2023年野球界10大ニュース 球界をざわつかせた事件、現役ドラフトの明暗、超大物の決断...
2023年野球界10大ニュース(後編)
2023年に野球界で起きた出来事をスポルティーバの独断と偏見で「10大ニュース」として選出。前編につづき、球界をざわつかせたあの事件など、5つのニュースを選出した。
現役ドラフトでソフトバンクから阪神に移籍し12勝を挙げた大竹耕太郎 photo by Sankei Visual
出場機会に恵まれない選手にチャンスを与えるために導入された「現役ドラフト」。昨年12月に開催され、12人の選手が出場機会を求めて新天地でプレーすることになった。そのなかでも印象的な活躍を見せたのが、ソフトバンクから阪神に移籍した大竹耕太郎とDeNAから中日に移籍した細川成也だ。
これまでプロ5年間で通算10勝だった大竹は、開幕ローテーション入りを勝ちとると5月に3勝無敗、防御率0.33で月間MVPを初受賞。前半戦7勝1敗、防御率1.48と抜群の数字を残してオールスター戦初出場を果たした。シーズン12勝2敗、防御率2.26と、阪神18年ぶりのセ・リーグ制覇と38年ぶりの日本一を支える存在となった。
細川は期待の長距離砲としてプロ入りしながら6年間でわずか6ホーマーだったが、新天地で4月途中から主力に定着すると5月には打率3割6分、5ホームラン、17打点で初の月間MVPを受賞。オールスターにも初めて出場した。最終的に打率2割5分4厘、24本塁打、78打点。低迷するチームにおいて、希望の光となった。
大ブレイク組が出現した一方で、ほとんどが結果を出せずにシーズンを終えた。現役ドラフト「最大の目玉」と言われた楽天から巨人へ移籍したオコエ瑠偉は、開幕スタメンを勝ちとりながら41試合の出場で打率2割3部5厘、2本塁打、6打点と振るわなかった。
新天地での活躍を誓った12人のうち、今シーズン終了後に戦力外通告を受けた選手が半数の6人という厳しい現実もまたあったのである。
今年も開催された現役ドラフトで選ばれた選手の平均年齢は25.9歳と、前年の26.1歳からほぼ変わらない。ロッテからDeNAへ移籍した佐々木千隼や西武からロッテへと活躍の場を求めた愛斗と、一軍で主力としてプレーした経験のある選手も名を連ねており、来シーズンも彼らの再起に視線が注がれる。
2023年に開業した日本ハムの本拠地・エスコンフィールド
今シーズンから日本ハムの新たな本拠地となったエスコンフィールド北海道は、オープン1年目にして野球ファンのみならず北海道民をはじめとする観光客からも市民権を得た。
主催試合の年間入場者数は、ホームが札幌ドームだった前年の129万1495人を大きく上回る188万2573人。これは、2万6515人だった1試合平均入場者数ともにパ・リーグ3位と上々の数字と言える。2年連続最下位、5年連続のBクラスと低迷するチームにとって大きな励みにもなった。
今春から北広島市に誕生したエスコンフィールドの人気を支えたのは、既成概念にとらわれないスタジアムのデザインだ。グラウンドの天然芝は当然として、開閉式の屋根に広々としたコンコースと開放感に満ちている。
そして、 "付加価値"にも力を入れていると打ち出すのが、レフト後方にスタジアムと一体となる形で併設されている複合施設「TOWER11」だ。3階は試合を観戦しながら温泉やサウナが楽しめ、4・5階には選手たちのプレーを見ながらくつろげるホテルがある。もちろん、レストランやカフェなど飲食店も30件以上と充実している。
従来のボールパークと一線を画すのは、野球の開催試合だけでホスピタリティを完結させていないところだ。
エスコンフィールドのある一帯は「北海道ボールパークFビレッジ」として、テーマパークの一面もある。試合がない日でもエスコンフィールドを一部開放しており、球場見学やレストランの利用が可能。周辺にはアスレチック施設やドッグラン、キッズパークとアクティビティにも優れ、マンションも建つなど住環境も整備されている。
Fビレッジの年間来場者数は野球の主催試合を含め300万人超えを果たした。さまざまな試みで人々の心を掴んだ夢のボールパーク。日本ハムが提供するのは、野球から広がっていく、多様性に満ちた生活である。
悲願のW杯優勝を飾ったU−18侍ジャパンのメンバー photo by Sankei Visual
「4度目の正直」での悲願達成。第31回U−18ワールドカップで、若き侍ジャパンが4回目となる決勝進出で初の世界一を手にした。
日本代表を率いる明徳義塾の馬淵史郎監督は、投手力を中心に守り勝つ野球で世界を獲るためのメンバーを選出。
投手陣は大阪桐蔭の前田悠伍と沖縄尚学の東恩納蒼を先発の軸とし、バッティングでも戦力となる山形中央の武田陸玖、智弁学園の中山優月を二刀流としてスタンバイさせた。「1試合41球から55球までは登板間隔が中1日」など球数制限が厳格化された大会において、指揮官は柔軟性のある起用でブルペンを運用した。
投手陣の中心にいた前田は台湾との決勝戦を含む3試合で先発し、防御率0.54と実力を証明。東恩納は3試合11イニングを投げ防御率0.00で大会ベストナインと、左右両エースのピッチングが日本に安定感をもたらした。
野手では守備のみならず、バントや進塁打など状況に応じたバッティングを体現できる選手が結果を残した。
その筆頭が、横浜で1年生から甲子園を経験する緒方漣だ。大会序盤こそ下位打線に名を連ねていたが、3試合目のアメリカ戦から3番で起用されると定着し、全9試合で24打数13安打、打率5割4分2厘、7四球、2盗塁と、馬淵監督が標榜する野球のアイコンとなった緒方は、首位打者、ベストナイン、大会MVPに輝いた。
野手では脇役の献身も目立った。仙台育英の山田脩也が1割台の打率をカバーするように内野守備で盛り立て、控えが中心だった聖光学院の高中一樹は、スタメン出場となった決勝戦で貴重な逆転スクイズを決めた。
世界の野球が長打など派手な野球にシフトするなか、日本のホームランは山田の1本のみ。送りバントは9試合で14個と、選手一人ひとりがチームプレーに徹した。日本は"お家芸"であるスモール・ベースボールで世界一を勝ちとったのである。
謝罪会見で頭を下げる山川穂高 photo by Sankei Visual
知名度が高ければ高いほど、光と同じくらいに影も際立ってしまう。プロ野球の世界も例外ではなく、常に不祥事と隣り合わせである現実にも目を背けてはいけない。今年はそれが浮き彫りとなってしまった。
WBCの世界一で日本中が歓喜に沸いた直後に水を差してしまったのが、侍ジャパンに名を連ねていた山川穂高だ。
昨年11月の女性トラブルが明るみとなり、5月に実戦から離れた。9月には警視庁に書類送検されたことで、球団が無期限の公式戦出場停止処分を決定。シーズン後のフェニックスリーグから戦列に復帰したが、オフにFAでソフトバンクへ移籍したことも物議を醸した。
この間、「西武との連絡を怠った」と解釈されるような報道も飛び交うなど山川の誠意に欠けた対応も話題となってしまった。西武ファンにとっては後味が悪く、ソフトバンクファンの心証としても煮え切らない着地点となってしまったことが残念でならない。
楽天の安樂智大のハラスメント行為も、社会的な倫理観を問われる大事件となった。後輩選手に対して試合日のロッカールームで屈辱的な行為を強制したり、罵詈雑言を浴びせる、ミスをすれば「罰金」と称して現金を徴収する......。球団の調査によると、被害を受けた選手は10人、ハラスメント行為を見聞きしたのが約40人と発表があった。一連の騒動によって、安樂は事実上の解雇を意味する自由契約という重い処分を科せられた。
また不祥事ではないが、管理体制を疑問視されたのが中日の"令和の米騒動"である。8月、現役ドラフト入団でブレイク中だった細川成也が不振に陥ると、立浪和義監督が「米の食べ過ぎだ」と試合前は断つよう促した。すると細川の調子が改善したため、選手食堂で米類が小さな具材なしおにぎりしか提供されなくなったという。これが選手間の不満として明るみに。メディアからのバッシングというより、SNSでネタにされてしまった。
高校通算140本塁打を放った花巻東の佐々木麟太郎 photo by Ohtomo Yoshiyuki
高校通算ホームランは歴代最多となる140本。2023年ドラフトの目玉選手のひとりに挙げられていた花巻東の佐々木麟太郎が決断した進路は、プロではなくアメリカの大学への進学だった。
チームがベスト8に進出した夏の甲子園から間もない9月に渡米。複数の大学の施設を見学したなかで、野球のキャリアだけでなく人間的にも成長できると刺激を受けたことが大きな決め手となったとされている。
花巻東にとって、アメリカ球界への挑戦は決して意外な選択ではない。前例のひとつが2009年の菊池雄星だ。夏の甲子園ベスト4の立役者は直前まで高卒でのメジャーリーグ挑戦を望んでいながら、周囲の反発もあり進路を日本のプロに変更。ドラフト1位で西武に入団している。
さらに2012年夏の岩手県大会で当時の高校生最速となる160キロをマークした大谷翔平は、ドラフト前までアメリカへ行くことを明言。最終的に1位で強行指名した日本ハムへの入団を決めたが、メジャー挑戦は現実味を帯びていた。
その後、菊池と大谷は日本球界からメジャー移籍を果たし、アメリカでも結果を残す。これが後押しとなったのか、後輩である佐々木の決断は世間から好意的に受け入れられている節がある。
これまで、メジャーの球団からドラフト指名された日本人は5人いる。02年の坂本充(九産大九州高ーアリゾナウエスタン短大ーロッキーズ24巡目)、08年の鷲谷修也(駒大苫小牧高ーデザート短大--ナショナルズ42巡目。09年にも14巡目で同球団から指名を受けた)と藤谷周平(ノーザン・アイオワ大ーパドレス18巡目)。13年の加藤豪将(ランチョ・バーナード高ーヤンキース2巡目)。23年の西田陸浮(東北高ーオレゴン大--ホワイトソックス11巡目)。このなかに日本国内で「ドラフト1位候補」の選手はいない。
それだけ佐々木の事例は珍しい。だからこそ、アメリカの大学で結果を残し「メジャーで1巡目指名を」と期待したくなる。