ヒロド歩美さんインタビュー
「阪神タイガース日本一」前編(全2回)

『報道ステーション』(テレビ朝日)でスポーツキャスターを務めるヒロド歩美さんは、大の阪神タイガースファン。インタビュー前編では、38年ぶりの日本一を決めた瞬間の興奮を振り返ってもらった。


阪神タイガース愛を語ったアナウンサーのヒロド歩美さん

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【これって日本一だよね?】

ーー阪神ファンのヒロドさんは、現地で取材をなさっていたそうですが、かなり興奮したんじゃないですか?

ヒロド歩美(以下同) じつは興奮というよりも、なにぶん、日本一は私が阪神ファンになって初めてのことだったので、慣れていないというか、感情としてうまく表現できなくて、あの瞬間は「これって日本一だよね?」と、確認するような、信じられないような気持ちでした。

ーー感情の置きどころがわからなかったファンの方は多かったかもしれませんね。

 京セラドームのスタンドで観戦していたんですけど、ただあの瞬間、周りを見渡すと阪神ファンのおじちゃんたちは涙に暮れているし、歓喜というよりも、感謝の気持ちを表わしている人たちが多かった気がします。「日本一、うれしい!」というよりも「やっとこの日が来た!」みたいな感じで、そういった方々を見て、ウルッとしたり。私は以前所属していたABC(朝日放送)に入社した時(2014年)からのファンで、まだ10年も経っていないんですけど、38年間も待ちわびたファンの方々の気持ちを察すると、やっぱり「ありがとう」って気持ちのほうが大きかったんだろうなって。私も本当に「ありがとう」って気持ちになりましたからね。

ーー阪神ファンの熱量の高さは全国的に知られていますが、感無量だった人は多かったでしょうね。

 実際、私が日本一を実感したのが優勝パレードの時だったんです。えっ、大阪に、こんなに人がいたのって驚くぐらいファンの方々が集まって、選手たちを祝福して感謝の声援を送っている。岡田彰布監督をはじめ、選手の方々はもちろん、ファンの人たちも本当に幸せな表情を浮かべていました。思ったのは、阪神のファンの方って、"チームとファン"という関係よりも"自分もチームの一員"という意識が強くて、とにかく他人事ではないと考えている方が多いんだと思います。それだけ愛されているチームなんだなって。

ーーもちろん他球団のファンにも熱い人はいますが、阪神ファンは、チームそのものがライフスタイルになっている。

 そうですね。「阪神の応援は趣味とちゃう! 人生や!」と、おっしゃる方ばかりですからね。また今回の日本シリーズは、オリックス・バファローズとの対戦だったので、関西方面は試合前から異様な盛り上がりでした。とにかく私としては、その空気感を番組(『報道STATION』)で伝えなければいけないと思いました。でも、やっぱり自分を否定することはできず、阪神に偏ってしまって番組には少し迷惑をかけてしまいました...。

【ゲームセットの瞬間は爆音】

ーー日本シリーズは、阪神が初戦を8対0で勝って、「行ける!」みたいな雰囲気になっていましたね。

 正直なことを言うと、この時点で日本一の取材のことを考えていました。メジャー行きを控えている山本由伸投手が相手でしたからね。けれども結局、最終戦までもつれるすばらしい試合の連続でした。シリーズ前の会見で、岡田監督もオリックスの中嶋聡監督も「いい試合をしたい」と、おっしゃっていましたが、まさにそのとおりの展開で、野球の魅力やおもしろさが存分に詰まったシリーズだったと思います。

ーーリーグ王者同士、意地が見えた戦いでしたね。

 いろいろ目まぐるしくて、じつはあまり2戦目以降の記憶がないんです。もちろん第4戦の大山悠輔選手のサヨナラヒットなどインパクトがあった場面は覚えているんですけど、終始ふわふわした状態だったんです。本当、変な感じでしたね(笑)。

ーー最終戦はノイジー選手の一発から得点を重ねて日本一を決めましたが、ゲームセットの瞬間、現場はどのような雰囲気でしたか?

 爆音では収まらない、それ以上の大歓声だったと思います。ビジターとは思えないような盛り上がりでした。ただオリックスファンの方も、悔しいとは思いますが、祝福してくれる方も多く、必死に戦って面白い試合を見せてくれた両チームに、惜しみない拍手を送ってくれていた姿が印象的でしたね。

【岡田彰布監督のコミュニケーション術】

ーー岡田監督とはABC時代からお知り合いだそうですが、この日本シリーズでの立ち振る舞いは、どのような様子でしたか?

 シーズンも含めて思うのは、本当に選手の心をつかむのが上手だなって。コミュニケーションの本を出版してもらいたいぐらい(笑)。選手の方々に岡田監督についてお話を聞くと、皆さん1分以上、会話をしたことがないというんです。

ーーそれでいて選手の心をつかんでいた、と。

 たとえば日本シリーズの第7戦前に青柳晃洋選手を呼び出して「おまえで始まって、おまえで終わるから」と伝えたり、また中野拓夢選手に対しては、シーズン中はネクストで準備する選手のところに行ったことはないのに、日本シリーズでは「バント頼むよ」と声掛けしたり。他にもシーズン中、オフ前日に中野選手へ「ちょっと顔が疲れているから、明日はちゃんと休めよ」と心遣いを見せたりしていて、さすがだなって。

ーーここぞの場面で気持ちを入れたり、心に染みる一言を伝える。

 そのバランスって言うんですかね、だから皆、岡田監督についていったと思うんです。そうじゃなきゃ、リーグ優勝や日本一の監督インタビューの時に、あんなに楽しそうな様子を選手たちは見せなかったと思うんです。ビールかけのときも選手たちと岡田監督の距離が縮まった感じで和気あいあいとしていましたし、本当、理想の上司ナンバーワンだと思います。

 私も心をつかまれたひとりです。何度か岡田監督のインタビューをさせていただきましたが、終わってから毎回笑顔で「ありがとうな!」と言ってもらい......またすぐ取材したい!というふうになるんです。

ーーなるほど。

 もちろん、ご自身で責任も負いますし、だから選手たちからの愛情がすごいんです。岡田監督は、その5倍ぐらい選手たちに愛情を注いでいると思います。リーグ優勝後の記事で岡田監督の奥様の談話が載っていたんですけど、夏の時期、ゲームから帰ってくると「ようやく皆、わかり出してきたわ」とボソッとおっしゃったらしいんです。ずっと選手たちを観察、分析していたのでしょうし、会話が少ないからといってコミュニケーションがとれていないわけではなかったんだなって。

ーーそういう意味では、平田勝男ヘッドコーチの存在も大きかったんでしょうね。

 そうですね。平田ヘッドやコーチの方々が選手とのパイプになって、岡田監督の考えをかみ砕いて伝えていたんだと思います。平田ヘッドは38年前の日本一で岡田監督と二遊間を組んでいましたし、2005年のリーグ優勝は監督とヘッドの関係ですから、往年のファンの方々からも思い入れや信頼は厚かったと思います。そういう意味では、今回の日本一は、岡田監督を始め選手の皆さん、コーチの方々、そして裏方さん全員で勝ちとったものだと思います。

ーー野暮を承知で聞きますが、ヒロドさん的日本シリーズMVPはどなたでしょうか?

 いやいや、私なんかがおこがましいですよ......。けど挙げるとすれば、やっぱり阪神ファンの方々ではないでしょうか。選手誰に聞いても、ファンの存在がなかったら日本一になれていなかったと言っていたので、ここは間違いなく、38年間あきらめずに応援し続けたファンの皆さんだと思います。

後編<ヒロド歩美は阪神・村上頌樹のブレイクに「高校時代から見てきた思い入れ」で感慨 アレな1年を語る>

【プロフィール】
ヒロド歩美 ひろど・あゆみ 
1991年10月25日、兵庫県生まれ。早稲田大学国際教養学部卒業後、2014年に朝日放送テレビ(ABCテレビ)入社。2016年に『熱闘甲子園』のキャスターに就任した。その後は『サンデーLIVE!!』『芸能界常識チェック!〜トリニクって何の肉!?〜』『芸能人格付けチェック』などに出演。2023年2月に退社し、4月からフリーの立場で『報道ステーション』のスポーツキャスターを務めている。