エスティ ローダー カンパニーズ(The Estée Lauder Companies)は、自社の高級ブランドのエスティ ローダー(Estée Lauder)とスキンケアブランドのジ・オーディナリー(The Ordinary)を皮切りに、TikTok Shopに正式に進出している。

市場での位置づけの違いから選ばれた2ブランド



エスティ ローダー カンパニーズのグローバルオンライン担当シニアバイスプレジデント、ジョン・ローマン氏によると、同社は、市場におけるそれぞれの位置づけの違いにより、ポートフォリオからこの2ブランドにまず注力することにしたという。ローマン氏は、ジ・オーディナリーのファンベースと広範なクリエイターネットワーク、そしてエスティ ローダーの技術革新の採用とTikTokクリエイター主導のキャンペーンの成功を挙げた。また、エスティ ローダーのTikTokに注力したキャンペーンはアーンドメディア価値とエンゲージメントの点で成功を収めていると述べている。エスティ ローダーは2021年にTikTokに加わった。一方、熱狂的なZ世代のファン層を得ているジ・オーディナリーは、美容ブランドとしてTikTok最強のフォロワーを抱えており、その数は130万人である。

「(フォーカスしているのは)実際のTikTok Shopそのものやストアフロントではない」とローマン氏。「消費者ジャーニーの総合的な体験が重要であり、そこで購入したいならTikTok経由で購入できる機会を顧客に提供するものだ」。

両ブランドのライブストリーミングへのアプローチ



両ブランドのTikTok Shop戦略には、ライブストリーミング、短編コンテンツの公開、ユーザーのTikTok動画へのアフィリエイトリンクの組み込みなどがある。ローマン氏は、この戦略により、非公開の売上が推進されるだけではなく、アーンドメディア価値も向上すると述べ、TikTok Shopの売上は将来かなりなものになると予想していると語った。

ローマン氏によると、ジ・オーディナリーはライブストリーミングを直接販売チャネルとして捉えており、視聴者が質問してホストと対話できることを目指している。ライブストリームは同ブランドの独立店舗とスタジオから配信され、社員が司会を担当する。一方、エスティ ローダーは、スタジオ内に設置されたクリエイティブなセットで撮影し、プロの司会者を用いるなど洗練度の高いアプローチをとっている。また、エスティ ローダーはライブストリームのチャットボックスでコメントや質問に対応することにも注力している。両ブランドのライブストリームコンテンツは、配合、テクノロジー、原材料、ブランド自体に関する教育にフォーカスされている。

アフィリエイトプログラムの流れ



アフィリエイトプログラムは、TikTokコンテンツクリエイターが応募して、各ブランドを通じて手数料を稼ぐというものだ。承認されたクリエイターは、製品を宣伝するアフィリエイトリンクを自分のTikTokコンテンツ内に埋め込める。ローマン氏は、プログラム参加者の大部分は少数のフォロワーを持つマイクロクリエイターであり、承認プロセスはほかのインフルエンサープログラムと変わらないと述べている。両ブランドは、応募者とそのコンテンツ、視聴者を審査して、ブランドに適切かどうかを評価する。TikTok Shopには全体で20万を超えるセラーがおり、10万人を超える登録クリエイターがTikTok Shopアフィリエイトを通じて商品を共有している。TikTokによると、セラーは手数料の割合を決められるが、TikTokでは0%は認められていない。ジ・オーディナリーとエスティ ローダーの手数料率に関して、ローマン氏にコメントを求めたが、返事はなかった。

TikTokで自然な売上コンバージョンの機会を獲得



TikTok Shopの導入はインスタグラムShopとは明らかに対照的だ。後者は、2020年に登場したものの2年後に広告を優先した親会社のMetaによって優先度が下げられた。インスタグラムとブランドはインスタグラムShopに表示される外観や雰囲気を管理していたが、TikTokはクリエイター主導のアプローチをとっている。ユーザーは自分の視聴者に適したコンテンツを作成してアフィリエイト手数料を獲得できるため、もっと自然な売上コンバージョンの機会が生まれ、ブランドの売上を推進し続けることが可能だ。また、TikTokが検索エンジンのようになっている点も注目に値する。ユーザーは明らかにTikTokで製品などを検索している。だが、これはTikTok Shopでのショッピングが明らかに異なっているということでもある。なぜなら、TikTok Shopに行って商品を探すことが期待されているのではなく、動画で商品を見たらすぐに購入することが期待されているからだ。この発見プロセスでは、ストアフロントを飛ばしてショッピングバッグに行くことができる。

「TikTok Shopは、一般的な製品主導のマーケティング戦略ではなく、消費者グループや興味やトレンドに依存したり、それらに対応したりする方法で、マーケティングを行うのに役立つ」とローマン氏。「我々は、消費者がTikTok Shopに移動して、通常のウェブサイトで行うのと同じ方法で購入することは期待していない」。

期待外れの業績がTikTok Shopへの参入を後押しか



エスティ ローダー カンパニーズの2つの主力ブランドの参入は、期待外れの四半期売上高が判明した直後に行われた。同社は11月に、中国での期待外れの売上高を含め売上高が10%減少したことを受け、通期予想を下方修正した。エスティ ローダーの株価は今年約50%急落し、時価総額約450億ドル(約6.6兆円)が消失しており、WSJからは、若い消費者にリーチするための同社のTikTokの導入が競合他社よりも遅れていることが指摘されている。エスティ ローダーとジ・オーディナリーのチームはTikTok Shopについてあらゆることを学ぼうと考えているが、現時点での焦点はTikTok上で2ブランド合計のEMVを推進するための効果的なモデルを作成する方法である。

TikTokのTikTok Shop米国オペレーション・エンタープライズ責任者、ニコ・ル・ブルジョワ氏は次のように述べている。「美容ブランドは、TikTok Shopを利用することにより、コミュニティと直接つながり、クリエイターと提携し、顧客に新製品を試すよう促すことができ、これらすべてをシームレスなショッピング体験の中で行うことができる」。

[原文:Estée Lauder and The Ordinary share strategies for TikTok Shop]

EMMA SANDLER(翻訳:ぬえよしこ、編集:山岸祐加子)