©️N.Tanaka/SHUTTERZ

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11月3日(金)より開催されるフィギュアスケート・グランプリシリーズ第3戦フランス大会。

男子シングルには、北京オリンピック銀メダリストの鍵山優真が登場する。

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美しいジャンプと滑らかなスケーティングを武器に、日本フィギュア史上最年少の18歳でオリンピックメダリストとなった鍵山。

世界の頂点を目指して臨むはずだった昨シーズンは、7月に左足のすねを疲労骨折するなど怪我が発覚し、すべての国際大会を欠場した。

鍵山:「こんなに大きな怪我をしたのは生まれて初めて。一生治らないのかなと思うぐらい、本当につい最近までしぶとく怪我が生き残ってたんですよ。なかなか思い切り滑ることができなくてすごく悔しい思いをしたので、今年はエンジンフル回転でトップを目標に全力でやりたいなと思っています」

決意を新たにした世界一への目標。

今年5月、アメリカ・ロサンゼルスで練習を積む鍵山に密着取材した。

まずは、父でありコーチでもある正和氏とともにジャンプの感覚を取り戻すことから始める。

正和氏:「巻き込んでいかないように気を付けることと、踏みきったときに右脚にしっかりと体重が乗るように意識して」

鍵山:「今コケかけた」

正和氏:「滑っていく方向と体重移動する方向がズレてる」

実は、今年に入ってから5月の時点まで一度も4回転ジャンプを成功できずにいた。

そこで、ジャンプへの入り方を入念に確認。ようやく4回転サルコウを成功させる。

正和氏:「やったじゃん。復帰後初だな」

コーチとハイタッチして成功を喜んだ鍵山。武器のジャンプを取り戻す手応えをつかんだようだ。

◆SPは“困難を描くプログラム”

しかし、今シーズンはジャンプ以外にも課題を抱えていた。

鍵山:「どのように成長していくかを考えたときに、ジャンプはもちろん、表現の部分が自分の中でまだ課題として残っていたので、そこをしっかりと強化したい。ジャンプと同じぐらい表現も100%で来シーズンはできたらいいなと思っています」

そこで指導を仰いだのが、羽生結弦の『SEIMEI』などを手掛けた世界屈指の振付師、シェイリーン・ボーン。彼女と一緒にトレーニングすることが、アメリカに来た最大の理由だった。

ボーンが手掛けた鍵山のショートプログラムは、アメリカのロックバンド、イマジン・ドラゴンズの『ビリーバー』。昨シーズンからの継続だが、今年は特別な意味をもっている。

ボーン:「困難を描くプログラムなので、彼の心情に近いものがあると思います。ケガをしていた時期に、自分を奮い立たせてあきらめないという心情を表現します」

『ビリーバー』の歌詞には、「痛みが僕に信念をくれたんだ」という言葉がある。怪我からの復活に懸ける鍵山をまさに表現している。

その思いを伝えるべく、表現力を磨く練習に取り組んだ。

ボーン:「全員ではなくひとりを見つめるようにして。観客はみんな自分が見られていると感じるから。それが観客とのつながりを生むの」

まずは、観客と心を通わせる視線や動きを学ぶ。

つづいて持ち出したのは、赤いコーン。これで体を支えるようにして滑る。さらに、コーンで体を支え、両足を前後に開いて滑る独特な練習。

いったいどんな意図があるのか?

ボーン:「氷に近い場所で滑り、新しい動きを見つけるためです。バランスのいい身体の動きやブレードの使い方の理解に繋がる練習です」

コーンを使うことで、これまでにない動きを発見できるという。鍵山は怪我からの復活に懸ける思いを全身でダイナミックに表現した。

さらに、ボーンからはこんな言葉も。

ボーン:「力を入れすぎるとエネルギーが消費されるから、楽しむことを意識して。あなたがスケートを楽しんで、その感情を観客とシェアするの」

余計な力を抜き、滑る楽しさを観客に伝えることこそが大切――。練習を終えた鍵山は「楽しかった」と充実した表情を見せた。

◆表現力向上のため心強いコーチが加入

アメリカの地で表現力向上のきっかけをつかんだ鍵山。そんな彼に8月、頼もしい存在が仲間入りした。

イタリア出身で、ソチオリンピック銅メダリストのカロリーナ・コストナーが新コーチに就任したのだ。

鍵山といえば、これまで正和氏がコーチを務め、親子二人三脚で上り詰めてきた。しかし、正和氏は幼いころから親子で歩んできたぶん、自分以外のスケート技術を取り入れてほしいと感じていたそう。

正和氏:「僕の知らないスケートもたぶん彼は手に取ることができるはずなので、そういうものを求めていってほしい。本当にもっと羽ばたけるはずなので」

ミラノ五輪で金メダルをとるため、動き出した新生“チーム優真”。

9月には1年半ぶりに出場した国際大会「ロンバルディア杯」で見事優勝し、上々のスタートを切った。

怪我を乗り越えた鍵山が世界一という夢を叶えるため、グランプリシリーズでさらなる進化を見せる。