ロコ・ソラーレの吉田知那美がこれまでの人生で影響を受けた「言葉」や「格言」にスポットを当てた連載。今回は、2018年平昌五輪を前にして発した、自らの人生を表すような言葉について振り返る――。

吉田知那美にちなんだ『32の言葉』
連載◆第11エンド

運と縁と勘で生きてます
(吉田知那美/2017年秋、カナダ・アボッツフォードにて)


2017年9月、日本代表決定戦を制して平昌五輪の出場切符を手にしたロコ・ソラーレ

 この言葉は、2017年9月に翌年の平昌五輪に出場できることが決まったあとに、「2大会連続のオリンピック出場内定への率直な思い」を記者さんから質問された時に発したと記憶しています。

 日本のカーリング競技では2014年のソチ五輪に出場した選手のなかで、2018年の平昌五輪へ出場することになったのは私だけでした。それは私の努力もあるかもしれませんが、それよりも運や巡り合わせだったんだと思っています。

 私に何か秀でた力があったから、連続出場となったわけではありません。謙遜や悲観ではなく本当に、ロコ・ソラーレのメンバーに会えた縁と、そのシーズン、とりわけ調子がよかったという運が重なった結果、そうなったと感じていました。

 振り返ってみれば、私にとってのソチ五輪は厳しくも楽しい舞台であり、貴重な経験を積んだかけがえのない機会でした。同郷の先輩であり、カーリング選手の先輩である歩ちゃん(小笠原/現日本カーリング協会理事)と弓枝ちゃん(船山/現フォルティウス)、フジ(・ミキコーチ)さん、そしてJD(ジェームス・ダグラス・リンドコーチ)と一緒にあの夢舞台を経験したあとで、ロコ・ソラーレに加わることになったその経緯の、どのパートを欠いても今の私は存在しません。

 私の人生は本当に多くの縁に恵まれて、ここまで続いています。

 あとは、もっと些細な個人的な部分なのですが、2017年の五輪直前のシーズン、なぜか試合前のコイントスで無双していたんです。ボンスピル(地方のリンク主催のツアー大会など)では、使用するストーンの選択権や試合前練習の順番を決めるために両チームのサードがコイントスをするんですが、その秋は確か24連勝を果たしたんです。

 試合の勝敗に直接は関係ないのですが、「今季は運がいいな〜私!」とあまりの運のよさにひとりで感動していました(笑)。

 また、JDがその頃から「チームFujisawaはとても直感力があり、勘に優れているから、それは強みとして大切にしてほしい」という話をよくしてくれていたんです。JDは「Instincts」という、勘、直感、本能という意味の単語を使って「俺もデータや経験を使ってチームの戦略をサポートするけど、最後は俺のアドバイスよりも、自分たちのInstinctsを信じてプレーしてほしい」と、今でも私たちに言ってくれます。

 そんな人生のさまざまな経験を複合して出てきたのが「運と縁と勘」という言葉ですが、音のリズムもいいですし、我ながら私という人間をうまくつかんでいる言葉だなと思います。

 私は小さい頃から何か突出した才能があるわけではありませんでした。体格に恵まれたわけでもないですし、いるだけで「美しいね、かわいいね」と言ってもらえるようなビジュアルでも、もちろんありません。

 身体能力だって、アスリートになるほど高くなかったと思います。「努力の天才だね」と言ってもらえることはありますが、大前提として「努力」を測ることも人と比較することもできないと思っていますし、身近にとんでもない努力の天才が何人もいるので、それもちょっと違うのかなと思っています。

 勝負は時の運という言葉があるように、時にデータでは語れない勝敗があり、説明できない直感を大切にして試合をつくり、さまざまな縁が重なり、今のロコ・ソラーレのメンバーのひとりになれました。これからも人生すべてのことに説明がつかなくても、時に「運と縁と勘」に身を任せ、深く考えすぎずに置かれた場所で私なりの努力を続けていこうと思います。

吉田知那美(よしだ・ちなみ)
1991年7月26日生まれ。北海道北見市出身。幼少の頃からカーリングをはじめ、常呂中学校時代に日本選手権で3位になるなどして脚光を浴びる。2011年、北海道銀行フォルティウス(当時)入り。2014年ソチ五輪に出場し、5位入賞に貢献。その後、2014年6月にロコ ・ソラーレに加入。2016年世界選手権で準優勝という快挙を遂げると、2018年平昌五輪で銅メダル、2022年北京五輪で銀メダルを獲得した。2022年夏に結婚。趣味は料理で特技は食べっぷりと飲みっぷり。