「恋愛大国」フランスの若者に起きている変化(写真:jaspe/PIXTA)

7月末、フランス内務省のジェラルド・ダルマナン大臣によって、ティーンエイジャー向けのセクシュアリティに関する本『Bien trop petit(小さすぎる)』が販売禁止となりました。ポルノとみなされ、18歳未満は販売禁止とされたのです。

これは一種のパラドックスを示しています。一方では、ティーンエイジャーがマンガを読んだり、スマートフォンでほとんどあらゆる種類のポルノ映画を見たりしているのに、もう一方では、同じティーンエイジャーがセクシュアリティを発見するのに役立つはずの本を読むことを禁じられている──。

今日、私たちは大きな「愛のスーパーマーケット」にいるように見えます。恋愛に関するものは何でも簡単に手に入り、性はこれまでになく社会に浸透しているような。ところが……。

若者は性交渉に関心がない

2022年の調査(Ifop)によると、18歳から25歳の若者の43%が、2015年の25%に比べて、この1年間にまったく性的な関係を持たなかったと言います。実際、最近のフランスの新聞では、若者が恋愛をしなくなったという記事が少なくありません。

フランスといえば長らく「恋愛大国」として知られてきただけに、これはとても驚きです。パリにいると、街のあちこちでキスをしているカップルや、手をつないで歩いている老若男女を見かけます。フランスの小説、映画、詩のほとんどは、愛が主要な主題の1つなのはご存じでしょう。

しかし、多くの国がそうであるように、フランスでも自発的に「恋愛相手」と出会うのは難しくなっているようです。数年前から、自発的な方法よりも、出会い系アプリを通じてパートナーを探すことが主流になっています。「Meetic」「AdopteUnMec.com」「AttractiveWorld」などに加えて、女性が最初の一歩を踏み出すための「Tinder」や 「Bumble」、長期的な関係を築くための「Hinge」が人気です。

女性はいつでも無料で利用できるのですが、こうしたツールが増えていることや手軽さにもかかわらず、若者たちの欲望はますます薄れているように見えます。背景の1つには、恋愛にまつわる伝統的なイメージへの抵抗があるようです。すなわち、従来の恋愛は「男性支配」に基づいたシステムとの考えがあり、これが足かせとなっているわけです。

恋愛から遠のいている若い女性たちに、「今最も大切にしているものは?」と尋ねると、「友達」という答えが返ってくることは少なくありません。

ソルボンヌ大学に通う20歳のリンダは、「友達との外出、勉強、ベビーシッター」が人生で一番大切なことだと言います。友情は恋愛より大切なわけです。彼女は親友(女性)と多くの時間を過ごしますが、男友達はいません。「そんなことはどうでもいいの。私は友達が大好きなの」とリンダは言います。

「合意」の概念が広がっている

男性側も女性を誘うのに「苦慮」しているようです。近年、セクシュアル・ハラスメントに関するさまざまなスキャンダルが報じられる中、女性のハラスメントに対する意識が高まっており、アプローチの仕方によっては、告発される可能性があることを認識しているのです。

また、女性自身も自らの性的な行動を自分で決めたいと考えるようになっており、望まない行為には「ノー」という立場をはっきりするようになってきています。性行為においても相手を満足させるためにするのではなく、自分がしたいことをして快楽を得られることを重視するようになっています。

つまり、性的行為は「互いの合意」のうえで、という意識が高まっているわけですが、より若い世代においてはこの合意がさらに関係の深化を複雑にしている側面があるようです。

例えば、もうすぐ17歳になる高校生のケヴィンには、同じクラスのタニアという「女友達」がいました。2人はほとんどの時間を一緒に過ごし、一緒にいる時間を大切にしていました。2人はまるでカップルのようで、2人の関係は、友人や家族の間でも公認のものでした。

互いの家に泊まることもありましたが、ケヴィンは「性的な関係はタニアの同意がなければならない」と強く意識し、彼女が望まないなら、と彼は自らが主張することはありませんでした。

ところが、その年の暮れ、ケヴィンはタニアから別れを告げられてしまいます。彼が積極的ではなかったことが原因かもしれませんが、若い男性にとって女性の「真意」を察するのは難しいことだったようです。

一方、女性側も安易に同意することで、「簡単な女性」と見られたくないという思いもあるようです。同名の小説を原作とする映画『The Consent(同意)』では、14歳という若い女性たちが同意の概念について語っています。

今は「LGBTQIA+」

もう1つ、今のフランスの若者世代を語るうえで欠かせないのは、セクシュアリティの多様化です。

皆さんは「LGBTQIA+」という表現をご存じですか? 以前はLGBTと呼ばれていましたが、今はLGBTQIA+です。

これは何の略でしょうか?

L=Lesbian、G=Gay、B=Bisexual、T=Transsexual、あるいは、Transgender、 Q=Queer、 I=Intersex、 A=Asexual、あるいは、Aromantic、そして + はすべてのジェンダーとセクシュアリティを表しています。

Asexual(アセクシュアル)は、誰に対しても性的魅力を感じないことを意味します。ただし、これは何かが欠如しているわけではないので、問題として扱われるべきではありませんし、パートナーと共にカップルとして生活しないという意味でもありません(文脈は違いますが、セックスレス・カップルという言葉は以前からあります)。

モナ(18歳、美術専攻の学生)の例を見てみましょう。彼女が通う美術大学のクラスは女子が中心で、「男子と知り合うのは難しい」と言う彼女には男友達がいません。

最近、トランスジェンダーのロイック(20)とルームメイトになったと言います。手術を受けていない女性で、男性になりたいのだそう。モナにとってこれは自然なことであり、問題と捉えたことはありません。「誰もが自分自身のことを深く知るべき」とモナは言います。

今の若者にはタブーはなく、それぞれのセクシュアリティなどについて話すことは複雑ではないようです。幸せな恋愛やセックスをすることよりも、自分自身のアイデンティティと向き合い、ありのままであることが重要なのです。もちろん、セクシュアリティやアイデンティティに対する偏見も上の世代に比べるとあまりありません。

高齢者は恋愛により積極的になっている

一方で、フランスの高齢者はより恋愛などに積極的になっています。

『フランス女性の60歳からのセックス・ガイド』『老いるということ:優雅に老いる』など、高齢者の恋愛についての著書も多い、作家のマリーヌ・ド・エヌゼルよれば「愛は決して止まらない。愛は健康にいい。特に精神的な健康に。思いやりや優しさや重要で、高齢者に喜ばれる"スローセックス"の一部である」。

実際、若い世代は、彼らの親や祖父母世代が頻繁に愛し合っていることに驚くかもしれません。最近のいくつかの研究によると、高齢者の恋愛関係において最も重要なのは「優しさ」だと言いますが、それは性的関係を持たないという意味ではありません。60〜70歳は、18〜24歳(21%)よりもさらに頻繁に(34%)性的行為を行っているという調査もあります。

ネットによってさまざまなものが手に入れやすくなり、それぞれが自分のセクシュアリティに素直に生きられるようになる中で、恋愛は若者たちにとってより「面倒くさいもの」になっているのでしょうか。


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(ドラ・トーザン : 国際ジャーナリスト、エッセイスト)