久保建英のCLザルツブルク戦でスペイン紙が称えた「フットボールが横溢したプレー」とは?
「タケ(久保建英)はテクニカルな選手に映るだろう。しかし、それだけではない。同時にタクティカルなプレーヤーだ」
レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)のコーチ陣は、その"聡明さ"を称賛していた。
「タケは一見してうまい選手だが、とにかく利発で賢い。だから、守備のところの仕事をしながら、攻撃に関わることができる。周りのプレーから学び取る学習能力も高い。それは周りのプレーを生かす適応力にも通じていて、たとえばカウンターでもしっかり仕事ができるのだ」
戦術レベルの高さは、指導陣にとって頼もしいのだろう。それが濃厚に出た試合になった。
10月3日、チャンピオンズリーグ第2節。敵地で0−2と勝利したザルツブルク戦の久保建英は、ニュース映像になりやすいわかりやすい活躍はしていない。しかし、タクティカルプレーヤーとしてのクオリティの高さが出た試合と言える。
ザルツブルク戦で2点目を決めたブライス・メンデスと久保建英(レアル・ソシエダ)
立ち上がり、久保は変則的な2トップの一角で、やや中央での強度の高いプレッシングを担当。相手の左センターバックと左サイドバックを確実に分断している。これで相手のビルドアップがノッキング。戦術的アドバンテージを取ることができた。
言うまでもないが、これはチームとしての約束事のひとつであり、久保だけの功績ではない。しかし、アタッカーが守備の綻びを作らない、というのは大きな仕事と言える。前半は敵にまったくペースを与えなかった。
2分、ビルドアップの攻撃時には4−3−3となる右アタッカーとして、久保は2人のマークを翻弄し、逆サイドのアンデル・バレネチェアに絶好のパスを通した。試合を通し、相手を引きつけ、味方が生きるキープ力は絶大で、戦術的な貢献度は高かった。与えられたポジションや役割が変則的で、難解だったはずだが、それに対応できる知性が際立っていた。
こうした動きは首脳陣が重要視するものだろう。
たとえば先日のレアル・マドリード戦では、ミケル・オヤルサバルが久保のシュート軌道に入ってしまい、オフサイドでゴールを帳消しにするミスがあって、厳しい批判を浴びた。しかし、首脳陣の評価は落ちていない。久保のパスをバレネチェアが受けてゴールした場面で、オヤルサバルは相手FWを直前にニアに引き連れる動きをしていた。そうした戦術的ディテールが、チーム内では賛美されていたのだ。
【派手なドリブルやシュートがなくても】
「味方を生かすことで、自分も輝ける」
それは惜しまれつつ引退したダビド・シルバの教えでもあるが、緩急の変化を使った華麗なテクニックだけでなく、戦術的な自己犠牲も含んでいるのだろう。
前半26分、2点目のシーンで久保が直接関わったのは一瞬だが、白眉だった。
自陣ゴール前から発動されたカウンター、久保は相手ゴールに背を向けてブライス・メンデスのパスを受けると、そのスピードを落とさずにボールを落とす。その後、ドリブルで持ち上がるブライスの右側を、久保は力強いランニングで駆け上がることで、相手に的を絞らせていない。おかげでブライスは自分の間合いでシュートを打てた。
久保のプレーの簡潔さ、献身性、タフネスが出た瞬間で、まさにタクティカルな動きが集約されたものだった。
久保は随所で老獪とも言えるプレーで、若いチームを相手に差を見せつけている。41分には左に回ってボールを受けると、相手を十分に引き付けてパス。結局、構わず突っ込んできた相手選手に足の甲を踏みつけられ、ファウルになった。これでイエローカードを誘い、相手の動きをひとつ封じた。
激しく食いつくようにマークしてくる相手に対し、ダイレクトで叩き、フリーになった味方を使う。それも、歩幅まで計算したようなパスが多かった。派手なドリブル突破や豪快なシュートはなくても、効率的なプレーが目立ったと言える。
「サイドを替える動きで、(相手チームの守備に)混乱を引き起こしていた。前半2分のバレネチェアへのパスはゴールアシストに等しい。フットボールが横溢したプレーだったが、残念なのは相手の打撃の対象になっていたことだろう」
スペイン大手スポーツ紙『エル・ムンド・デポルティーボ』の評価は、的を射ている。
こうしたゲーム展開で、久保がフォア・ザ・チームで戦い、実際に勝利に貢献できた点は、今後に向けて大きな布石になるだろう。毎試合、スーパーな活躍をすることはリオネル・メッシのような"神"にしかできない。どんな状況や相手であっても、戦術的ミッションを果たし、大きく力を落とさず、敵の力を削ぎ、勝利を重ねることが、次につながる。
10月8日の次戦は、強豪アトレティコ・マドリードとの一戦になる。週2ペースでの試合は、どんどん目の前に迫ってくる。相手のマークは厳しくなり、荒っぽさも増すだろう。
久保はピッチに立ち続け、勝利に貢献することで、さらに殻を破る。