インフルエンサーに影響する「ステマ規制」10月からスタート、広告とわかるように明示しなければ「違法」に
インフルエンサーがSNSでおすすめしている愛用品が、実は企業から依頼された広告だった--。そんなステルスマーケティング(ステマ)が10月1日から規制されます。
これまで日本では、ステマについて業界内の自主的な取り組みはありましたが、法規制はありませんでした。
消費者庁の調査によると、「インフルエンサーの投稿について、問題がないかを全て確認したところ、100件のうち、20件程度の割合でステルスマーケティングと思われるような投稿が存在した」という意見が寄せられており、ステマが「横行」してきたことがうかがえます。
しかし、今後は「一般消費者が事業者の表示であることを判別することが困難である表示」があった場合、景品表示法の「不当表示」として、措置命令(処分)の対象となります。
インフルエンサーがSNSに投稿する場合や、広告主が依頼する場合には、どのようなことが求められるのでしょうか。また、消費者にはどのようなメリットがあるのでしょうか。景品表示法にくわしい伊藤敬之弁護士に聞きました。
⚫️「ステマそのものを取り締まれない」問題
消費者庁がインフルエンサー300人にアンケートを実施したところ、「ステマを広告主から依頼された経験がある」と回答した人は4割を超えていました。また、依頼された人のうち、5割近くの人が実際にステマをおこなっていたことがわかっています。
しかし、次のようなケースは、広告主から依頼された広告であるにもかかわらず、これまでの景品表示法では「不当表示」にはあたらず、ステマそのものは違法とされていませんでした(消費者庁「ステルスマーケティングに関する検討会」資料より)。
・有名人が商品・サービスと一緒に撮影した写真を広告であると明示せずに宣伝する
・商品・サービスについて、広告であることを明示せず、「おすすめ」といった感想の体でSNSに投稿する
・ネット上の記事に広告であると明示しない
伊藤弁護士は今回、なぜステマ規制が導入されたのか、次のように指摘します。
「これまでの法律では、優良誤認表示など、内容面で問題がある場合は取り締まりできましたが、ステマは規制されていませんでした。
そのため、インフルエンサーが紹介している商品について、企業から依頼を受けた広告なのか、それとも自分の意思ですすめているのか、消費者にはわかりませんでした。
しかし、ステマは、消費者にとって、商品選択に大きな影響を与える問題であり、諸外国ではすでに規制されています。そのため、国内でもステマ規制が導入されることになりました」
⚫️「広告」であることがわかりやすく表示されているか?
では、インフルエンサーが今後、SNSで広告する場合にはどのようなことに気をつけたらよいのでしょうか。また、消費者はどのような点に注意してインフルエンサーの投稿を見ればよいのでしょうか。伊藤弁護士はこうアドバイスします。
「たとえば、これまでによくあったように、大量のハッシュタグの中に『#PR』と埋もれさせて表示することは、典型的なNG例になります。
消費者庁はステマ規制の運用基準を公表しており、きちんと事業者の広告としてをわかりやすく表示することを求めています。
具体例としては、『広告』や『宣伝』『プロモーション』『PR』といった言葉をわかりやすく表示していればOKとされています。
ただ、グレーゾーンの場合は判断に悩むこともあるかもしれませんが、その場合はやはり、広告であることがわかりやすく表示されているかというところで判断されることになると思います。たとえば、記事の冒頭に明記されているか、他の文字と大きさや色に差があるかといった点です。
インフルエンサーや広告の依頼主には、出来上がった広告物を最後に見ていただいて、第三者からして広告とわかりやすいかどうか、チェックすることをおすすめします」
⚫️これまでのステマも「規制対象」となる
伊藤弁護士は今後、インフルエンサーは、ステマ規制に抵触しないようにと企業から依頼されることが増えていくと予想します。
「ステマ規制の処分対象は、広告主である『企業』です。インフルエンサーは直接の対象にはなりませんが、企業からは厳格な対応を求められることになると思います」
一方で、気になるのはこれまでのステマです。どのように対応したらよいのでしょうか。
「ステマ規制が施行される10月1日以後に投稿されたものは当然、規制対象です。そして、それより前にSNSに投稿されたステマ広告も、10月1日以降に残っていて、一般消費者が見られる場合は規制対象となるので、削除するか、きちんと広告であることを記載するといった対応が必要になります。
もしも広告がステマ規制に違反した場合には、先ほども申し上げたとおり、インフルエンサーは直接の処分対象にはなりません。しかし、だからといって放置していれば、依頼した企業から損害賠償請求されるリスクもありますので、問題意識を持っていただければと思います」
【取材協力弁護士】
伊藤 敬之(いとう・たかゆき)弁護士
2011年京都大学法学部卒業、2013年京都大学法科大学院修了、同年司法試験合格。2014年弁護士登録(大阪弁護士会)。2015年弁護士法人色川法律事務所入所。2020年消費者庁表示対策課出向。2022年4月法律事務所ZeLo参画。主な取扱分野は、広告/表示規制、M&A、パブリックアフェアーズ、ジェネラル・コーポレート、事業再生・倒産、訴訟・紛争解決、データ保護、危機管理、人事労務など。
事務所名:法律事務所ZeLo・外国法共同事業
事務所URL:https://zelojapan.com/