クルマだと夏はノーマル、冬はスタッドレスと季節でタイヤを使い分けることが一般的ですが、飛行機は1年を通して同じ型を使っています。なぜこのスタイルで運航されているのでしょうか。

自動車タイヤよりは表面滑らか?「飛行機タイヤ」

 2023年11月24日(金)から26日(日)にかけて、北日本を中心に強い寒波の到来が予想されており、NEXCO東日本などが関東地域在住者などに「冬タイヤの装着」を呼びかけています。一方、雪の降る空港で日常的に、離着陸のために高速で滑走する旅客機には、「冬タイヤ」はなく、年間で統一のモデルを使っています。なぜ「旅客機には冬タイヤがない」のでしょうか。


新千歳空港の旅客機(乗りものニュース編集部撮影)。

 しかも、旅客機のタイヤは一見して"ツルツル”です。溝は高速走行時の横ブレを抑える縦方向のみで、クルマ用よりもだいぶ滑りやすく見えます。

 とある大手航空会社のパイロットによると、着陸時には車輪ブレーキ以外に、空気の流れをさまたげることで減速する「スポイラー」とエンジンの噴射方向を変える「リバーサー(逆噴射装置)」を用いて速度を落とすことから、タイヤを変えなくても問題はないそうです。また、クルマの何十倍もある飛行機の重量も、タイヤのグリップ力を高める助けになっているといいます。

 また飛行機が高速走行する滑走路などが、まっすぐな場所であることも、タイヤの変更なく離着陸できる要因です。ちなみに、タイヤの縦溝に対し、滑走路の路面には横方向に溝が刻まれており、これもブレを抑えるサポートをしています。

 一方、誘導路などで横に曲がるときなどは、横滑りを起こす可能性も考えられるため、冬はほかの季節とくらべ速度を落として走るそう。先述のパイロットによると、積雪や凍結した路面状況下において、3ノット(約5.5km/h)以下で曲がる訓練を受けるそうです。

空港除雪体制も充実 実は飛行機の大敵着氷 どう対策?

 また空港側も、冬は除雪の体制を常に整えています。たとえば新千歳空港は、数種類の除雪車を用意し、24時間体制で滑走路、誘導路、駐機場などを除雪。これらの車両は原則、スタッドレスのタイヤを履いています。

 こうして滑走路の除雪が完了したとしても、路面の摩擦係数が所定の基準を満たさない場合や、横風が強い場合などは、離着陸することができません。この路面のチェックには、「滑走路摩擦計測車」という専用車両が用いられます。


ANA機にデ・アイシングを施す様子(乗りものニュース編集部撮影)。

 むしろ、冬の飛行機にとっては、これがタイヤの横滑りより厄介で危険な問題があるのです。

 それは、翼についた氷によって翼形状が変わってしまい、離陸に必要な空気の力を十分に得られないこと。実際、過去に積雪対応が不足していたことで、離陸に失敗した事故も発生しています。

 これを避けるため、フライト直前の飛行機は「デアイシング」といって、翼についた雪を除き新たな着氷を防ぐ防徐雪氷液が散布されます。なお、直前に行われるのは、防徐雪氷液の効果があるうちに上空へ出るためです。新千歳空港などでは2023年より、液がしっかり翼の表面に散布されているかの視認性を高めるべく、色付きの防徐雪氷液の使用が始まっています。

 とある飛行機用防徐雪氷液の製造会社は防徐雪氷液の効果が持続する時間について、製品による差はあるものの、もっとも厳しい条件(マイナス25度以下、雪のコンディションが水っぽい場合)で30分から40分、緩い条件(マイナス3度以上、雪が硬い場合)で2時間から2時間半ほどと、以前の取材に対し答えています。