国鉄型103系電車が引退することで注目が集まるJR和田岬線。そもそもどのような路線なのでしょうか。文字通り港町・神戸の発展を支えてきた存在であったものの、当の神戸市が、廃止を提案したこともありました。

103系引退で話題の「和田岬線」 そもそもどんな路線?

 JR和田岬線の103系電車(R1編成)が2023年3月18日(土)をもって運行を終えます。2001年の電化以降、22年間にわたって兵庫駅から三菱重工業神戸造船所が立地する和田岬駅への通勤輸送を担ってきたスカイブルーの車体もこれで見納め。国鉄時代に3000両以上が製造され、首都圏や関西圏を中心に北は仙石線、西は筑肥線まで活躍の場を広げた103系を見ることができる線区も、あとわずかとなりました。


和田岬線の103系電車(深水千翔撮影)。

 103系が投入されていた和田岬線は山陽本線の支線で、距離2.7kmの短い路線です。駅は山陽本線への乗換駅である兵庫駅と終点の和田岬駅のみで、所要時間は4分ほど。JR化後もしばらくDE10ディーゼル機関車の牽引で旧型客車の定期運行を行っていたり、専用の改造を施されたキハ35系が投入されたりと、ユニークな車両が走っていることでも知られていました。

 2023年2月時点の時刻表を見ると、平日は6時台から9時台にかけて7本、16時台から22時台にかけて10本が設定されていますが、昼間の運行はありません。土曜は7時台と8時台に6本、17時台から20時台にかけて6本。日曜・祝日に至っては7時台と17時台に1本ずつだけです。

 同線の利用者は、三菱重工業神戸造船所や三菱電機神戸製作所などで働く従業員が多いため、通勤輸送に特化したダイヤが組まれているわけです。兵庫県の統計によれば、2020年におけるJR和田岬駅の1日当たりの平均乗車人員は4351人。県内では北伊丹駅(4617人)や、はりま勝原駅(4517人)と同じくらいの人数です。日中は1本も列車が走らないわけですが、すぐ近くに神戸市営地下鉄海岸線の和田岬駅があり、こちらは本数が多いため三宮方面や新長田方面のアクセスには困りません。

 筆者も神戸の造船所へ取材に行く際、多くの通勤客と103系に揺られて和田岬駅に降り立ったことがあります。地下鉄海岸線を利用しても良かったのですが、兵庫駅で乗り換えた方が楽だったり、せっかく出張で神戸に来たのだから珍しい路線に乗ってみようという好奇心だったりと、その時によってさまざまな理由がありました。

御年123歳! でも神戸市としては…

 そもそも和田岬線は、線路敷設の資材輸送を行うために貨物線として建設されました。貨物営業の開始は1890(明治23)年、旅客営業の開始は1911(明治44)年です。1899年には兵庫運河の開削に伴って、現存最古の鉄道可動橋「和田旋回橋」が設置されています。また、今は廃止されていますが、1912年には中間駅として鐘紡前駅が設置されました。

 かつては和田岬駅から先、三菱重工神戸造船所の敷地内まで専用線として線路が続いていたほか、神戸市中央卸売市場や兵庫港へ伸びる兵庫臨港線が存在し、貨物で大いに賑わいました。日本の造船所が建造量世界一になった高度経済成長期には、和田岬線の車両は文字通り人であふれていたといいます。

 しかしトラック輸送への転換や兵庫港での取扱量の減少などが重なり、1984(昭和59)年に兵庫臨港線が廃止。さらに三菱重工神戸造船所の商船建造撤退や、地下鉄海岸線の開業といった出来事が続いており、和田岬線を取り巻く環境は厳しいように見えます。

 2011(平成23)年2月には、兵庫運河を利用した周辺地域の活性化を目指す神戸市が、JR西日本に対して、あえて和田岬線の廃止を求める要望書を提出しました。

 神戸市が設置した兵庫運河活性化会議が取りまとめた「兵庫運河周辺地域のまちの将来像」では、和田岬線を廃止し、散策やジョギングを行えるプロムナードにした場合のイメージが盛り込まれています。ただ、これには累積赤字が1000億円超にまで膨らんだ地下鉄海岸線の利用者を増やしたいという思惑もあるようです。


兵庫駅、和田岬線乗り場(深水千翔撮影)。

 しかし、兵庫運河活性化会議が開催したワークショップでも、和田岬線の活用を前提とした意見が出されている上、JR西日本としても黒字路線を廃止する理由がないため、今後も路線は残るのではないでしょうか。

 現在、和田岬線には通勤客の輸送の他に、川崎車両本社(旧川崎重工業兵庫工場)で製造された新しい鉄道車両を全国各地へ運ぶ甲種輸送の出発点としての役割を持っています。スカイブルーをまとった103系のラストランに向け注目が集まる同路線。これを機会に乗ってみてはいかがでしょうか。