「機体、起立!…離陸!!」まさかの飛び方をする無人機誕生か 革新設計機を生み出したい豪州の事情
機体が垂直に“起き上がり”、そのまま離陸するというユニークな無人機の開発がオーストラリアで進行中。これまで航空機の開発に消極的だった同国ですが、狙いはなんなのでしょうか。
いうなれば「ティルト・ボディ機」?
駐機中の飛行機が垂直に“起き上がり”、そのまま垂直に離陸するという、ユニークな無人機がオーストラリアに登場しようとしています。さながら「シュワッッチ!」と飛んでいくウルトラマンのよう。これまで航空機の開発にさほど取り組んでこなかったオーストラリアでしたが、背景には何があるのでしょう。
BAEシステムズ・オーストラリアが開発を進めている無人機「ストリクス」(画像:BAEシステムズ・オーストラリア)。
これは、英国BAEシステムズの現地法人BAEシステムズ・オーストラリアが開発を進める中型ドローン「ストリクス(STRIX)」。2023年2月末から豪州で開催された航空ショーで発表されました。V-22「オスプレイ」と同じように、垂直離着陸ができるヘリコプターと高速巡航ができる飛行機の利点を組み合わせた「ハイブリッド」な特徴を持っています。
前後に4枚のローターを持ち大きく曲がった主翼もユニークですが、なにより興味深いのは、その発着方法。まるで、犬や猫が前足を上げ立ち上がるように、機体全体が起き上がり垂直に上昇するのです。空中に浮かび上がると、機体を前方に傾けて飛行機のように飛び、敵を偵察したり胴体下に16kg分の兵器を吊り下げて攻撃したりします。
着陸時も垂直に起き上がりながら、高度を落とし、接地後に「伏せ」をするように機体を停止させます。
この「ストリクス」は2026年には実用化できるという話です。「オスプレイ」がローターの向きを変えることで垂直離着陸と水平飛行の「ハイブリット」を実現する航空機「ティルト・ローター機」なら、ストリクスはさしずめ「ティルト・ボディ機」と呼べることでしょう。
そしてさらに興味深いのは、ストリクスがオーストラリア国内で設計されたということです。
オーストラリアでは2021年2月、米ボーイングと開発した無人機MQ-28Aを初飛行させています。戦闘機に付き従うこの機体は、同国が第2次世界大戦後に初めて国内で開発した戦闘用航空機でした。ジェット機のMQ-28Aに続き、ローター機の「ストリクス」により、同国は無人機の種類を増やしたことになります。
なぜオーストラリアは国産無人機を生み出そうとしているのか
2022年から始まったロシアによるウクライナ侵略で、「バイラクタルTB2」が活躍したことで明らかになったように、無人機は戦場で大きな役割を果たします。同時に国産兵器の開発は、国内の雇用を生み出しつつも、輸入に頼らず一定数の兵器を確保することができます。
加えて、オーストラリアが兵器の国産化へ熱心になったのは、太平洋をめぐる安全保障の変化と無縁ではないでしょう。
両主翼に精密誘導爆弾「MAM」を携行して飛行するバイラクタルTB2。写真はトルコ空軍機(画像:バイカル・テクノロジー)。
同国は2021年9月、アメリカ・イギリスと新しい安全保障協力体制「オーカス(AUKUS)」を発表し、原子力潜水艦の配備を表明しましたが、この時、フランスと交わしていた通常動力潜水艦12隻を建造する契約を破棄し、大きな外交問題になりました。アメリカ・イギリスの方が太平洋で影響力が高いことが背景に挙げられますが、自国の防衛体制をより強固にするには、外交問題のリスクも辞さない決断が必要だったのでしょう。
先述の原潜の導入は、その技術を習得することにより、自国の造船・防衛技術のレベルアップを図ることも、視野に入った上の判断でしょう。今回のユニークな無人機「ストリクス」もまた、BAEシステムズがヨーロッパ内で開発した無人機の技術を取り入れているといいます。
ただ、このような特徴的な設計としたのは、革新的な機構を盛り込むことで、模倣に留まらないものを創り出そうという、オーストラリア側の意欲の表れと捉えることもできるでしょう。「ストリクス」は今後実際に空をとぶことができるのか、いろいろな意味で注視していかなければなりません。