日本では6割の夫婦が悩んでいるといわれるセックスレス。「じつは私は子どもが嫌いなんです」と本音をこぼす杏さん(仮名・35歳)にお話を伺いました。ヤングケアラーだった子ども時代。今も妊活に積極的になれないという原因をつくった実母との関係とは。

セックスレスのまま36歳に。母のようにはなりたくない

前回は夫の実家で、義母や義祖母から仕事を辞めて子どもをつくるよう言われ、台所でさめざめと泣いてしまったお話をしました。

憧れだった裁判官の職に就き、単身赴任をしながら地方で一人暮らし。よき理解者のはずだった夫は、自分の親族に私の事情をなにも話していなかったことが判明し、気持ちがすーっと冷めてしまいました。

●過酷だった子ども時代の記憶

そろそろ子どもをと言われて、拒否反応が起きてしまったのには深い理由があります。じつは私、子どもが嫌いなのです。育てたいとも思っていません。

私は子どもの頃、今でいうヤングケアラーに近い状況でした。両親は共働き。年が離れた下の妹たち3人の世話を私が1人でしていました。一瞬も目が離せないような年齢の子どもたち。“ワンオペ”という言葉がありますが、私は親でもないのにワンオペ状態を経験させられたのです。

私がやらなかったらどうにもならなかったのでやっていただけなのですが、やったらやったで、近所の人たちから「偉いわね」とほめられます。「別にほめられたくないし」「好きでやっているわけじゃないのに」と思っても、だれにもSOSを出せませんでした。

そういうのが全部すごく自分の中のいやな思い出になっているのです。学校生活以外の時間は、ずーっと両肩に重たい荷物が乗っているような心境で、子どもらしい生活は送れませんでした。

だから自分が子どもを産んで育てる立場を考えるとき、当時のことを思い出して、疲れてしまって…。ただ、こういう身内のことってなかなか言い出しにくいんですよね。

●かわいがられ、宝物のように育てられた夫

夫はひとりっ子。両親や祖父母、そして親戚中からかわいがられ、宝物のように大切に育てられてきたことがよくわかる、愛に満たされたまっすぐな人です。のびのびと生きてきた人に、この気持ちをわかってもらうのは難しいと感じています。

子どもの計画も「いつか欲しくなったときに自然にできたらいいね」くらいの、ふんわりしたニュアンスでしか共有できていないまま。結婚4年目にして価値観の違いが浮き彫りになってしまいました。

●子ども嫌いの原因をつくった実母

妊活に積極的になれない原因は、私の実家にもあります。もともと私の両親は授かり婚でした。母方の本家が父の家へ「婿養子になれないなら結婚するな」という条件を出し、破談になりそうだったところ、子どもをつくって強行突破した結婚だったのです。

私は大学進学と同時にパッと家を出てしまい、その後も親を頼ることなく生きてきましたが、実家に残った妹たちは大変。なんと全員、母から「婿に入ってくれる男性じゃないと結婚しちゃだめ」という謎の条件を出されているのです。

そんなの無視すればいいと私は思っていますが、実際、次女も三女もこの条件がネックとなって婚約者と別れることになってしまいました。

●もしかしたら私も、母と同じようになってしまうかもしれないという不安

自分がされていやだったことを、平気で子どもたちにやってしまっている母親。私はこの人に関わると幸せになれないのではないかと考えるようになりました。

そんなとき、当の母親から「そういえば杏のところ、子どもどうなってんの?」という話をされました。「今は仕事が忙しいからそれどころじゃない」と話を打ち切ろうとしたのですが、続けざまに「生み分けできる病院とかあるみたいよ。男の子を生んでよ。女の子だと、うちみたいに跡継ぎを捕まえるのに苦労するわよ」と言われて、さらにドン引きしました。

私の人生に首をつっこまないでほしい。シンプルに嫌悪感を抱きました。やっぱり母親と距離を置きたい。けれど、このご時世、私が今の仕事をしながら子育てをするとしたら、母を頼らざるを得なくなります。

保育園とか行政のサポートがあるとはいえ、実の母親の手をまったく借りずにやりくりしようとしたら…。もし2人、3人と子どもが生まれたら、私も上の子を頼ってヤングケアラーにしてしまうのではないかと想像して、ドキっとしました。親にされていやだったことを私までやってしまいそう。そう思うと、やっぱり今すぐじゃなくてもいいかな…と、妊活を先延ばししてしまう自分がいるのです。

●夫とはレスのまま。コロナの影響でさらに距離が…

夫とは、あの2年前のお盆の事件以降、完全にレスのまま。その間にコロナの問題もあって、単身赴任先からの帰省をやめたこともしばしば。週末婚どころか、月に1度会うかどうかというレベルにまで会う回数自体が激減してしまいました。

そんなある日、「今度のお正月は実家へ一緒に帰らない?」と予定を聞かれたので、「仕事しようかな」とまたいつもの調子でわざとスルーしようとしたのですが「さすがに元旦から仕事はないでしょ。いつまで、そうやってふてくされてるの?」と言われてしまいました。私はつい「またお義母さんたちに『仕事を辞めろ』とか言われるのイヤだもん」と返すと夫は黙ってしまいました。

夫は子どもが好きだし、妊活について焦りがあるような雰囲気を感じています。夫婦生活が戻らないまま、気がつけば夫は38歳。私も次の誕生日が来たら36歳という年齢。今すぐ授かったとしても、高齢出産になってしまうことが確定なんだなぁと思いはじめた矢先、夫が倒れてしまいました。

そして苦手な実母からは跡継ぎの話をされてうんざり…。そのお話はまた次回したいと思います。