横浜F・マリノスに見る日本サッカーの構造問題 頂上決戦で右肩下がりが明らかに
勝ち点は55と54。首位ヴィッセル神戸対2位横浜F・マリノスの直接対決は、神戸が2−0で勝利を飾り、首位をキープ。勝ち点の関係を58対54とした。残り5ゲームで4ポイント差。神戸が得失点差で10点上回ることを加味すれば、野球的に言えば差は1.5ゲーム以上となる。神戸の優勝が7割、8割方見えてきた。
優勝争いの天王山。今季一番のハイライトゲームだった。だが、日産スタジアムに集まった観衆は定員の半分にも満たない3万800人で、結果論で言うわけではないが、地元横浜で逆転ムードが高まりを見せているという様子を感じ取ることはできなかった。
横浜FMのサッカーを見れば、それも頷ける。この日に限った話ではないが、優勝した昨季の自分たちを超えることができずにいる。昨季を10とすれば8程度。神戸が昨季の横浜FMを上回るサッカーをした、と言うわけではないのだ。
首位決戦でヴィッセル神戸に敗れた横浜F・マリノスの選手たち
この日の一戦も、振り返ればまさに大味な戦いだった。Jリーグの頂上決戦と言うにはレベルの低い、中盤が早くから間延びする、お寒い内容の試合だった。横浜FMと言えばセールスポイントはパスワークだ。昨季まで競い合った川崎フロンターレも同様にパスワーク自慢のチームだったが、横浜FMのほうがケレンミなく、ピッチを広く使うことができていた。こってり感のある川崎より展開に美があった。
それがこの試合では、すっかり過去の話のように見えた。このサッカーで優勝されたらJリーグに進歩はない。2位でもできすぎに見えるほどそのパスワークは冴えなかった。
神戸のサッカーが、昨季の横浜FM、あるいは6年間で4度Jリーグを制した昨季までの川崎を凌駕するなら、「Jリーグのレベルは上がった」と喜ぶことはできる。特質すべき魅力を備えた進歩的なサッカーを展開しているのなら何も問題ない。一時、標榜したバルサ化が何らかの形で実現したのなら歓迎したいが、吉田孝行監督はその対極に位置するような手堅いサッカーを実践する。ハイボールをゴール前に次々と蹴り込むサッカー。どこか四半世紀前のイングランドを彷彿とさせる古典的なサッカーだ。
【戦力ダウンが成績に反映】
この日の日産スタジアムに描き出されたのは、それに屈する横浜FMの姿だった。神戸を讃えたい気持ちより、横浜FMを嘆きたくなる気持ちが勝る。
なぜ横浜FMは今季、右肩上がりを示せなかったのか。むしろ右肩下がりに転じたか。欧州サッカーを見ればわかる通り、優勝チームはそれなりにお金が舞い込むので、おのずと補強に力を入れることができる。大物がひとりふたり、チームに加わることは珍しくない。チーム内にその結果生じる高次元のライバル争いが、チーム力を高める源となっていく。
横浜FMにはそうした要素が欠落している。レオ・セアラ(セレッソ大阪)、岩田智輝(セルティック)、仲川輝人(FC東京)、マルコス・ジュニール(サンフレッチェ広島)、藤田譲瑠チマ(シント・トロイデン)。出て行った主な選手はこの5人になるが、入ってきた選手と相殺すれば、戦力的にマイナスになることは明らかだ。ケガで長期離脱している小池龍太も加えれば、マイナス度はさらに膨らむ。それが今季の成績にそのまま反映された恰好だ。
横浜FMよりもっとわかりやすいのが川崎だ。守田英正(スポルティング)、三笘薫(ブライトン)、旗手怜央(セルティック)、田中碧(デュッセルドルフ)、谷口彰悟(アル・ラーヤン)が次々と海外へ飛び立ったにもかかわらず、それを補う選手を獲得していない。獲得できなかったと言うべきか。凋落の最大の原因はそこにある。フロントの責任は重い。
ただ、フロントの肩を持つわけではないが、このご時世において補強が難しくなっていることも事実だ。それなりに力を備えた日本人選手は、次々に欧州へ渡る。欧州組の数は100人に迫ろうとしている。国内でプレーする日本代表級は数えるほど。横浜FMで言うなら岩田、仲川、藤田の代役を探すことは簡単ではない。だが、代わりになる選手を連れてこない限り、戦力はダウンする。
下位チームより、上位チームにとってより厳しい状況にある。横浜FM、川崎が伸び悩む理由はわかりやすい。
【混沌状態のJリーグ】
有能な外国人選手を獲得できるなら話は簡単だ。しかし、世の中は空前の円安である。外国人選手には、購買意欲が失せるような半端ない値がつけられている。Jリーグにクオリティの高い外国人選手が減った理由である。外国人枠を満たすことができないクラブが大半を占める現状に、日本の悲哀が見て取れる。
神戸で今季20点を奪い、得点王争いのトップに立つ大迫勇也は欧州からの出戻り組だ。この日、ダメ押しとなる追加点をヘディングで奪った武藤嘉紀もしかり。酒井高徳や、ケガで戦線離脱した齊藤未月もそのひとり。毎年、何人か存在するであろう、欧州からの出戻り選手をいかに捕まえるか。これこそが強化のポイントかもしれない。
神戸の話を続ければ、今季このまま逃げ切り優勝を飾ることができても、来季は苦戦が待ち受けているだろう。川崎、横浜FMの現在がそれを物語っている。来季、いい補強ができる保証はどこにもない。このご時世、右肩上がりを貫くことは簡単ではないのだ。
円安がどこまで続くか定かではないが、トップチームが伸び悩む混沌とした状況はしばらく続くものと思われる。各チームの問題というより、これはJリーグ全体、ひいては日本サッカーの構造的な問題だ。
昨季13位だった神戸の手が優勝に届こうとしている一方で、昨季まで6シーズンで4度優勝している川崎は現在9位に沈む。Jリーグはいま、世界でも類を見ない混沌状態にある。代表チームのレベルは右肩上がりでも、Jリーグのレベルは右肩下がり。相殺するとどうなるか。これは思いのほか深刻な問題である。