長期休暇明けは不登校の子どもが増えやすい傾向にある(写真: CORA/PIXTA)

昨年10月、小中学校における「学校へ行かない状態が30日以上続いている状態」を指す不登校児童生徒数が約30万人になったと文部科学省より公表された。

しかし数字だけ見ていても本質が見えてこない。そこで、元東京都内の公立小学校校長で現在は東京都特別支援教室巡回アドバイザーの福田晴一さんに内容を解説してもらった。

不登校の原因は多岐にわたる

――「不登校児童生徒30万人」。この数字をどう見ましたか?

確かにこの数字はセンセーショナルで、メディアに大きく取り上げられました。しかし私は文科省が2022年に発表した「不登校に関する調査研究協力者会議報告書」にも注目しています。

これは一部の学校に通う不登校の生徒児童とその保護者にアンケートを取った調査です。

この結果を見ると、小学校の児童が学校に行きづらいと感じ始めたきっかけは先生や友達のこと、体の不調、「朝起きられない」などさまざまで「自分でわからない」と答える子も多いんです。


福田 晴一(ふくだ はるかず)/1956年生まれ、元杉並区立天沼小学校校長。約40年の教員生活を経て、61歳でIT業界に転職。学校心理士として東京都内の特別支援教室を回ったり、LX DESIGNのアドバイザーを務めたりなど多方面で活躍中(写真:本人提供)

中学になると体の不調、「勉強がわからない」が多くなりますが、やはり「自分でわからない」と答えている子も多い。

また学校を休んでいる時の気持ちは小学生の約70%が「ほっとした」「自由な時間が増えてうれしい」で、中学生になると「勉強の遅れがないか不安」がトップになりますが「ほっとした気持ち」も依然多い。

つまり学校に行かないことの原因は非常に多岐にわたっていて、周りの大人は心配するかもしれませんが、子ども本人は「ほっとして楽になった」ケースが多いとわかります。

――原因はいろいろあってわかりにくいと?

私見ですが、一口に不登校と言っても比較的短期で解決するものと、中・長期的な対応が求められるものに分かれると考えています。さらに、主に自分自身に因子があるものと、周りの環境からくるものもある。

短期的な場合の原因は、先生や友達との関係で生まれたちょっとしたトラブルが多いように思います。先生に何か嫌なことを言われたとか、友達にばかにされたとか、学校生活に原因があり、ある程度明確なきっかけがある。これらは原因が明確なだけに、家庭と担任との連携で結構、短期的に解決できます。

中期的なものになると家庭に原因があることもあります。父親が単身赴任中のため母親が子育てに孤軍奮闘していて、結果、家の中が不安定になっているとか、弟や妹が生まれて上の子が赤ちゃん返りし、学校に行けなくなってしまったとか。

学校外のことが要因でもやはり学校と家庭が連携しつつ、ソーシャルスクールワーカーやスクールカウンセラーなど、専門性を持った人にも協力してもらうのがいいと思います。

長期的になるものは「いじめ要因」の場合がありますが、発達障害など本人の特性に起因することもあると思います。発達障害など本人の特性の場合です。特にディスレクシア(文字の読み書きに困難を生じる障害)、ディスグラフィア(文字を「書く」ことに困難がある学習障害)の子どもは、どうしても授業の参加が消極的になります。

さらに「怠けている」など周りから言われると、学校に行きたくなくなるケースが多い。ギフテッド(特定分野に特異な才能のある児童生徒)の場合は、授業がつまらなくて学校に行きたくなくなる。

このような本人の特性は基本的には改善しません。適応教室に通う、医療的な診療を受けるなども必要になりますし、場合によっては環境を変えるために転校もありだと思います。

読み書き障害やギフテッドのケースも

――読み書き障害の場合は周囲からわかりにくいことも問題視されています。

「書けない」ことが原因で学校に行きにくくなる子は実は多いです。内容がわかっていても、文字を書けなければ学校での評価は低くなってしまいますし、「いじめ・排斥→ 登校しぶり→ 不登校」の前に「文字が書けない、勉強ができない→ 仲間はずれ・排斥」の構造もあると考えています。

しかしこの因果関係は公的にははっきり発表されていません。「発達障害」と「不登校」は文部科学省内で調査をしている部署が違うのです。基本的に縦割りの役所の中ではうまくシンクロできていない、という問題もあるように思います。

――学校側はどうしたらよいのでしょうか?

低学年の先生には、漢字の書き取りの宿題に「何分かかったか」書く欄を作ってほしいと思います。かかった時間を書いてもらうだけなので簡単です。

みんながだいたい10分で終わる宿題に、30分や1時間かかっている子がいたら学習障害かもしれない、と気づくきっかけになります。そのような子には「書き取りは1文字10回じゃなく、3回でいい」といった宿題のコントロールをすることが大切です。

――ギフテッドに関しては?

今はギフテッドに関して少しずつ認知度も上がってきましたが、昔は全然理解されませんでした。私が現役で小学校の校長をやっているときも何人かギフテッドの子がいました。ある4年生の男の子は、幼少期は従順で勉強もできて、親御さんから見ると自慢の息子だったんですね。

ですが、9歳の壁といわれる3、4年生の頃から自我も出てきて、ささいなことでイラついて友達とけんかになる、家では暴れる、荒れる、といった状況が続きました。お母さんが「うちの子、どうしちゃったんだろう」と相談される中で、いろいろ調べるとI Qが140ぐらいあり「ギフテッドかもしれない」とわかったんです。

当然、学校の授業はつまらなくて、苦痛なわけです。印象的だったのはその子が「先生は助詞の使い方がおかしい」と言っていたことです。多分、聴覚優位でもあったんでしょうね。そこで「学校に来ても無理に授業に参加しなくていい」とすると、よく校長室で過ごしていました。

日本の不登校支援は少ないのか?

――ギフテッドの子の対応はどうしたらいいでしょうか。

私は約20年ほど前に、アメリカのフィラデルフィアで補習授業校の校長を務めていました。娘はアメリカの現地校に通っていたのですが、私に「すごいんだよ、トムは算数ができるから算数の時間は中学校に行くんだよ」と話していたのを覚えています。

海外では飛び級制度を科目や学年単位で採用しているところは多いんですね。一方で日本は、一部の大学や大学院しか飛び級制度はないと思います。

そもそも日本の学校教育はIQ100ぐらいの中間層に向けて授業の内容や進め方の速度が構成されています。その層よりIQが低い子たちは「特別支援学級」や「特別支援学校」など学びの場が用意されているのですが、IQが高いギフテッドの子たちに対しての支援はほとんどありません。

算数など個人差が出やすい教科を中心に到達度別の授業を行っている学校はありますが、あくまで全員が一定のレベルに到達することを目的としていて、ギフテッドの子のためのメニューではありません。そこは課題でしょう。

――日本にはそもそも不登校支援は少ない?

いえ、そうとも言い切れません。政府が教育基本法に基づいて教育に関する施策をまとめた「教育振興基本計画」というものがあります。

これは5年ごとに見直して「何を目標とするのか」「どこに力を入れていくのか」を計画していますが、直近の第4期の「教育振興基本計画」を見ると、明確に基本施策の中に「不登校児童生徒への支援の推進」「特異な才能のある児童生徒に対する指導・支援」という文言が盛り込まれました。

つまり、きちんと予算を取って国としても支援していきますよ、ということです。

不登校児童生徒の受け入れ先として不登校特例校の設置も増やす計画です。不登校特例校はまだ全国に24校(文部科学省、2023年調査)しかありませんが、今後300校を目指す、という話もあります。自治体レベルだと独自の不登校支援をやっているところも多いです。

――欠席日数が多いと入試に不利になる、という情報もあります。

東京都立高等学校の入学者選抜検討委員会報告書によると、2023年より東京都では高校の入試の調査書に出席日数を記載しないでいい、という方向になっています。

つまり、中学校時代の出席日数が合否を左右することはない、ということです。これは大きな変化だと思います。

「積極的不登校」もある

――今後、不登校の子どもをどう見守っていけばいいでしょうか

親世代の頃は不登校を「登校拒否」と呼び、非行と同じレベルで語られていました。しかし平成になってから「不登校」という言葉が広く使われるようになり、欠席の理由もさまざまだと認められるようになりました。

そして令和になり、新たに自分の意思で学校に行かないことを選択する「積極的不登校」という言葉が出てきています。コロナによってオンラインでの学びが日常的になったのも大きな要因です。

例えば、勉強はオンラインでやって残りの時間は自分の好きなことをやりたい。コミュニケーションもオンラインでできるし、時々なら仲間とリアルで会うから大丈夫、という子もいるかもしれません。

その生き方を親御さんも認めて、うちはそれでいい、となったら「積極的不登校」になります。

そもそも同じ地域の同年代で、同じ教室・先生・教材で学ぶ今の学校教育に違和感を抱き、自分流の学びをしたいと感じる子の意思は尊重すべきものだと思います。そのような子の中にこそ、これからの日本の未来を担うべき人材がたくさん出るんじゃないかと私は思っています。

ただし、気をつけなければいけないのは、不登校の子の中には「学校に行きたいけれど行けない」という子もたくさんいることです。ですから不登校を「積極的不登校」とひとくくりにしてもいけません。それぞれの子が不登校に至るまでの背景や気持ちをしっかり見ることことが大事です。

(江口 祐子 : 元AERA with Kids編集長)