第102回全国高校サッカー選手権大会展望 後編

第102回全国高校サッカー選手権大会の展望を、ユースサッカーを取材するふたりのライターに聞く後編。トーナメントの右側の半分の注目校を紹介する。タレントの揃った神村学園や成長著しい前橋育英、夏のインターハイ王者の明秀日立など、見逃せないチームが揃った。

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夏のインターハイ優勝の明秀日立高校 photo by Tsuchiya Masashi

【神村学園は「すごい選手ばかり」。対抗は前橋育英】


夏のインターハイ王者の明秀日立が入ったブロック

――インターハイ王者の明秀日立(茨城県)、昨年度大会ベスト4の神村学園(鹿児島県)などが同じブロックに揃いました。

森田 全体のなかで最後に代表校となった神村学園が優勝候補筆頭ではないでしょうか。攻撃を重視するチームなので、どうしても守備に不安があったのですが、高円宮杯JFAU−18プレミアリーグの残留争いを経験しながら、選手権に向けて意識が高まり、プレーの強度が高まってきました。

土屋 守備の選手で言うと、DF難波大和選手(3年)はプレミアリーグ全試合フル出場。このリーグでJリーガーになるような強烈なアタッカー陣と対峙し続けた経験値は、相当高いですね。彼の成長は神村学園にとって大きいと思います。

森田 夏以降はDF鈴木悠仁選手(2年)もグッと良くなりました。あとはMF福島和毅選手(1年)。川崎フロンターレの大島僚太と比較する声もあるぐらい、サッカーを知っている選手です。MF名和田我空選手(2年)も、試合に出れば別格感を出せますし、すごい選手ばかり。

土屋 対抗として挙げたいのは前橋育英(群馬県)です。昨年からガラッとメンバーが変わって、プレミアリーグも完敗からのスタートだったのですが、1年間ずっと強度の高い試合を続けていると選手たちがここまで成長するのだと思わされました。

 特にこれまでトップチームでの出場機会が少なかった、3年生の成長は著しい。谷間の世代と言われてきましたが、たくましく成長しました。チームの核は下級生が占めていますが、最後の選手権は3年生が力を発揮できるかにかかっています。3年生の成長は、飛躍するための大きなポイントではないでしょうか。

森田 インターハイで見て、MF篠粼遥斗選手(3年)は好きでした。前橋育英の14番らしいうまさとセンスを感じる選手です。

土屋 篠粼選手とMF石井陽選手(2年)のドイスボランチは、今大会でも上位に入るような組み合わせですね。また、夏過ぎからは1年生も台頭してきていて、MF平林尊琉選手(1年)とFW大岡航未選手(1年)も面白いです。

【夏の日本一にも浮かれていない明秀日立】

森田 神戸弘陵(兵庫県)も上位候補の一つで、昨年から試合に出ていた選手が多くいます。最終ラインにはクレバーな守備と左足が光るDF岡未來選手(3年)がいて、中盤にもMF大井孝輔選手(3年)、MF北藤朔選手(3年)というタレントがいる。県内3冠を達成し、兵庫県では頭一つ抜けた存在です。

 夏に青森山田と東福岡に大敗し、選手の意識が変わったのも大きなポイントで、練習から強度が上がった結果、チームがさらに良くなりました。

土屋 反対側の山は、インターハイ王者の明秀日立を挙げたいです。9月にインターハイ後のリーグ戦を取材したのですが、日本一になっても地に足がついていた。萬場努監督に話を伺っても「全く浮かれていない」と言われていましたし、選手自身も「すごく強いわけではない」と口にしています。

 インターハイは決勝までの6試合をしっかり考えていて優勝しましたが、今回も6試合のプランをしっかり考えているはず。夏の経験が冬に生きる可能性は十分あるのではないでしょうか。

森田 その明秀日立が1回戦で対戦する徳島市立(徳島県)は、守備のイメージが強いチームですが、今年は足元の技術に長けた選手が多くて、ゴール前の連携で崩せる好チームです。ここは1回戦の隠れた注目カードですね。

土屋 日大藤沢(神奈川県)と近江(滋賀県)は、2回戦有数の好カードだと思っています。近江はプレミアリーグ・プレーオフでも見ましたが、今年見た試合はいずれもいいゲームばかり。個々のキャラクターがハッキリしていながら、チームの一体感もすごく感じます。

 日大藤沢も個々のクオリティーが相当高い。インターハイでは準決勝で明秀日立に負けているので、3回戦でリベンジしたいとみんな思っているはずです。

【佐賀東、京都橘、堀越が注目のブロック】


選手権本大会出場を重ねたチームが集まった混戦ブロック

――選手権本大会の経験が豊富なチームが揃った最後のブロックはどうでしょうか?

森田 ここはどこにもチャンスがあるブロックな気がします。推したいのは佐賀東(佐賀県)。攻撃やテクニックにこだわっていて、これまで守備にはあまり手をつけてこなかったため、いいサッカーはするものの取りこぼしも多いチームでした。ただ、今年は守備がいい。

 蒲原晶昭監督が「攻撃だけでなく、やっぱり守備もちゃんとやらなければいけない。相手がどんなチームだろうと攻撃でどうするかばかり練習していたけど、"いい加減にしろよ"と自分に言い聞かせて、攻撃も守備もバランスよくやらせている」と話されていました。前からの守備を徹底しているのと、2年生が務めるDFラインがいいですね。DF田中佑磨選手(2年)とDF後藤光輝選手(2年)がリーダーシップを発揮しています。

土屋 3年ぶりの選手権なので、京都橘(京都府)は楽しみにしています。

森田 今年は上位進出の可能性があるチームだと思います。米澤一成監督は、近年コンスタントに全国大会に出ていた東山高の選手は「目標が具体的だった」と口にしていました。具体的に日本一という目標を目指していたから、普段の取り組みに対する意識が高く、それが京都橘との結果の差になっていたと。

 そうしたなか、インターハイも2年間行けず悔しい思いをし続けたことで、選手権に行きたい思いが強まった結果が全国行きにつながりました。今年はキャプテンのFW西川桂太選手(3年)を中心にチーム内に部署活動を立ち上げ地域貢献をするなど、選手が本当によく頑張りました。

土屋 僕が注目しているのは堀越(東京都A)です。例年と同じくボトムアップで選手たちが選手起用と戦い方を決めています。

 すごいなと思ったのは、キャプテンのMF中村健太選手(3年)。予選準決勝は1点差で勝っていたのですが、残り10分ぐらいで彼が交代しました。足の状態が良くなかったので、このままピッチにいてもチームの役に立たないとジャッジして、自分で自分を交替させたんです。負けたら高校サッカーが終わる試合でできる決断ではないですよね。

 2年前のキャプテンに「ボトムアップ方式のキャプテンになるなら、自分を代える選択肢も持たなければいけない」と言われた言葉が大きかったみたいです。「その時は意味がよくわかっていなかったけど、この試合で意味がよくわかりました」と試合後に話していました。

【制限なしの応援が戻ってくる】

森田 初芝橋本(和歌山県)も可能性があると思っています。いい時は攻撃の迫力があるのですが、今年はFW朝野夏輝選手(3年)を筆頭に推進力のある選手が揃っている。守備もDF石丸晴大選手(3年)を中心に粘り強く守れるので、阪中義博監督も手応えを口にしていました。

 過去2年、出場校の座を近大和歌山に奪われて反省点だった"勝ち癖"も、今年は県内負けなしでついてきているので大きいはずです。

土屋 このブロックはどこのチームが勝ち上がってもおかしくない、夢のあるブロック。帝京大可児(岐阜県)も、全国に出ると毎回ベスト16ぐらいまで顔を出していますよね。

森田 これまでずっとプリンスリーグ東海を戦ってきたのですが、今年は県リーグに降格しました。高いレベルを求めて大学生との練習試合をたくさん組むなどしましたが、チーム作りは非常に難しかった。一方、インターハイで仲井正剛監督が「強さを証明するのは全国大会しかない」と口にしていましたが、晴れ舞台にかける想いの強さはプラスに働く気がしています。

 今年のインターハイで優勝したのも、県リーグ所属の明秀日立。クラブユース選手権もプリンスリーグ関西で苦戦したガンバ大阪ユースが優勝しました。初芝橋本も含め、モチベーションの高さは勝ち上がりを後押しする気がしています。

土屋 明桜(秋田県)も最近は全国大会の常連になってきましたね。

森田 原美彦監督が就任して6年目。全国に出ることが目標だったところから、全国での勝利が目標になってきたので楽しみです。FW臼田成那選手(3年)という楽しみなストライカーもいるので、悲願の選手権初勝利を今年こそはつかんでほしいですね。

土屋 最後に、今回は4年ぶりに制限なしでの応援が戻ってきます。インターハイやJリーグを見ていると応援によるパワーを感じますし、勝敗に直結する試合も見てきました。スタンドも含めた一体感が選手権の醍醐味なので、あらためて応援が帰ってくるのは楽しみです。