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スーパーハイト市場とスペーシア

この1年ほどは軽スーパーハイトワゴン市場が活性化している。今年2023年は4月にミツビシ・デリカミニが発売され、ニッサン・ルークスもマイナーチェンジでクオリティをアップ。10月にはホンダ N-BOXが3代目にフルモデルチェンジ。そして11月には、スズキ・スペーシアも3代目にフルモデルチェンジされた。

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昨年の2022年をふり返っても、夏にスペーシア・ベースが追加設定され、秋にはダイハツ・タントがビッグマイナーチェンジと車種追加(タント・ファンクロス)されたから、軽スーパーハイトワゴンのほとんどのモデルが、この期間で刷新されている。


スズキ・スペーシア・ハイブリッドX(コーラルオレンジ・メタリック+ソフトベージュ2トーンルーフ)    上野和秀

日本を含めて世界的にSUVブームが続いてるが、日本では軽スーパーハイトワゴンも大きなムーブメントになっていることは間違いない。

話をスペーシアに戻そう。クルマ好きのオートカー読者ならご存じのとおり、軽スーパーハイトワゴン市場では、ホンダ N-BOX、ダイハツ・タント、スズキ・スペーシアが「ビッグ3」を形成している。だが、2023年1-9月の新車販売台数では、N-BOXが16万7664台(先代モデル)、タントが11万5817台、そしてスペーシアが9万340台(先代モデル)。絶対王者的なN-BOXは先代のモデル末期まで高人気を持続し、タントやスペーシアに水をあけている。

N-BOXを追うかのようにフルモデルチェンジされた新型スペーシアは、絶対王者に迫れるか。短時間ではあるが試乗の機会を得たので、ファーストインプレッションを報告しておこう。

快適性と予防安全装備を向上

新型スペーシアの実車は、事前撮影会やジャパン・モビリティショー(ここではコンセプトの参考出品だったが)でも見ていたが、あらためて路上で他のクルマの中で見ても「スペーシアだ!」とすぐに分かる。

「スーツケース」から「大容量のコンテナ」にデザインモチーフを変え、ボディサイドには大胆なビード形状やプレスラインを入れ、C-Dピラーのデザインはかなり変更されている。それでも遠目からでもスペーシアと分かるスタイルだ。


スズキ・スペーシア・ハイブリッドX(コーラルオレンジ・メタリック+ソフトベージュ2トーンルーフ)    上野和秀

標準モデルの温和な顔つきや、カスタムのクールな表情が継承されているからだろうか。このあたりは、ボディ形状がほとんど変わらないスーパーハイトワゴンで、それぞれのアイデンティティを主張する各メーカーの腕の見せどころといえるだろう。

インパネまわりのレイアウトは従来型から大きく変わってはいないが、デザインは洗練された。デジタル化されたスピードメーターやオプションのカーナビなどの視認性は良く、スイッチ類も操作しやすいものだ。

ますは標準モデルから。今回の試乗会場は山梨県の富士吉田市がベース。道はけっこうアップダウンが多く、また路面が荒れているところが多い。非力なノンターボの軽自動車を試乗するには、シチュエーションが少し酷であったことを事前に伝えておこう。

会場を出てすぐに強めの勾配路を走るため、どうしてもエンジン回転数は高めになる。逆に下り坂ではエンジンブレーキを効かせるために、やはりエンジンが回ってしまう。したがって、それなりにノイズは高まるが不快なレベルではなく、この手のモデルとしては平均的といえる。

乗り心地を改善させたと開発者が謳うだけに、荒れた路面でも路面からの突き上げなどは抑えられている。カメラマンに運転を代わってもらいリアシートにも乗ってみたが、その印象は変わらなかった。環状骨格構造などによるボディ剛性の高さも感じさせてくれる。

小回り性の良さは、相変わらず小気味良い。スズキの軽自動車に共通のロック・トゥ・ロックこそ大きめだが、狭い道でもスパッとUターンが可能だ。街中の狭い道や、スーパーの駐車場などで車庫入れをするときなどに重宝する。

新型スペーシアのウリのひとつである「マルチユースフラップ」は、なかなか便利だ。クルマに乗ると、リアシートにカバンや上着などを置く機会は多い。だが、ちょっと強めのブレーキで床に落ちたりする経験は誰にでもあろう。このリアシート前端のフラップを上向きにすれば、荷物のストッパーになる。センターアームレストも活用すれば、コーナリングなどで左右に動くことも防げる。

角度を変えれば走行中のレッグサポートや、駐車休憩中のオットマンにもなり、これはぜひとも他のモデルでも採用を検討して欲しくなるアイテムだった。

余裕で走れるターボモデル

続いてはカスタムのXSターボに。ドアを開けて乗り込むと、本革巻きのステアリングホイールとシフトノブ、それにセミマットのボルドーとピアノブラックを用いたインパネまわりは上質に仕立てられ、標準モデルとは雰囲気がかなり異なる。シート表皮も一部にレザーを用いて、なかなかスポーティ。スーパーハイトワゴンでも走りのイメージにこだわりたいという人は、こちらを選びたくなるだろう。

エンジンはターボ付きゆえ、標準モデルと同じ上り坂を走っても余裕を持って駆け抜けていく。ターボラグはほとんどないので加速時のレスポンスも良く、エンジン回転数が高まれば多少はノイジーになるが、ノンターボよりは低めだ。背の高いクルマゆえ、コーナリング時には大きめのロールを伴うが、この手のモデルとしては平均的といえよう。


スズキ・スペーシア・カスタム・ハイブリッドXSターボ(ピュアホワイトパール+ブラック2トーンルーフ)    上野和秀

カスタムでは高速道路でACC(アダプティブ・クルーズコントロール)を試すこともできた。先行車に接近したときの減速や、いなくなったときの加速もスムーズだ。また、試せなかったが、ウインカーのレバーと連動して、自動で加減速走行を行いスムーズな追い越しや合流ができるという。これはなかなか役に立ちそうな運転支援システムだ。

デュアルセンサー・ブレーキIIをはじめとした予防安全システムに関しては、幸いなことに(?)試す機会はなかったが、事故が起きたときのダメージを考えると、軽自動車こそ充実させて欲しいものだ。ACC以外の予防安全システムは、エントリーグレードまで標準装備にしている点は高く評価したい。

すべての面で進化していた

フロントピラーを細くしたことによる前方斜め視界の良さ、室内の多彩な収納、後席収納時の低床化で広がった荷室高など、スーパーハイトワゴンとしての使い勝手を高めた新型スペーシア。

数多のライバルに対して、いちばんのセリングポイントは後席の快適性だろう。広さに関しては、ライバルたちも大差ないと思われるが、前述の「マルチユースフラップ」や左右独立でスライド&リクライニングし、センターアームレストも備えたリアシートは座り心地も乗り心地も良い。


スズキ・スペーシア・カスタム・ハイブリッドXSターボ    上野和秀

モチーフはコンテナであっても、室内は居心地の良い空間に。新型スペーシアは、そんな開発者の思いが感じられる仕上りだった。