生きることに必死でした。俳優になろうとは思ってなかったのですが、何の因果か芝居をすることになって(笑)」
――お芝居は全然念頭になかったのですか?
「なかったです。映画は好きでしたけど、自分が演じるということはまったく考えたことがなかった。だから、経験もないし、バラバラに撮っていく撮影の方法とか、現場のことはまったくわかりませんでした。子役からやっている人なんかは、もう自然と知っているわけだけど、何も知らない状態でこの世界入ることになりました」
高橋さんは、歌手デビューと同時にドラマ『ポケベルが鳴らなくて』にレギュラー出演することに。
このドラマは、緒形拳さん演じる主人公の妻子あるサラリーマン・水谷誠司が32歳年下の保坂育未(裕木奈江)と不倫関係になり、それが原因で家庭が崩壊していく様を描いたもの。高橋さんは育未の元恋人・田所恭平を演じた。自分の浮気が原因で育未と破局したのだが、二人の関係を知り水谷を憎悪。腹いせに水谷の長女・梢子(坂井真紀)に言い寄る。
「当時は歌って、そのプロモーションみたいな形でドラマにも出るというのは、結構流行っていたんですよね。僕もその中のひとりでした」
――いきなりドラマに出演ということになって、いかがでした?
「イヤでした(笑)。芝居はやったことがないし、台本の読み方もわからないし…。自分なりにご縁のあった世界でいろいろ垣間見てですけど、自分にとって尊敬できるような先輩たちを発見して、一生懸命真似したりしていましたね。
とにかく現場で学んでいく、それが何より作品の中で活きるとはいうものの、その途中にあるさまざまなことも大きいので、そこに慣れていくのにはすごく力がいりました。
たとえば、初めて出たドラマでは、靴が持ち道具ということもわからなかったので、裸足でセットに入りスタッフさんに怒られたり(笑)。はじめの現場はそんな感じでしたよ。
当時は誰も教えてくれなくてね。もっとスタッフさんも怖かったし、役者さん同士も今の若い子たちと違って、20代の俳優でも男女を超えてすごい緊張感がありましたから、なかなか声がかけづらくて。
でも、ドラマで共演させていただいた主演の緒形拳さんは、僕にとってすごい憧れの俳優さんだったので、そういう意味ではすごくラッキーなこともありました」
――緒形拳さんと一緒の撮影はいかがでした?
「緊張しました。ものすごく自然で、恐ろしいほどの力を感じる方だったので緊張もしましたが、逆にすごく楽な方でもありました。上下関係を気にする方でもなく、あくまでナチュラルな方でしたので。
緒形さんから感じる強いエネルギーと、役者という生き物のさまざまな要素を感じ、それがすごく魅力的で。自分たちもそういう風に過ごせるのかって言ったら、なかなかもう時代がちょっと違って難しいですけどね。ついついよそいき顔をしてしまう自分がいたり。
僕には師匠もいなかったから、一挙一動見ていろいろ盗みたいと、緒形さんの弟子になりたいと思ったときがあったんです。ドラマでご一緒させていただいたときに一度『弟子にしてください』って言ってみたんですけど断られて(笑)。『いや、俺とお前はそういう関係じゃないからいいんだよ』って。
緒形さんには、師匠と弟子の関係というのにすごくイメージがあったようで、『そうなったらこういう風にはいられないかな』って言われて断られました」
――劇中、緒形さんに殴られるシーンは本当に殴られたとか。
「そうです。あれはやっぱりリアルというか、それを出そうということだったと思います。僕が初めてのドラマで、芝居のできない木偶(でく)の坊でしたから、バチーンと殴ったんだと思うんですよ」
――かなり痛かったのでは?
「ものすごく痛かったです(笑)。緒形さんは手が大きくて厚くて、いい手をしているんですよね。それで思いっきりきましたから、憧れの人でもやっぱり『この野郎、何するんだ?』って瞬間的に反応しましたね。
それでも本番中だから、やり返しちゃうとややこしくなるっていうのが頭のどこかにあって我慢するわけですよ。それでカットの声がかかったら監督さんが、『お前、いい芝居していたな』って初めて褒められて。『何なんだ?この理不尽な世界は』って(笑)。
でも、その理不尽ささえも魅力的に感じました。芝居、虚構の世界なんですけど、本気でそこに向かっているのがとても魅力的でした。今、世の中はそっちとは本当に違うほうに来ているからすごく寂しいけど、僕はそういう先輩方を見て育ってきたから、現代的な部分と昔気質が共存する役者なのかもしれません」
※高橋克典プロフィル
1964年12月15日生まれ。神奈川県出身。1993年『抱きしめたい』で歌手デビュー。『ポケベルが鳴らなくて』で俳優デビュー。『サラリーマン金太郎』をはじめ、主演人気ドラマシリーズ多数。映画『竜二Forever』(細野辰興監督)、『アウトレイジ ビヨンド』(北野武監督)、映画『世界の終わりから』(紀里谷和明監督)、『不惑のスクラム』(NHK)、大河ドラマ『麒麟がくる』(NHK)、『大奥』(フジテレビ系)、『特命係長 只野仁』シリーズ(テレビ朝日系)に出演。2024年2月16日(金)に『劇場版 マーダー★ミステリー 探偵・斑目瑞男の事件簿 鬼灯村伝説 呪いの血』の公開が控えている。
◆トレンディドラマは苦手だと思っていた
『ポケベルが鳴らなくて』で俳優活動をスタートした高橋さんは、端正なルックスで人気を集め、次々とドラマに出演することに。
――ドラマに出演されて、俳優としてやっていこうと考えるようになりました?
「はじめの頃は、そうでもなかったですね。トレンディドラマ全盛時代だったので、自分の感覚とはかけ離れた作品が多くてね。『このチャラチャラした世界は何なんだろう?』って思いましたよ(笑)。別にいいんだけど、このバブリーな感じはちょっと合わないなあって。違和感がどうしても埋められなかったですね。
僕は深みや厚みのある方々に憧れていたので、自分の育ちはともかく、薄っぺらく見えたんだと思うんですが、今思うと何もわかっていなかったですね」
――カッコ良くてトレンディドラマも合っていましたね。
「そうですか(笑)。自分では違和感しかなかったけど、ある意味ハマりすぎたのかもしれない。
はじめは本当に違和感がありながらやっていたんですけど、『翔ぶ男』というNHKの作品で再び緒形さんとご一緒できて。『世の中に出たい!』という上昇志向の塊みたいな青年指揮者役をやらせていただいたのですが、そのときに初めて『何かおもしろいな、芝居って』って思ったんですよ。それまでは本当に違和感しかなかったのに、『翔ぶ男』をやって、初めて『芝居もおもしろいな』って思いました」
――ドラマのお仕事はずっと続いていましたね。
「そうですね、ありがたいことに。たまたまあの頃は、ちょっとコンサバな雰囲気のキャラがいなかったんでしょうね(笑)。
でも、ちょっともうトレンディードラマをやることは限界で、男性に向けた作品がやりたいって言っていたら、金太郎の話をいただいたんです」
『サラリーマン金太郎』は本宮ひろ志さん原作の大人気漫画を実写ドラマ化。ヤマト建設に中途仮採用され、漁師をやめて幼い息子とともに上京した元暴走族のヘッド・矢島金太郎(高橋克典)が、サラリーマンとして成長していく様を描いたもの。ケンカが強く、桁外れの度胸を持つ“型破りサラリーマン”金太郎の大活躍が話題に。
「男としてはすごく響くものがありました。本宮(ひろ志)先生はやっぱりすごいですよ。本宮ワールドは、本当に鳥肌が立つようなセリフと、あの遠くを見ている、ずっと憧れ続けている漫画のイメージがあったので、おもしろかったです」
――最初の登場シーンからインパクトがありましたね。スーツに抱っこひもをかけて子どもを背中におんぶして。
「そうそう。チャラい感じでしたけど、原作のお話が良かったですからね」
――筋が通った熱い男でカッコ良かったですよね。周りの人たちの反応もかなりすごかったのでは?
「そうですね。金太郎のときは、本当に人気がありましたね(笑)。1999年に始まって2004年までかな? 映画にもなって。金太郎のときは、元暴走族のヘッドという設定だったので、ずいぶん町でもそういう人たちに声をかけられましたね。不思議なことがたくさんありました」
――絡まれたりすることも?
「絡まれたこともありますけど、逆によくもしてもらいましたよ。慕われてというか(笑)。疲れていたから新幹線で背もたれを倒したら、後ろの座席の人に椅子を蹴られて。後ろを振り返ったら、『何だ、金ちゃんか。お前だったらいいや』って、優しくしていただいたりね(笑)。
高速道路を運転していたときにトイレに行きたくて急いでいたら、ものすごくゆっくりノロノロ走っていて。何とか前のほうまで行ったら、暴走族が横に広がりながらゆっくり走っているんですよ。進めないの。
こっちはもうトイレに行きたくてたまらないからクラクションを鳴らしたら、『んっ?!』って睨まれて。やばいなと思ったら、僕だと気が付いて『金ちゃんだ!』ってパーッと左右にわかれて道を空けてくれて(笑)」
――まるで映画の1シーンみたいですね。
「そう。何かそんな不思議なことがたくさんありましたよ」
――曲がったことは大嫌い、仲間想いで熱い正義の男・金ちゃんカッコ良かったですね。
「本宮ひろ志ワールドはすてきな心で溢れていますから。それから魅力のある男の役をたくさんやらせていただきました。撮影も本当に楽しかったですよ」
――金ちゃんで爆発的に知られることになりましたね。
「そうですね。金太郎のイメージがすごく強くて、本当に世の中に金太郎っていう人が存在しちゃって、僕はもうそれだったんですよね。僕を見ると『金ちゃん』、『金ちゃん』って。
地方のコンビニに行っても、ちっちゃい女の子が『金ちゃんだ。パパ、金ちゃんがいるよ』って(笑)。小さい子どもも見ているから、そういう不思議な体験もしました。あまりにそのイメージが強いというので、俳優としては数年後には何かちょっと違うものをやりたいと思うようになっていきました」
高橋さんは『サラリーマン金太郎』シリーズに出演しながら、映画『竜二Forever』、映画『新・仁義なき戦い/謀殺』に出演。ヤクザ映画は前からやってみたいと思っていたという。
そして、2003年『特命係長 只野仁』シリーズに主演。「会長直属の特命係長として、さまざまなトラブルを解決する」というもう一つの顔を持つ窓際係長・只野仁を演じ、キレのいいアクションシーンと肉体美も話題に。次回は撮影エピソード&裏話も紹介。(津島令子)
ヘアメイク:佐藤健行(HAPPS)
スタイリスト:小川カズ