Netflixオリジナルドラマ『サンクチュアリ-聖域-』

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日本の伝統文化として知られる相撲。だが、その特殊な世界の詳細が描かれた作品は多くない。そんななか、今話題を呼んでいるのがNetflixオリジナルドラマ『サンクチュアリ-聖域-』だ。視聴者の魂を震わすダイナミックな大相撲バトルが繰り広げられる本作について、改めてあらすじや見どころを紹介したい。(※以下、ネタバレを含みます)

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ひねくれ者の主人公・小瀬清(一ノ瀬ワタル)が、若手力士“猿桜”として大相撲界でのし上がる姿を描いた相撲ドラマ『サンクチュアリ-聖域-』。猿桜をはじめとする登場人物たちが、それぞれの過去や現在の状況に悩みながら、相撲という競技に向き合い、成長していくストーリーだ。

借金・暴力・家庭崩壊……人生崖っぷちの小瀬清は、才能と体格を見初められて相撲部屋に入門する。相撲には一切興味がなかったが、「相撲は金になる」という猿将親方(ピエール瀧)の言葉に惹かれ、若手力士“猿桜”として大相撲界に挑んでいく。小瀬がお金に執着していたのは、父の借金を返すためであった。

戦いが行われる土俵は、異常の上に成り立つまさに“サンクチュアリ(聖域)”というべき場所。小瀬はお金のためだけに相撲界に入ったため、常にやる気がなく、稽古もサボり気味だった。先輩にも盾突く手がつけられないほどのヤンキー力士だったが、徐々に相撲という競技にのめり込んでいく――。

そんな小瀬を筆頭に、相撲好きながら体格に恵まれなかった清水(染谷将太)、壮絶な過去をもつ強豪力士・静内(住洋樹)、花形部署から相撲番に左遷された新聞記者・国嶋(忽那汐里)など、生きづらさを抱える者たちの濃密な人間ドラマが絡み合う。それぞれが強い気持ちで向かっていく中で、小瀬は無謀にも横綱になるという目標に向かって邁進していくのだった。

本作の見どころは大きく3つ。1つは何といってもキャスト陣の迫力のすごさだ。本物の大相撲に限りなく近づけるため、撮影開始の約1年前から、元大相撲力士・維新力浩司をはじめ、肉体改造の専門家、スポーツトレーナー、栄養士の指導を受けて本格的に稽古をしたのだそう。撮影現場にはジムが併設され、撮影後に体を休ませるための仮設プールが持ち込まれるなど、完全にアスリート仕様の環境で撮影が行われた。

大相撲を描く作品だからこそ、出演者が本物の力士に見えることは必須条件だ。主人公の小瀬=若手力士“猿桜”を演じる一ノ瀬ワタルは、元プロ格闘家という異色の経歴を活かした役作りで、堂々としたヤンキー力士が見事にハマっている。猿桜の最大のライバル・静内役には、元力士の俳優・住洋樹が抜擢。猿桜と同じ“猿将部屋”に属する力士には、元大相撲力士・澤田賢澄や、相撲経験者でお笑い芸人の義江和也が参加している。

体格に恵まれなかった無類の相撲好き・清水を演じるのは、“カメレオン俳優”と称される染谷将太。その名の通り今回も演技が光っている。新聞記者・国嶋を演じる国際的俳優の忽那汐里は、クールなそぶりを見せながらも相撲の世界、猿桜の世界にのめり込んでいく様子を見事に演じた。

そのほかにも、ピエール瀧、田口トモロヲなど、実力派豪華キャスト陣が名を連ねている。力士役俳優の迫力はさることながら、ベテラン俳優陣の演技の迫力にも目を見張るほどだ。

2つ目の見どころは人間ドラマ。猿桜以外にも、生きづらさを抱え社会に反抗する者が出てくる。男社会に切り込んでいく記者・国嶋もその一人。体が小さく力士としては通用しなかった清水も、相撲が好きだという一心で呼出として相撲界に戻ってくる。

このように、猿桜をはじめとする反骨精神を持つ人々の思いが“相撲”という競技に乗せられる。反骨精神をもつ不器用な者たちが成り上がっていく様子と、社会に迎合して汚く成り上がる者たちとの対比がうまく描かれており、不器用な者たちが実力でねじ伏せていくさまに視聴者は胸を熱くする。迫力のある相撲の描写は、不器用な者たちの思いが相まってさらに迫力が増しているように見えるのだ。

3つ目の見どころは、配信ドラマであるからこそできる問題・タブーへの切り込みだろう。本作は至るところに相撲へのリスペクトを感じるが、相撲界のきれいな部分だけを描いているわけではない。

部屋の仲間によるいじめ、暴力のほか、時代錯誤にもとれるルールなど、これまで明るみにでなかった角界の問題に切り込んでいる。これまでもさまざまなタブーに疑問を投げかけてきたNetflixらしさがよく現れているとも言えるだろう。現在の地上波ドラマではなかなか観られない内容だ。

切り分けるといくつかの見どころがあるものの、実際はこれらすべてが作用し合って、一つの熱い相撲ドラマに仕上がっている。リアリティ溢れる相撲シーンを描くのは、2018年『ガチ星』、2019年『ザ・ファブル』などを手がけた江口カン監督。脚本は2013年『半沢直樹』などの脚本を手がけた金沢知樹が務めている。

体格のいい男たちが身体をぶつけ合うシーンにはスローモーションが多く使われており、映画『THE FIRST SLAM DUNK』を彷彿とさせた。競技を分解して描くのはアニメだろうとドラマだろうと難易度が高く、制作陣にその世界に精通している人がいなければ、視聴者に“コレジャナイ感”が伝わってしまうものだろうと思う。本作は生身の人間が演じているだけありより難易度が上がるように思うが、相撲シーンの迫力は荒々しく凄まじいものであった。

SNSを見ると、見始めたら止まらなくなり「最終話まで一気に観てしまった!」いう人も多かったよう。笑いあり涙あり、話のテンポもいい痛快ドラマ。スポ根要素が強く、スポーツや競技、運動をしている人の中には「サンクチュアリを観てから行こう」という人もいるほど。観た人の気持ちを奮い立たせるほどに力がある作品なのだ。

俳優陣の迫力と登場人物の人間ドラマ、タブーへの切り込み、これらが作用して仕上がったスリリングな相撲ドラマ。日本の国技・相撲のリアルに切り込んだ、国境を越える熱きエンターテインメント作品として必見だ。

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