グルメサイトで競合する「ぐるなび」と「食べログ」だが、近年はSNSなどで飲食店を探す動きが拡大している(写真:各社ウェブサイト)

外食需要が急回復する中、グルメサイトでは明暗が分かれている。「食べログ」が好調な一方、苦戦する「ぐるなび」は10月に「楽天ぐるなび」へサービス名を変更したばかり。いったい、何が起きているのか。

ぐるなびが11月1日に発表した2024年3月期中間決算(4〜9月期)は、売上高が前年同期比3.6%減の56億5200万円となった。2023年度通期では売上高が同11.4%増の137億円を見込んでおり、年末年始の宴会需要で巻き返しを狙う。

営業損益は7300万円の赤字となり、前年同期の赤字16億円から大幅に縮小した。協業先企業へ社員を大量出向させるなどして人件費削減を進めるが、通期でも7億円の営業赤字となる見通し。2021年3月期の営業赤字74億円から大幅に改善するとはいえ、4期連続で営業赤字に沈むことになる。

ぐるなびは3期連続で多額の赤字を計上したことで、財務内容が悪化している。2020年3月末に187億円あった利益剰余金は、2023年9月末には2.5億円まで“蒸発”した。

同社は無借金の強固な財務体質で知られたが、2021年に筆頭株主の楽天グループなどから第三者割当増資で33億円を調達。2022年12月にはオプティムと資本業務提携し、3億円を調達した。税金負担を軽減するために資本金を23億円から1億円への減資も行った。時価総額は2016年の約1300億円から、直近は約170億円まで沈んでいる。

「定額課金」「居酒屋」に依存

一方、カカクコムが運営する食べログの回復力は際立っている。11月7日に発表した2024年3月期中間決算(4〜9月期)は、食べログ事業の売上高は前年同期比20.5%増の130億3600万円となった。食べログ事業の損益は開示されていないが、同事業や価格比較サイト「価格.com」を含むセグメント利益は同5.4%増の110億円と好調だ。


食べログと比べると、ぐるなびの回復スピードは明らかに遅れている。大きな差がついた背景には、大きく2つの理由がある。

1つ目が両社の収益構造の違いだ。グルメサイトの収益源は主に、飲食店の紹介や写真掲載などのサービスを提供することによる月額固定の販促サービス手数料と、飲食店がサイトのネット予約機能を経由して予約を獲得した人数に応じて従量課金する予約手数料に分けられる。

ぐるなびの場合、月額固定型の売上高が全体の6〜7割にもなり、5割前後の食べログと比べて比率が高い。コロナ禍前のぐるなびの主力プランは月額5万円で、2.5万円プランを展開する食べログと比べて高額だった。それでも情報掲載だけでなく、経営分析など手厚い支援を提供するぐるなびへの需要は大きかった。

しかし、コロナ禍で事情が変わった。飲食店は売り上げの急減に見舞われ、固定費となる月額手数料が重荷になった。飲食店は固定費削減のため、サービスを解約したり低額プランに変更したりする動きが相次いだ。

有料加盟店が減少

ぐるなびは2021年9月に主力プランを3万円に値下げしたものの解約は止まらず、ピーク時に約6万2000店あった有料サービス加盟店舗数は足元では約4万2500店まで減少。「有料加盟店舗数はようやく底を打って増え始めている。再加盟もそれなりの数になっている」(ぐるなびの杉原章郎社長)と説明するが、一度離れた顧客を再獲得するのは容易ではない。

一方、食べログは定額課金型が主力とはいえ、ぐるなびと比べてネット予約手数料で稼ぐ割合が大きい。食べログの予約手数料はランチで1人100円、ディナーで1人200円。ぐるなびのランチ11〜41円、ディナー55〜205円と比べて高額だが、足元での飲食店需要の急回復の恩恵をダイレクトに享受できており、それが好業績の一因になっている。

2つ目の理由が、ターゲットとする店舗業態の違いだ。ぐるなびは有料加盟店のうち、居酒屋業態の占める割合が37%と高く、とくにチェーン系の大手居酒屋に強いと言われる。食べログは業態別の割合を開示していないが、大手居酒屋はもちろん小規模な居酒屋やカフェ、レストランなどをバランスよく開拓している。


ある競合グルメサイトの関係者は「ぐるなびは、10人以上の大人数の宴会に強かったため、宴会需要の蒸発によるインパクトが大きかった。今は外食需要がかなり戻ってきているが、それでも大きな宴会需要の戻りは弱い」と指摘する。

ぐるなびが回復に向けて頼りにするのが、協業先企業との連携だ。中でも15.6%を出資する筆頭株主の楽天とは、サービス名を楽天ぐるなびに変更したほど頼りにしている。

ぐるなびと楽天は2018年に資本業務提携し、ぐるなび会員2507万人のうち楽天IDと連携済みの会員数は787万人に上る(いずれも2023年9月末現在)。予約によって楽天ポイントが貯まるグルメサイトという認知度を拡大し、楽天会員にメリットを訴求する考えだ。ネット予約が増加すれば、月額固定型サービスの加盟店舗数の回復にも弾みがつく。

ぐるなびは元々、ポイント還元率が高く宴会の幹事に好まれていた。楽天ポイントを前面に出したのも、ポイント還元を重視するユーザーが多いことを自覚しているのだろう」(先述の競合グルメサイト関係者)

しかし頼みの楽天は携帯電話事業への巨額投資が負担となり、業績が悪化している。各種サービスでの楽天ポイントの還元率悪化が続いており、そのたびに「楽天改悪」のワードがSNSでトレンド入りするなど消費者の不評を買っている。

若年層に顕著なグルメサイト離れ

食べログは、従来の「Tポイント」に加えて、11月末から三菱商事やローソンなどが共同展開する「Ponta(ポンタ)ポイント」を付与するサービスを開始する予定。今後、消費者の「楽天離れ」が進めば、ぐるなびの楽天ポイント付与という金看板の優位性も揺らいでくる可能性がある。

ぐるなびは新たな収益源を構築することが急務だ。2022年には楽天から引き継ぐ形でデリバリー・テイクアウトサービスを立ち上げたが、1年余りで撤退している。

現在、最も注力しているのがモバイルオーダーサービスの「ぐるなびFineOrder」。客のスマホからQRコードを読み込むことで料理の注文と決済ができる。大手居酒屋チェーンなどで導入が進んでおり、ぐるなびも営業体制を強化中だ。

一方で飲食店の利用者の間では、グルメサイト離れが進む。とくに若年層が顕著で、グーグル検索やSNSなどで飲食店を探す動きが拡大している。飲食店を探して予約する従来型のグルメサイト事業だけで成長戦略を描くことは、厳しくなってきている。ぐるなびは既存事業の立て直しと、新規事業の創出という2つの難題に直面している。

(岸本 桂司 : 東洋経済 記者)