高校サッカー選手権展望 実力伯仲の注目校紹介 頂点に立つチームはどこか?
第102回全国高校サッカー選手権大会展望 前編
12月28日からスタートする全国高校サッカー選手権で、頂点に立つのはどこか。ユースサッカーを取材するライターふたりに注目校を教えてもらった。青森山田、尚志、市立船橋、昌平、静岡学園、大津など、国内最高峰のプレミアリーグを戦うチームが多数集まった、トーナメント表の左側半分を展望する。
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今季のプレミアリーグ・ファイナルで優勝した青森山田高校 photo by Tsuchiya Masashi
前大会優勝の岡山学芸館が入ったブロック
――昨年度優勝の岡山学芸館(岡山県)の入ったブロックから教えていただきます。注目選手紹介の記事では、今年の岡山学芸館は前年王者という看板に苦しんだと話が出ていました。
森田 昨年から選手が入れ替わり、守備面が課題だったのですが、ボランチだったDF郄山隼磨選手(3年)がセンターバック(CB)に入って安定しました。また、インターハイは前線のターゲット役に長いボールを入れていたのですが、夏以降にチームのテーマである縦に速いボールポゼッションを徹底し始めたら、岡山学芸館らしさが出てきましたね。
初戦で当たる尚志(福島県)は、昨年の高円宮杯JFAU−18プレミアリーグのプレーオフで負けている相手。意気込みはかなり強いです。
土屋 ただ、初戦で当たる尚志は今年見てきたなかで、一番バランスがとれていて一番強いと思ったチームです。プレミアリーグでは残り3節で失点がかさんだのですが、そこまではリーグ最少失点で来ていて守備が堅い。そして、何より穴がない。どのポジションにも、全国トップレベルの選手が揃っています。
森田 U−19日本代表のMF安齋悠人選手(3年、京都サンガF.C.内定)、神田拓人選手(3年)、FW網代陽勇選手(3年)がSランクだとすれば、彼ら以外もAランクのイメージです。
土屋 右サイドのMF若林来希選手(3年)はドリブルが特徴なのですが、仲村浩二監督が評価しているのは運動量で「うちの生命線だ」と口にするほど。試合が終わると動けないぐらいフルパワーを出せる選手です。
また、夏のインターハイは登録メンバー全員が3年生で仲が良い。寮生活3年目なのに、みんなが集まると大浴場で歌い出すぐらい雰囲気がいいそうです。最後の大会で日本一になろうという集大成感があって、謙虚な仲村監督からも自信を感じます。
森田 ダークホースとして挙げたいのは、四日市中央工(三重県)。今年は中盤に技術のある選手が揃っていて、サイド攻撃が特徴です。MF片岡空良選手(3年)の運動量も豊富で、すごくいいサッカーをしています。
伊室陽介監督が口にするのは雰囲気の良さ。日本代表のFW浅野拓磨(ボーフム)が高校2年生の時に準優勝しているのですが、当時コーチだった伊室監督が意識していたのは、サブに多かった3年生が腐らないような声掛け。でも、今年はそんな声を掛けなくても、選手自らが前向きな声掛けと取り組みができているそうです。
【スーパーエースが存在する市立船橋】土屋 市立船橋(千葉県)は尚志同様に穴がないですね。上級生と下級生がバランスよく配置されていますし、何よりスーパーエースのFW郡司璃来選手(3年)の存在がすごく大きい。最後に必ず点取ってくれるという信頼感を感じます。
また、DF佐藤凛音選手(3年)とDF内川遼選手(3年)は高体連でも有数のサイドバックです。3年ぶりの本大会出場なので、全員が初めての選手権というモチベーションも高いと思います。
あと、北海(北海道)をプレミアリーグ・プレーオフで初めて見たのですが、想像以上にいいチームでした。
森田 今年はプリンスリーグ北海道でFW野村光希選手(3年)とFW田中準人選手(3年)の2トップが得点ランキングの1、2位を占めるなど攻撃力が売りです。
土屋 印象的だったのはキャプテンのDF川合航世選手(3年)で、元ドイツ代表のローター・マテウスのようなカバーリングに長けた選手でした。島谷制勝監督は「善戦できても勝たないと北海道は弱いと言われてしまうから、勝たないと意味がない」と話していた。選手も同じ言葉を口にしていたのが印象的です。
――このブロックは近年好成績の帝京長岡(新潟県)にも注目が集まります。
土屋 インターハイは、初戦でホーム(開催地)だった旭川実業の全校応援に飲み込まれて前半で3失点。後半に追い上げたけど負けるという悔しい経験をしています。チームにとっていい刺激になったのではないでしょうか。
今年はチームの指揮を主に川上健コーチが執っているのですが、選手からの信頼が厚い。"健さんを勝たせたい"という一体感を感じます。個々のクオリティは全国でもかなりいい選手が揃っているので、厳しいブロックですが、勝ち上がる可能性は十分あります。
森田 2020年度の選手権でベスト4に入ってから、選手の質が確実に上がっています。Aチームが来季からのプレミアリーグ昇格を決めたことで、Bチームがプリンス北信越1部、Cチームが北信越2部、Dチームが県1部リーグを戦うことに。青森山田高のBチームがプリンスリーグ東北で優勝しましたが、日本一を狙うにはそうしたサイクルが必要になってきていますね。
土屋 3年生がプレミアリーグを戦い、2年生がプリンスリーグ東北で戦っている尚志も同じで、下級生が高いレベルを経験することで、次の年の準備がしやすい。チームビルディングで大事なポイントになってきています。
森田 そのほかでは、勝負に徹するサッカーで初出場を掴んだ名古屋(愛知県)、U−17W杯での活躍が記憶に新しいFW高岡伶颯選手(2年)擁する日章学園(宮崎県)にも注目です。
【攻撃力が魅力の青森山田、大津、昌平】
プレミアリーグ勢が多く入ったブロック
――その次のブロックは青森山田ほか、プレミアリーグ勢が5チームも揃い、激戦区と呼ばれていますね。
土屋 青森山田(青森県)はプレミアリーグ・ファイナルで逆転勝利したことも、すごく大きな追い風になりそうです。今年、選手が転機として声を揃えるのが、9月の3−5で敗れたプレミアリーグ柏レイソルU−18との試合と、次の流経大柏戦の2点先行されながら3点を取っての逆転勝ち。自分たちは逆転できると信じられる、青森山田のメンタリティをラストピースとして手に入れた気がします。
森田 チーム立ち上げの頃に正木昌宣監督が「無失点で試合を進めながらも、3点、4点、5点と取れるチーム作りがしたい」と口にしていましたが、今年の青森山田は堅守以上に点が取れる、攻撃的なチームの印象が強いです。
土屋 FW米谷壮史選手(3年)だけでなく、MF杉本英誉選手(3年)、川原良介選手(3年)の両サイドハーフも点が取れる。セットプレーでもCBがゴールを奪えて、いろんな形で点が取れるのは今年の強みです。
森田 反対側に入った大津(熊本県)も力があります。選手編で挙げたMF碇明日麻選手(3年)が高さを生かして点が取れるのも、サイド攻撃に力があるから。特にMF古川大地選手(3年)とDF田辺幸久選手(3年)による左からの崩しが今年はすごくいい。夏以降、FW稲田翼選手(3年)が成長したのも大きかったです。
土屋 僕はDF吉本篤史選手(3年)も好きですね。身長は高くない(176cm)のですが、自分のやれることを把握していて、堅実にプレーできる選手。シーズン途中でレギュラーになったのですが、そうした選手がレギュラーを取っているのも、大津っぽくていいですね。
――今年の昌平(埼玉県)はいかがでしょうか?
土屋 ハマった時の攻撃力はすごいです。プレミアリーグでは、FC東京U−18相手に6点を奪っているのですが、攻撃陣の迫力と多彩さは今大会のなかでもかなり上位だと思います。
1年生からレギュラーとして活躍してきたDF石川穂高選手(3年)が夏に大きなケガをして、選手権に間に合うか難しい状況ではあるのですが、このチームは中学から6年間一緒にやってきた選手が多い。6年間の集大成でキャプテンがケガをしたので、選手みんなが「穂高のために」と口にしています。チームが一つになる要素も、選手権には大事ですよね。
【静岡学園には守備の強度を感じる】森田 加えて、このブロックには静岡学園(静岡県)もいます。攻撃のイメージが強いチームですが、今年のチームを見る度に感じるのは守備の強度です。切り替えの速さやゴール前での粘りが徹底されている。
川口修監督が春先に「改善する力がすごく高くて日本一になった、4年前の代に近い。スペシャルな選手はいないけど、伸び代のある賢い子が多い」と言われていたのも印象的です。
――ほかに推したいチームはありますか?
森田 近年は全国大会から遠ざかっていましたが、今年の遠野(岩手県)は面白いです。1月の東北新人大会では2位にもなりました。MF昆野翔太選手(3年)など、遠野中時代から期待されてきた選手たちがいる代です。昨年から県外生の受け入れも始めており、「サッカーにかける熱量が地元の選手にいい刺激を与えている」と佐藤邦祥監督は話されていました。
土屋 開幕戦のカードである早稲田実(東京都B)と広島国際学院(広島県)の初出場対決にも注目しています。
インターハイで見た広島国際学院は、シュート1本を決められて負けたのですが、すごく攻撃的で面白いチームでした。対する早稲田実は堅守のチームで、東京都でも攻撃力のあるチームを無失点に抑えて勝っている。ホームに近い国立競技場でどれだけ、らしさを貫けるか楽しみです。