森保ジャパンの「1トップ問題」豪華タレントがそろう2列目との格差をどう埋めるべきか
9月の欧州遠征では、強豪ドイツ、難敵トルコに快勝した日本代表。攻守ともに安定した戦いを見せて、カタールW杯以降のさらなる成長を感じさせた。
なかでも際立っていたのは、多彩なタレントをそろえる2列目の攻撃陣。ドイツ戦で先制ゴールを決めた伊東純也をはじめ、久保建英、鎌田大地、三笘薫らが"世界レベル"のパフォーマンスを披露した。さらに、トルコ戦では中村敬斗が2ゴールを決めるなど、新たな戦力も台頭しつつあり、質、量ともに申し分ない状況にあると言える。
だが、そんな2列目に比べて、物足りなさを感じたのが「1トップ」である。欧州遠征では上田綺世、浅野拓磨、古橋亨梧が同ポジションを担ったが、いずれもスケール感が乏しく、高い存在感を示した2列目の面々との力量差はかなり大きいように見えた。
現状、確固たる選手がいない「1トップ」は、はたしてこのままでいいのだろうか。現有戦力たちが熾烈なポジション争いを演じて、誰かしらの成長を待つしかないのか。あるいは、新たな人材の登用を考えるべきなのか。森保ジャパンが抱える「1トップ問題」について、識者3人に意見を聞いた――。
ドイツ戦では上田綺世が1トップで先発出場した
試すべきは鎌田と久保の縦関係
それが実現できれば無駄はなくなる
杉山茂樹氏(スポーツライター)
日本代表の「1トップ問題」。候補選手である古橋亨梧、上田綺世、浅野拓磨らは帯に短し襷に長しだ。エースと呼べる絶対的な存在ではない。少なくとも大迫勇也のようにボールを長い時間、効果的に保持する力はない。
よって、活躍は周囲とのコンビネーションに委ねられる。周囲の選手との距離が遠い4−3−3より、近距離で1トップ下が構える4−2−3−1のほうが適しているとすれば、1トップ下との組み合わせがカギとなる。
スタメン候補が鎌田大地で、右ウイングも兼ねる久保建英が2番手だ。鎌田はポストプレーができる万能型。誰ともコンビを組むことができる。大迫が1列下で構えているという感じだ。ポストプレーが苦手なスピード系の選手にとって不可欠な存在になる。
現在の1トップ候補3人のなかでは、古橋が最も頼もしく見えるが、先発したトルコ戦は1トップ下が鎌田ではなく久保だった。ポストプレーヤー的な要素がない久保との相性の悪さを露呈させた。
久保を1トップ下で使いたいのなら、大迫を呼んでくるしかない。あるいは、鎌田を0トップとして使うか。
試すべきは、鎌田と久保の縦関係だ。森保一監督は鎌田を当初0トップで使っていた。あのイメージはもうないのだろうか。久保をトップ下で使うことができれば、全体的に丸く収まる。無駄はなくなる。
不足している人材が鎌田タイプであることは明白。人材豊富なウイングとの比較で、それは一目瞭然になる。
というわけで、1度招集されたものの、ケガで辞退し、それっきりになっている実力者、鈴木優磨を推したくなる。トップもできれば、1トップ下もできる。ウイングとしてもいける多機能性を備えたアタッカーだ。
トップ付近でボールが収まらないとパスワークは安定しないし、支配率も上がらない。原因はハッキリしている。対策を望みたい。
充実の2列目と大迫勇也が組んだら
どんな化学反応が起きるのか興味深い
浅田真樹氏(スポーツライター)
4−2−3−1の布陣をベースにすれば、2列目の「3」には、豊富なタレントが居並ぶ一方で、最前線の「1」は、決定的な人材が見当たらない。しかも、現在1トップを争っているのは、浅野拓磨、前田大然、上田綺世、古橋亨梧と、昨年のワールドカップ前から変わらぬ顔ぶれ。2列目では中村敬斗が台頭してきていることと比較すると、新鮮味にも欠ける印象が否めない。もう少し柔軟に、候補の間口を広げてみるのは一手だろう。
具体的に言えば、いわゆる"ゼロトップ"的な発想で、鎌田大地や南野拓実を起用してみることだ。なかでも南野は、もともとボールを収めることがうまい選手であり、徐々に復調気配も見せている。飽和状態の2列目で順番待ちをさせておくくらいなら、最前線で使ってみても面白いのではないだろうか。
ただし、ゼロトップはあくまでも苦肉の策であり、理想形ではないと考えるべきだ。
ともに有能な中盤を有しながら、1トップが定まらないままズルズルと弱体化してしまったドイツ代表と、アーリング・ハーランドの加入で念願のチャンピオンズリーグ制覇を成し遂げたマンチェスター・シティ。代表とクラブの違いこそあれ、ゼロトップ的なサッカーを採用していた両者の"その後"を見ても、やはり確固たるセンターフォワードがいるに越したことはない。
だとすれば、ひとまず大迫勇也の復帰は一考に値する。今季Jリーグで際立つ個人能力を見せつけている33歳のストライカーが、日本が誇る充実の2列目と組んだら、どんな化学反応が起きるのかは興味深い。
3年後を考えると、ベテラン依存が得策でないことは承知のうえで、現有戦力に刺激を与える意味でも、大迫を一度呼び戻してみるのはアリだろう。
1トップがどう立ち回れば、2列目をより効果的に生かすことができるのか。日本代表が1トップに求める選手像、ひいてはチームとして目指すべき理想形が、より具体的に見えてくるかもしれない。
森保監督は中盤の選手たちを生かすような
1トップを必要としているのか?
小宮良之氏(スポーツライター)
森保ジャパンに、いわゆる1トップのFWはいない。前田大然、浅野拓磨は裏を狙い、古橋亨梧はワンタッチゴールゲッターである。上田綺世が一番ボールは収まるし、強烈なシュートで相手を脅かすが、ポストワークの洗練度ではトップレベルと比べると足りないところがある。
しかし、そもそも森保一監督がポストワークに長け、中盤の選手たちを生かすような1トップを必要としているか?
そこに問題がある。
日本人FWで最高のポストワーカーは、依然として大迫勇也だろう。ヴィッセル神戸を牽引し、得点王トップも走り、J1で優勝争いを演じている。体のぶつけ方、ボールの置き方、駆け引き、どれもエレガントで、味方の雑なロングボールさえも収めてしまう。そもそも長い間、日本代表でずっと1トップを張ってきたわけで......。
もうひとりの候補は、鹿島アントラーズのFW鈴木優磨だろう。ピッチ内で奔放なところがあるだけに誤解されがちだが、そのポストプレーはダイナミックかつエレガントで、品格すら感じさせる。体格的にも優れ、戦闘意欲も高いため、海外の猛者との勝負にも動じない。今季J1でも日本人では大迫に次ぐ得点数で、とにかく怖さを与えられるはずだ。
しかし、森保監督がこのふたりを招集する気配はない。
「ボールを持つ時間を長くしたい」
森保監督はカタールW杯後に語ったが、今もカウンター勝負の誘惑を捨てられないのだろう。
何より現時点では、鎌田大地、久保建英、三笘薫、伊東純也などがそれぞれのキャラクターを生かし、攻撃力を高めつつある。ドイツ、トルコ戦でもそれは明白。いわゆる1トップなしでも攻守で押しきり、サイドに起点を作って、ゴールに迫ることができている。
森保ジャパンはかつてないほど、優秀で経験もある選手たちの存在で、驚くべき主体性を持ちつつあるのかもしれない。たとえば久保は、レアル・ソシエダでポストワークが苦手なウマル・サディクの強さを生かすようなボールを入れている。ピッチに立つ選手一人ひとりの工夫によって、コンビネーションの答えにたどり着こうとしているのだ。