『VIVANT』でブレイクの富栄ドラムが明かす撮影秘話「僕自身はスマホの文字入力が遅い」
富栄ドラム
インタビュー 前編
2023年のトレンドを語る上で欠かせないのが、ドラマ『VIVANT』(TBS系)の大ヒット。世界配信が決定するなどテレビ放映終了後も勢いは止まらないが、本作で阿部寛が演じる警視庁公安部・野崎守のサポート役として、主人公たちのピンチを救う印象的な活躍を見せたのが富栄ドラム(役名:ドラム)だ。
かつては元横綱・日馬富士などが在籍した伊勢ヶ濱部屋に所属する力士だったものの、ケガの影響で2021年に引退。だが、芸能界への挑戦と『VIVANT』の出演によって、一躍人気スターの仲間入りを果たした。紆余曲折の末にセカンドキャリアでの大成功を掴んだ富栄ドラムに、2023年を振り返ってもらった。
『VIVANT』の撮影秘話を語った富栄ドラム photo by 長田慶
――『VIVANT』のご出演により"大ブレイク"を果たしましたが、環境の変化をどのように受け止めていますか?
ドラム 想像以上の反響があって自分でもビックリしているんですけど、僕のことをたくさんの方に知っていただけたのはすごく嬉しいですし、ありがたい気持ちでいっぱいです。林原めぐみさんの声が印象に残っている方も多い(※)ので、僕が素の声で話した時に「みなさんのイメージを裏切ってしまったらどうしよう」「ファンが減ってしまうんじゃないか......」と不安で、ドラマの放送中は"着ぐるみの中の人"のような感覚で過ごしていました。
(※)ドラマ内でドラムは声を発することはなく、翻訳アプリの音声を使ってコミュニケーションをしていた。アプリの声を担当したのは声優・林原めぐみ。
――相撲界の方たちから、ドラマについて話しかけられることもありますか?
ドラム 日馬富士関(元横綱。2017年引退)は、モングルでロケをしている時にお会いしました。放送も毎週見てくれて、冗談っぽく「周りの人がドラムに会いたがっているよ、俺より人気者だな」とおっしゃってくれましたね。横綱の照ノ富士関からは、「ケガで相撲を引退することになってしまっても、別の道でチャンスがあることを証明してくれた。後輩のいい見本になり、勇気を与えてくれているね」という言葉をいただきましたし、出演を喜んでくれたことがとても嬉しかったです。
――富栄ドラムさんがかつて在籍されていた伊勢ヶ濱部屋には、モンゴル人力士が多く在籍されています。縁のあるモンゴルのロケで印象に残ったことはありますか?
ドラム 『VIVANT』のロケで初めてモンゴルに行ったんですけど、「相撲に向いている大きな身体の方がたくさんいるのかな?」と思っていたら、全然そんなことはなくて。日本人と同じような体型の方が多かったので、イメージの違いに驚かされました。
モンゴルのみなさんの親密なスキンシップが印象に残っていて、ロケで僕がちょっとすりむいてケガしただけでもハグしてくれたり、文化的な違いは感じました。力士時代には家族を大切にしている日馬富士関の姿を見てきましたが、あらためて深い愛情や人々のぬくもりを感じることができたように思います。
――作中では、ドラムさんもハグをするシーンがありましたね。
ドラム そうですね。二階堂ふみ(役名:柚木薫)さんや堺雅人(役名:乃木憂助)さんとの別れのハグは印象に残っています。モンゴルロケが終わりに差し掛かった頃だったこともあり、別れの悲しさや日本への帰国を待ち侘びる思いを込めました。あと阿部さんともハグをする場面がありましたが、阿部さんは背が高いので、"兄貴"と過ごしているような気持ちになったりしましたね(笑)。
【オーディションの裏話】――過酷な撮影だと思いますが、その中で1番大変だったことを聞かせてください。
ドラム パトカーに乗るシーンは大変でした。実は、10回くらいパトカーを走らせて撮影したので、体力的にけっこうキツかったです。あとは、約2カ月に及ぶモンゴルのロケは屋外の撮影も多かったので、日焼け対策も苦労しましたね。強い直射日光で肌がすぐに黒くなってしまうので、日焼け止めは手放せませんでした。
――出演者のみなさんはモンゴル語のセリフを話していましたが、みなさんはどのようにセリフを覚えていましたか?
ドラム モンゴル語の先生に何度も確認しながら、延々とセリフを練習していました。たまに、本番の直前に言い回しが変更されることがあって、セリフを覚え直すのは特に大変そうでしたよ。そんな中で、ワニズ役の河内大和さんはモンゴル語が本当に上手で、先生からも「本物のモンゴル人みたいだ!」と褒められていました(笑)。
――作中のドラムさんは日本語を話さない設定の役柄でしたが、演じる際に気をつけられた点は?
ドラム 監督からは「暗いシーンでも、みんなが笑顔になれるような表情でいてほしい」と言われていたので、それを常に意識しました。あとは力士のような動作や俊敏な動きを取り入れたり、動きで個性を見せられるようにいろいろと工夫もしました。
―― オーディションでドラムさんは「バク転」を披露しそうですが、その時も個性的な動きを見せようと?したんでしょうか。
ドラム 「太っていてもしっかり動ける」ことをアピールしようと思ったんですけど......オーディションで僕と同じ組になった190cmくらいある男性が、やたらと張り合ってきたんです。監督が「50mは何秒で走れる?」という質問に、隣の彼が僕より少しだけ速いタイムを言ってきたりしたので、「負けたくない」という思いが出てバク転になったのかもしれません。
ロケでアクションのシーンが近づくと、監督からは「お前の運動神経の見せどころだから頼むよ!」と声をかけてもらいましたし、オーディションのアピールも役に立ったんじゃないかなと思います。
――それ以外で、オーディションで印象に残っていることはありますか?
ドラム 僕は言葉を話さない役を演じることになりましたけど、オーディションの時にはモンゴル語のセリフを読む機会があったんです。僕が日馬富士関の付け人をしていた頃、日馬富士関が取り組みの前のルーティーンで歌う「母親に捧げる歌」を横で聴いていたので、モンゴル語には馴染みがあって。横綱が話すモンゴル語のイントネーションをイメージしながらオーディションに臨みました。
【堺雅人からもらったアドバイス】――役の「ドラム」と「富栄ドラム」で、重なる部分はありますか?
ドラム 僕自身はスマホの文字入力が遅いのが違いますね(笑)。でも、それ以外は役作りがいらないくらい、実際の僕に近い役をいただいたと思っています。
――撮影中に共演者の皆さんから演技についてのアドバイスや印象に残っているやりとりはありますか?
ドラム 堺雅人さんには、「セリフをただ覚えるのではなく、"言葉の塊"を口で言えるようになることが大切だ」と声をかけていただいたり、本当に勉強になりました。山中崇(役名:アリ)さんからの 「役はもうひとりの人間の人生だから、それについて深く考えることが大切。自分がもらった役は、新しい人生と思うようにするといいよ」というアドバイスも印象に残っています。
他にも、ロケの時にみなさんからいただいた言葉を参考にして、演技のレッスン以外にも他の役者さんたちの芝居を見ながら、「自分ならどうやって演じるのか」を考えたり......ひとりでいる時に映画を見て、その映像を一時停止しながらセリフを声に出して言ってみたりと、芝居と向き合う時間が増えました。
――来年以降の目標はありますか?
ドラム まだ俳優としてのキャリアを歩み始めたばかりですが、相撲で培った身体の強さと運動神経を生かして、「アクションができる俳優やタレントになる」ことが目標になりました。おかげさまでバラエティ番組などにも出させていただきましたが、同時に、これまでは見えなかった部分でさまざまな努力が必要なことも知った。好きなことをやるために、楽しみながら努力を続けていきたいです。
(後編:力士時代に日馬富士の付け人として学んだこと、貴景勝の連勝を止めた取組>>)
【プロフィール】
富栄ドラム (とみさかえ・どらむ)
1992年4月11日 兵庫県生まれ。中学校を卒業後に伊勢ヶ濱部屋に入門。「冨田」として2008年春場所で初土俵を踏んだあと、四股名を「富栄」に変更する。最高位は東幕下6枚目(2018年11月)。ケガの影響などにより2021年春場所に現役を引退した。その後はYouTubeなどでのタレント活動を経て、俳優として『サンクチュアリ -聖域-』(Netflix)や『VIVANT』(TBS系)といった話題作に出演するなど、活躍の場を広げている。