高速バスは運行を終えると、次の運行まで待機したり休憩を取ったりする必要がありますが、その場所の確保に事業者が苦心しています。都心部の開発で駐車スペースが減少しているため。バス運行の裏で起きている現象を探ります。

運行後の高速バス「待機場所どうする」問題

 高速バスの営業所(車庫)には、よく、他のバス事業者の車両が止まっています。例えば京王バスの永福町営業所(東京都杉並区)では、朝9時を過ぎると、出庫する京王の車両と入れ替わるように、アルピコ交通(長野県)などの車両が続々と入庫してきます。同様に京王バスの世田谷車庫は、昼間、信南交通(同)や名鉄バスらの車両で埋まります。

 比較的長距離を走る高速バスは、その運行を終えると、どこかで待機して運転手は休憩を取ります。車庫ではなく、駅前広場のロータリーやバスターミナルの中で、折り返しまで待機する高速バスや空港連絡バスの車両も見かけます。

 そうした車両待機スペースの確保について、最近、特に首都圏で各バス事業者が苦心しています。どのような背景があるのでしょうか。


京王バスの永福町営業所。同社のバス(後方)に交じって、手前にアルピコ交通(2台)と伊那バスの車両が(乗りものニュース編集部撮影)。

 京王の永福町や世田谷に入庫するのは、同社が高速バスを共同運行する事業者たちの車両です。起点側の会社と終点側の会社で共同運行する場合、折り返し時刻まで、お互いの営業所で待機や休憩をするのです。

 ただ、共同運行先以外の車両も見かけます。例えば京王の中野営業所には、西日本鉄道や、日によっては伊予鉄道(愛媛県)のバスが見えます。これは、かつて京王が共同運行していた相手だからです。京王が運行から撤退した後も、車両の滞泊場所を提供しているものです。

 さらに、そのような関係がない場合もあります。京王の永福町営業所に福島交通の、横浜市交通局の滝頭営業所に遠州鉄道(静岡県)のバスが入庫するのは、事情で共同運行先の営業所を使えなかったり、そもそも単独運行だったりするケースです。他のバス事業者の営業所を、有償で待機場所として使わせてもらっているものです。

 バスの車庫ではない場所で待機する例もあります。小田急ハイウェイバスの車両の一部は、小田急が所有・経営する高級ホテル「ハイアットリージェンシー東京」の敷地内で待機します。また、羽田や成田など大規模な空港では、旅客ターミナルの近くに空港連絡バス専用の車両待機スペースが設けられています。高速バスの乗り入れが多いテーマパークやアウトレットモールでも同様です。

アパートに仮眠室を借りるケースも

 なお、一口に車両待機といってもいくつかのパターンがあります。短距離路線では、目的地に着いて降車が終わると、忘れ物など車内確認や簡単な清掃を済ませ30分程度で折り返すケースがあります。乗務員はトイレなどで一時的に車両を離れることはあっても、正式な休憩時間ではありません。この場合、休憩は、折り返し便で自分の営業所に戻ってから取るのが一般的です。

 片道3時間程度の中距離路線では、折り返しまでの間に、乗務員の正式な休憩時間を取ることになるので、従業員食堂や休憩室を使える共同運行先の営業所などへ回送するのが一般的です。片道5時間以上の長距離路線になると、法令上、仮眠を挟む必要があるので、営業所内や周辺のアパートなどに仮眠室も確保されます。

 つまり、車庫ではなく、駅前ロータリーやバスターミナル内、またすぐ近くの簡易的な駐車場で待機している車両は、所要時間の短い高速バスの短距離路線や空港連絡バスが中心だと言えます。

待機場所がない! ついに自社車庫の目と鼻の先で間借りすることに


東北急行バス本社営業所(東京都江東区)で待機する京成バス。京成バス東雲車庫は目と鼻の先(成定竜一撮影)。

 そのような中、東北急行バスの東京営業所(江東区)に、京成バスが待機していて驚きました。東北急行は東武グループの会社で、京成とは共同運行などの関係はありません。しかも、京成バスの東雲車庫(同)からわずか200メートル。お互いに見える距離です。

 京成バスは、もともと、奥戸営業所(葛飾区)などを拠点に高速バスを運行していましたが、東京駅発着路線の増加とともに、東京駅へより近い東雲に車庫を新設しました。増便に次ぐ増便で東雲車庫もいっぱいとなり、共同運行先の便も含む折り返し待機を、旧・浜松町バスターミナルや東京タワー駐車場などでも行っていました。

 しかし2020年、浜松町バスターミナルの建て替え工事が始まってから待機場所の確保に苦労しており、2023年から、東北急行バス車庫のほか、東京シティエアターミナル(T-CAT)などでも待機を始めたものです。

月ぎめ駐車場も減っていく トラックの車庫間借りも

 以前は起点側と終点側の事業者による共同運行がほとんどであった高速バスですが、近年、制度改正などにより単独運行の事例が増えています。特に後発参入の事業者は、車両待機のため月ぎめ駐車場を契約するケースがほとんどです。

 ところが近年、首都圏や京阪神では、マンションなどを建設するため、オーナーが駐車場を閉鎖するケースが増えています。そのため、待機場所の移転を余儀なくされることもあります。都市高速の高架下にある月ぎめ駐車場のように、他の用途へ転用される心配が小さい物件は人気も高く、いつ問い合わせても「あいにく大型車用の枠は満車」という回答です。


御殿場プレミアム・アウトレットのバス待機場。特に週末は首都圏各地の高速バス車両が集まり壮観(成定竜一撮影)。

 珍しいところでは、琴平バス(香川県)や海部観光(徳島県)らは、東京に到着後、資本関係のある運送会社(トラック)の営業所に入ります。なお、これらは1〜2台の規模ですが、弘南バス(青森県)の場合、老舗事業者ながら、首都圏方面へ多数の便を単独で運行しています。そのうち1台は、かつて共同運行していた京浜急行バスの営業所に入庫するものの、残りはすべて埼玉県内にある駐車場に入ります。現在はコロナ禍の影響で便数を絞っていますが、最大で7台まで入るこの駐車場。同社のレトロな車両カラーも相まって、さながら「埼玉県にある津軽」の様相を呈しています。

 今後、東京駅前できたバスターミナル東京八重洲の第2期(2025年度)、第3期(28年度)開業や、浜松町バスターミナルの再開業(27年度)などにより、東京都心のバスターミナル内に待機バースが増える見込みです。短距離路線は、ターミナル内で待機できれば乗務員の労働環境は改善される上、会社から見ても人件費の削減につながるので、そのような事例は増えるでしょう。一方の中・長距離路線では、乗務員の休憩場所や仮眠室の確保を考えると都心のターミナル内待機は現実的ではなく、駐車場探しの苦労はしばらく続きそうです。