「ガンダム版61式戦車」なぜド派手なツイン砲塔なのか 実在MBTには採用例がないワケ
アニメ『機動戦士ガンダム』には、地球連邦軍の主力戦車として、150mm砲2門を連装砲塔に収めた61式戦車が登場します。実在するほとんどの戦車は主砲1門。なぜ「ガンダム」世界の61式戦車は連装砲なのか考えてみました。
61式戦車の前に存在「43式戦車」をご存じか?
アニメ『機動戦士ガンダム』の主役は、人型機動兵器、いわゆる「モビルスーツ(MS)」ですが、それが実用化される前は、戦車が陸戦用の主力兵器という設定でした。
劇中で、「ガンダム」や「ガンキャノン」などを要する陣営として描かれている「地球連邦軍」の制式主力戦車としてファンの間で良く知られているものには「61式戦車」が挙げられます。ただ、いくつか作られた設定を見回してみると、同車の前に43式戦車なるものが存在していた模様です。
現実世界の61式戦車。1961年に制式採用され、陸上自衛隊に2000年まで配備されていた(柘植優介撮影)。
43式戦車は、その名称から宇宙世紀0043年に制式化された戦車だと思われます。車体長8m程度、全幅は61式戦車よりわずかに狭いとのことなので、4.5mよりやや狭い程度。主兵装は155mm滑腔砲で、動力源はディーゼルエンジン。乗員は戦車長、操縦手、砲手の3名とされています。
現実世界に目を移すと、陸上自衛隊の10式戦車は、車体長7.1m程度、全幅3.24m、120mm滑腔砲1門、乗員3名ですから、ふた回りほど大きな戦車と言えるでしょう。
なお現実の戦車では、日米英といった西側陣営が120mm砲、ロシアや中国などの東側陣営では125mm砲を採用したものが多く見られます。これは、インフラの関係も多分にあって、車体サイズを大きくすることにも限界があるため、主砲口径を大きくすると、砲弾の搭載数が減少することなど、デメリットもあるからこのサイズに留まっていると言われています。
10式戦車の120mm砲弾は約20kgです。43式戦車の155mm砲弾の重量は不明ですが、アメリカ軍の155mm榴弾砲用の砲弾であるM795榴弾は重さ46.7kgのため、搭載弾数が半分以下になります。砲弾の搭載数確保のためにも大型化したと推察できます。
ちなみに現実でも、2022年6月にドイツの兵器メーカー、ラインメタル社が初公開した最新戦車KF51「パンター」では、130mm滑腔砲を採用しつつ重量は従来の「レオバルド2」戦車よりも軽い59tに収めています。
「ガンダム」世界で描かれている43式戦車は未来の戦車という位置づけのため、より軽量化技術が進んでいて、155mm砲を搭載しつつも、既存のインフラ改修は最低限で済むように考えられているのでしょう。もしくは、超大型の宇宙ステーションともいえる「スペースコロニー」を多数建設するために、各地で重量物運搬の頻度が増え、道路インフラが整備されたことで、戦車も一層の大型化が可能となったのかもしれません。
現実にも存在した主砲2門搭載戦車
この43式戦車の後継車両が、宇宙世紀0061年に制式化された61式戦車です。『機動戦士ガンダム』(61式戦車)、『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』(61式戦車2型)、『機動戦士ガンダム 第08MS小隊』(61式戦車5型)など、様々な作品に登場する「ガンダム」世界ではメジャーな戦闘車両ですが、それぞれ形状が異なります。
実在する10式戦車と大きさを比較すると……、デカい!(イラストレーター:ハムシマ)。
43式戦車と61式戦車を比べた場合、「駆動系の電気化」「電子兵装の改良」「携帯弾数の増加」といった改良がなされていますが、最大の特徴は150mm(5型では155mm)滑腔砲2門を、連装砲塔という形で搭載していることです。
加えて、改良された61式戦車5型では乗員は車長兼砲手、操縦手兼通信手のわずか2名まで減らされています。なお、5型の最高速度は90km/hで、これは陸上自衛隊10式戦車の70km/hを上回りますが、ロシア最新鋭戦車T-14の80〜90km/hと大差ありません。
車体サイズについては、5型では全長11.6m、車体長9.2m、全幅4.9m、全高3.9m。参考までに陸上自衛隊の10式戦車が全長9.42m、車体長7.1m、全幅3.24m、全高2.3mですから、3割ほど大型化されている計算になります。
さて、現実の戦車で連装砲塔を採用した事例はほぼありません。これは砲塔の構造が複雑化するうえに、搭載砲が小口径となるからです。かつての軍艦の大砲であれば、遠距離での命中率を考えて、多数の砲で撃つという考え方も成立しますが、戦車は安定性の高い地面に置かれ、近くの敵を撃つものですから、多数の大砲は不要です。
現実に作られた主砲2門の戦車というと、西ドイツ(現ドイツ)が1974(昭和49)年に試作したVT-1無砲塔戦車です。同車は戦車とは謳っているものの「連装砲搭載で敵に対する反応を早め、命中率も向上させる」というコンセプトから、むしろ駆逐戦車や対戦車自走砲に近い性格の戦闘車両で、当初は105mm砲2門、改良型のVT1-2では自動装填装置を備えた120mm砲2門を備えていました。ただ、主力戦車の「レオバルド2」と比較した場合、優位性がなかったため、採用されませんでした。
「ガンダム」世界の61式戦車に連装砲塔が採用された理由は不明ですが、筆者(安藤昌季:乗りものライター)なりに推察してみましょう。
主砲2門あるメリットとデメリット
61式戦車の150mmないし155mm砲は、現実世界における陸戦用車両でいうと、いくつか例外はあるものの、ほぼ自走砲の口径となります。そして、はるかに進歩しているであろう宇宙世紀の射撃システムであれば、砲の仰角を上げて曲射しても、充分な命中率を確保できると考えられます。
砲の仰角を上げられるということは、射程距離も伸びるということでもありますから、自走砲の役割を兼ねることができます。仮想敵国が存在しない地球連邦軍であれば、多種多様な兵器を保有する必要はなく、近似する性格の兵器は統合しても構わないと考えたのかもしれません。
とはいえ、遠距離で曲射すればさすがに、命中率は低下するでしょうから、主砲2門搭載により、公算射撃を行いたいと考えたのでしょう。なお、曲射した場合の砲弾は、戦車の弱点である上面装甲に降り注ぎますから、大口径砲を搭載する必要が減ります。
もしかしたら、あの粒子で存在意義が破綻した兵器なのかも……(イラストレーター:ハムシマ)。
なお、宇宙世紀の遥かに進歩した自動装填システムであれば、砲弾の種類を柔軟に変更できると考えられます。現実の戦車でも、主砲からミサイルを撃てるものがありますが、61式戦車は必要であれば、片方の砲身からは誘導砲弾を放ち、もう片方からはミサイルを撃つといった、状況に応じた対応が容易なのでしょう。
宇宙世紀の優れたデータリンクを想像するなら、偵察衛星やドローンなどの指示で、砲弾とミサイルを柔軟に切り替え、最大の戦果を挙げられる予定だったと推察できます。
ただ、連装砲塔は交互射撃にせよ、斉射にせよ、砲弾の消費量が増えます。これについては、駆動機関を電気式にしたことで、車体の内部容積が増え、充分な砲弾数を搭載できるようになったのではないでしょうか。
とはいえ、こうした利点は「電子兵装が使えれば」のハナシです。「ガンダム」世界でよく使われるレーダーをほぼ無力化する「ミノフスキー粒子」で、高度な電子兵装の補正を前提とした連装砲塔は本来の性能を発揮できず、誘導砲弾やミサイルを搭載する意味もなくなったと考えられます。
本来は高性能兵器であった61式戦車が、想定外の「ミノフスキー粒子」によって性能を発揮できず、モビルスーツに撃破されたとしたら、実は「ガンダム」世界における戦車は、“悲劇的兵器” だと言えるのかもしれません。