12月13日に行なわれたチャンピオンズリーグ(CL)グループリーグ最終節で、バルセロナは敵地でベルギーのアントワープに3−2と敗れている。すでにグループ1位でベスト16進出を決めていただけに、結果自体は大きな問題ではない。しかし、チームとしての足並みの乱れは深刻だ。

「アントワープが"脆弱なバルサ"を浮き彫りに」

 スペイン大手スポーツ紙『マルカ』が報じたように、不安要素しかない。バルサに何が起こっているのか?
 
 シャビ・エルナンデス監督が率いるバルサは、今季の開幕戦こそカディスにスコアレスドローだったものの、その後は順調に勝ち星を重ねた。ビジャレアルと敵地で撃ち合って3−4で制すると、CLグループリーグ第1節、アントワープ戦での5−0での勝利を含め、破竹の7連勝。21得点で攻撃力が際立った。

「バルサのアレックス・ファーガソン(マンチェスター・ユナイテッドで長期政権を保った名将)」

 シャビ監督はそう称えられていた。"宴"の中心にいたのは、16歳のラミン・ヤマルだ。

 ビジャレアル戦では圧巻の2アシスト。右サイドでボールを持つと、誰も止められない無双感があった。タイミングをずらすだけでマークをかわし、そこからしなやかに加速。トップスピードでもボールコントロールの精度は落ちず、正確で相手の裏をかくキックができる。そのスキルと迫力は、16歳だったリオネル・メッシを凌駕していた。

 ただ、16歳の少年にチームを託すのは無理があった。

 ヤマルが先発を続けるのには肉体的負担もあったと言える。実際、コンディションが落ち、ケガに見舞われるようになった。相手に研究されるようになると若さも出た。

 ラフィーニャがケガから復帰し、先発交代は自然な流れだったわけだが、宴が終わると、チームは失速した。攻撃は空転し、守備は一昨シーズンまでの脆さが戻った。ホームで宿敵レアル・マドリードに逆転負け、苦手とするラージョ・バジェカーノに引き分け。CLグループリーグ第4節にはシャフタール・ドネツクに黒星を喫し、アントワープにも叩きのめされた。ラ・リーガではジローナにホームで2−4と打ち負け、バレンシアにも1−1のドロー。年内最終戦でアルメリアには辛勝するも4位に低迷し、首位で並ぶレアル・マドリード、ジローナとの勝ち点差は7だ。

【ブラジル人アタッカー待望の理由】

 シャビの名声は地に堕ち、今や解任論も出ている。

 今シーズンは有力選手を数多くそろえたが、皮肉にもチームの仕組みが機能しなくなった。個人プレーが目立ち、お互いを生かし合うプレーが激減。味方のために走る選手がいないし、味方のために背後をカバーする意識も低くなった。それが王者の歯車を狂わせた。


新加入のヴィトール・ロッキはバルセロナの救世主になれるかphoto by Alex Caparros/Getty Images

 そんななかで、救世主として指名されたのが、ブラジル代表の18歳FWヴィトール・ロッキだ。ブラジル国内ではロナウド二世とも言われ、速く、強く、うまく、スモールスペースでの細かい技術をゴールに結びつけられる。バルサは今年7月に完全移籍で獲得したことを発表。本来は2024−25シーズンからの合流予定だったが、ガビがケガで離脱したためサラリーキャップに空きが出て、2024年1月からの登録が可能になった。

 ロッキを待望する理由がある。

<バルサは自由でスペクタクルを求めるサッカーで、ブラジル人選手は肌が合う>

 そんな定説があるが、相応の根拠はある。ロマーリオ、ロナウド、リバウド、ロナウジーニョ、ネイマール。多くのブラジル人アタッカーが、バルサで歴史を刻んでいる。

 バルサ中興の祖と言えるヨハン・クライフ監督が、ドリームチーム時代に"ラストピース"にしたのはロマーリオだった。ロマーリオは得点王に輝き、リーガ4連覇に貢献、超攻撃的サッカーを完結させた。ボビー・ロブソン監督は「ロナウドが戦術」と開き直り、カップウィナーズカップ優勝。ロナウドはラ・リーガでゴールを量産し、得点王になった。ルイス・ファン・ハール監督は不人気だったが、リバウドが驚きを与えた。エリア外からのオーバーヘッドゴールは語り草だ。

 復権を目指したフランク・ライカールト監督がチームを託したのが、ロナウジーニョだった。ロナウジーニョはサンバに体を揺らす自然さでプレーし、ラ・リーガ、CLなどあらゆるタイトルをもたらした。ルイス・エンリケ監督はリオネル・メッシ、ルイス・スアレス、ネイマールを組み合わせ、MSN時代を作った。ネイマールはトリッキーなプレーで三冠の象徴となった。

【特別だったロナウジーニョ】

「ブラジル人は陽気さで、ファンの声援を自分のエネルギーにできる。その共鳴が、スペクタクルを望むバルサとフィットした」

 バルサの下部組織ラ・マシアで育ったブラジル人で、イタリア代表でも活躍したチアゴ・モッタ(現在はボローニャの監督)は、かつてそう説明していた。2004−05シーズン、バルサは覇権を取り戻したが、ブラジル人選手が主軸だった。ロナウジーニョ、モッタだけでなく、デコ(ポルトガル国籍を取得)、ベレッチ、シウビーニョ、エジミウソンがいた。

「ブラジル人の中でもロニー(ロナウジーニョ)は特別さ。例えばエラシコ(ボールを一度アウトサイドでこねてから内側に切り返す)というフェイントがあるじゃない? それをできるブラジル人選手は多いけど、失敗するのが怖いし、練習場だけ。でもロニーは平然と試合で使っていた。観客が喜ぶのを知っているからで、成功すると彼自身も気分が乗る。その光景はひとつの奇跡だった」(チアゴ・モッタ)

 そしてブラジル人は、もうひとつ副産物をバルサにもたらした。

「ブラジル人は能天気に見えて、勝利への執着心は相当なもの」

 そう語っていたのはドリームチームの一員で、2003年から08年までバルサのコーチを務め、2011年から15年までバルサBを率いたエウセビオ・サクリスタン・メナだ。

「ブラジル人選手は友人同士で騒ぐのが好きで、"遊び人"に見えるかもしれない。でも、相当な負けず嫌い。私は現役時代にロマーリオとチームメイトでしたが、勝利への欲求は凄まじかった。ロニーとロマーリオは性格こそ違うが、行き着くところは一緒。勝利へのこだわりが周りとの差を生み出しているのです」(エウセビオ)

 まさに、クレ(バルサファンの総称)がロッキを待望する理由だ。

 バルサは後がない。ラ・リーガでは首位争いから脱落の危機にあり、CLベスト16ではナポリとの対戦が決まった。

 ロッキは12月27日、バルセロナに到着した。バルサにとって遅れて届くクリスマスプレゼントになるか。