箱根駅伝で國學院大5位の原動力は2年生 ゴール後に涙も頂点を目指して前を向く
「目標は3位以内」
今回の箱根駅伝で國學院大が掲げた目標だが、往路は6位、復路5位で総合5位に終わった。大会前、前田康弘監督は「3本柱と2年生世代の活躍」をキーポイントに挙げていた。
第100回箱根駅伝で5区を走る國學院大2年生の上原琉翔 Photo by AFLO
3本柱とは伊地知賢造(4年)、山本歩夢(3年)、平林清澄(3年)のことで、2年生は青木瑠郁、上原琉翔、高山豪起、鎌田匠馬、嘉数純平の5選手だ。2年生は、全日本大学駅伝で3区から6区までの4区間を同期で襷をつなぐなど、チームの中軸になり、「4年になったらてっぺんを取ろう」と常々言い合っている。それを実現するためにも今回の箱根では、それぞれが結果を出すことが求められた。
果たして2年生の活躍は、どうだったのか――。
上原は昨年の箱根駅伝では7区6位、順位を4位から3位に上げる好走を見せた。今回は山の5区を担った。
「昨年の箱根は、最低限の役割は果たせたと思っています。今年は、どこを走るにしろ、区間賞というのを目標にしているので、そういう走りをしたいですね」
5区での出足は悪くなかった。5位で襷を受け、函嶺洞門(3.5キロ)では、前を走る緒方澪那斗(東洋大2年)と34秒差だった。そこから上位を伺う走りを展開する予定だったが......。
箱根前、上原は全日本大学駅伝で2年生4人で襷渡しができたことを非常に喜んでいた。
「みんな、区間5位内の走りができていましたし、チームの3位に貢献できました。これで2年生の学年全体がすごくいいムードになりました。僕らの代は、すごく仲が良くてケンカもほぼない。でも練習では積極的に走る気持ちの強い世代だと思います」
上原は、2年生の個々の選手についてこう分析してくれた。
「瑠郁は、学年トップでいつも先頭を走り続け、ダメなものはダメとはっきり言ってくれるし、非常に練習熱心です。高山は性格的には少し抜けているところがあるけど、練習になるとやり過ぎてしまうぐらいで、バカ真面目ですね。鎌田はいつもは控えめですけど、ロードになると強い。嘉数は沖縄で中学から一緒で物静かですけど、練習になると上を目指すという意識で取り組んでいます。沖縄はそこまで陸上が盛んではないので、ふたりで盛り上げていこうとよく話をしています」
ふたりでの箱根出走は叶わなかったが、上原は難しい5区を17位で走り切り、順位をひとつ下げて6位で終えた。チームの学年長であり、これからも國學院大の主力のひとりであることは間違いない。この悔しさを糧に来シーズン、どこまで成長できるか。
鎌田は、復路8区を任された。
「自分のウリはスタミナと安定感。あとはひとりで淡々と走れるところです。中学時代から単独走が好きで、ひとりで練習していました。練習では先頭で引っ張ることが多く、誰かの力を使って走るよりも自分でペースを作って走るのが好きなので、箱根は復路の後半区間をイメージしています」
鎌田は1年時は半年以上ケガに苦しみ、まともに走れなかった。手応えを感じられたのは2年の夏合宿を終えた頃だ。「どこの区間でも行ける」と思えるぐらい、調子が上がり、出雲や全日本は出走できなかったが、箱根は外さないように慎重に調整してきた。その結果、鎌田は8区を任され、同期3名との出走が決まった。
2年生について、鎌田はどう見ているのだろうか。
「自分たちの代は強い選手が多いですし、和気あいあいというか、仲が良いです。そこは3、4年生と雰囲気がちょっと違うと思います。上原は学年長でしっかりしているし、周囲にすごく気配りができる優しい奴で、瑠郁は普段はクールなんですけど、心に熱いものを持っている。豪起と純平は普段はのほほんとしているんですけど、試合に向けてハメてくる力がすごいです。自分は俺が俺がというよりもかなり控えめな性格です(笑)」
控え目な性格だが、負けず嫌いだ。今回の箱根は駒澤大に負けたくないという強い気持ちで出走した。勝負飯は小豆餅で、中学の時からレースの前に食べているという。結局、64分58秒で区間6位、國學院大新記録というすばらしい走り。自らの役割を果たすと、レース後は疲れを見せず、チームメイトと談笑していた。
10区、アンカーを任されたのは、高山だった。
昨年の箱根駅伝は8区13位と苦しんだが、今年はそこで見えた課題を克服してきた。
「昨年の箱根は、本当に悔しかったです。その時は単独走が苦手で、今年は単独走でも勝負できるようにとひとりで走るだけじゃなく、いいイメージを持って走るなど工夫して取り組んで来ました。その結果、出雲(5区)も全日本(4区)も単独走に近かったんですけど、ともにしっかり走ることができたので、単独走の苦手意識はなくなりました」
出雲では5区4位、全日本は4区4位と好走し、箱根は単独走メインの10区に置かれた。トラックよりもロードが好きで、いずれマラソンに挑戦したいという。タイプ的には駒澤大の山川拓馬(2年)に似ているが、高山も意識しており、「過去2回ハーフを一緒に走って負けているので、今度、同じレースに出た時は絶対に負けたくない」と闘争心を燃やしている。ライバルに勝ち、強くなって大学4年目には2区を走るのが目標だ。
箱根前は、上尾ハーフの後に故障し、12月にはインフルエンザに罹患するなど、調整に苦しんだ。それでもなんとか復調し、同じように苦しんだ同期の出走には「嬉しいですね」と表情を崩した。
「自分たちの代は層が厚いですし、全日本では自分と上原、瑠郁、純平と4人で中心区間をつなげました。國學院大を自分たちで支えることができるんだという走りができましたし、そういう気持ちでみんないます。仲はいいですけど、やっぱり同期には負けたくないという気持ちはみんな持っています。自分は長い距離が得意なので、ハーフの距離では絶対に負けたくないですね」
箱根ではラスト、法政大の宗像直輝(4年)と激しい競り合いになったが、ロードでの強さを見せてチーム総合5位でフィニッシュした。
2年生のなかで圧巻の走りを見せたのは、青木だった。
1区の伊地知賢造が17位と出遅れたが、2区で8人抜きを見せた平林から襷を受けて、3区の湘南ロードを駆けた。
「とにかく前しか見ていなかったです。伊地知さんに全部背負わせて卒業させるわけにはいかないので、自分たちで順位を上げてうれし涙で卒業させてあげたいと思ったので。自分が少なくともあと30秒詰めたらもう少し上を狙えたと思うので、それができなかったのが悔しいです」
レース後、前田監督からは「よくやった」と労いの言葉をかけられた。実は、青木も箱根の3週間前にインフルエンザに罹患し、本番前にようやく感覚が戻って来た。その状態で、青学大、駒澤大、城西大に続いて4番目のタイム(61分56秒)で走り切り、順位を3つ上げて6位で4区の辻原輝(1年)に渡すことができたので、役割は十分に果たしたといえよう。
他の2年生の走りも青木には、刺激になった。
「鎌田はすばらしい走りでした。自分は藤沢で応援していたんですけど、その時点では創価大より遅れている感じだったんです。でも、最後は抜いて順位を上げたので強いなと思いましたし、豪起も10区で最後まで諦めずに走ってくれました。上原は悔しい結果に終わってしまって......。ゴール後、『一緒に強くなろうな』と泣いてしまったんですけど、絶対に強くなりたいと言っていたので、来年は必ずリベンジしてくれると思います」
レース後、青木はすでに次のシーズンに視線を向けていた。
「次は平林さんがキャプテンになりますし、強い4年生が中心になって、出雲、全日本、箱根と3冠を取れる勝負のシーズンだと思っています。その中で、自分たちの世代は主力となって、チームを引っ張っていかないといけない。今回、青学大や駒澤大が優勝を争っているのを見ていて、自分たちはそこにいないといけないと思いました。来シーズンは、そういう場で勝負をして、勝ちたいなと思っています」
この日、走れなかった嘉数を含め、2年生はまずまずの結果を残した。ただ、彼ら以上に4名の1年生がしっかり走っている。うかうかしていると1年生に主役の座を取って代わられる可能性が出てくる。
来季は、チームにとっても2年生にとっても勝負のシーズンになるだろう。