「リンパ浮腫」の原因・治療法を医師が解説 がん治療の後遺症で起こりやすいのはなぜ?

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乳がんの治療後に起こりやすいと言われている「リンパ浮腫」。名前は聞いたことがあっても、症状やがんとの関係について詳しく知っている方は少ないと思います。そこで今回はリンパ浮腫の原因や症状、治療方法や予防・自分でできるケアまで、Medical DOC編集部が荘子先生に取材しました。

リンパ浮腫とは体のどんな疾患? 浮腫が起きる原因や初期症状は?

編集部

そもそも「リンパ」とは何なのですか?

荘子先生

まず、私たちの身体には、毛細血管というものが全身に張り巡らされています。実はこの血管にはごく小さな穴が開いており、そこから「血漿(けっしょう)」と呼ばれる血液の液体成分が漏れだしています。漏れた先の組織から出てくる物質を含めて、この液体成分はまた血管に戻ったり、毛細リンパ管というところに入ったりします。この後者の毛細リンパ管に入る、黄みがかった液体成分のことを、リンパ液(リンパ)と呼びます。毛細リンパ管は名前の通り非常に細いのですが、それが合流してリンパ管となり、最後は静脈に注ぎ込みます。リンパ管の途中にはリンパ節という丸い部分があり、リンパ液はそこで濾過されながら静脈に向かっていきます。

編集部

リンパによって浮腫が起きるとはどういうことですか?

荘子先生

血液は心臓によって送り出されるので何もしなくても流れますが、リンパはそうしたポンプがなく筋肉を動かすことによってはじめて流れるので、流れが滞りやすいのです。リンパ液は、リンパ管に入れないと組織の中に溜まってしまいます。これが、リンパ浮腫の正体です。

編集部

リンパ浮腫の初期症状にはどのようなものがありますか?

荘子先生

「浮腫」という名前の通り、むくみが出てきます。このむくみは、全身というよりも、片方の腕や下肢だけなど、部分的に出ることが多いのです。また、液体が溜まっている状態なので、身体が重く感じられ、だるく疲れやすくなります。ほかにも、手足が動かしにくかったり、皮膚が張ってきてつまみにくくなったりする方もいらっしゃいます。

なぜがん治療後にリンパ浮腫が起こるのか 抗がん剤治療やリンパ節切除との関係性

編集部

リンパ浮腫とがん治療には関係があると聞いたことがありますが、どういうことですか?

荘子先生

リンパ浮腫はがん治療後に起こる疾患として有名です。特に、乳がんの治療後に起こることが多いですね。乳がんの手術では、リンパ管を通ってがんが全身に広がってしまうのを防ぐために、わきの周囲などのリンパ節を取り除く「リンパ節切除」を行うことがあります。

編集部

なぜリンパ節を切除するとリンパ浮腫になるのですか?

荘子先生

血管から出てきてリンパになった液体成分を回収するリンパ管・リンパ節がなくなってしまうため、行き場を失ってそのまま溜まってしまいます。これががん治療によってリンパ浮腫が起きるメカニズムです。リンパ浮腫は、リンパ節を取り除いた場所より手足の先端側に起きることが多いので、例えば右の乳がんを手術すると、右の二の腕から先がリンパ浮腫でぱんぱんになってしまうことがあります。

編集部

乳がん以外のがんでもリンパ浮腫は起こりますか?

荘子先生

骨盤のあたりのリンパ節を取り除くと、足のリンパ液が回収されずに滞るため、下肢にリンパ浮腫が起こります。すなわち、骨盤周辺にできるがんである、女性の子宮がんや卵巣がん、男性の前立腺がんなどでは、リンパ浮腫が起こりやすいですね。

編集部

がん治療には手術以外にも治療方法があると思いますが、それならリンパ浮腫にはならずに済みますか?

荘子先生

放射線治療や抗がん剤治療は、身体の正常な部分も攻撃してしまうことがあり、リンパ節もその標的になりえます。こうした治療を行う際には、正常な部分への影響が最小限になるように工夫しますが、それでもリンパ節がダメージを受け、結果的にリンパ浮腫になってしまうこともあります。

リンパ浮腫の治療法を医師が解説 マッサージ・圧迫(着圧)などの保存療法・手術療法どちらがいい?

編集部

リンパ浮腫に対して自分でできるケアはありますか?

荘子先生

重い荷物を持ったり、長時間動き回ったりすると、リンパ浮腫が起きやすくなりますので、まずは無理をしない生活を心がけましょう。また、リンパ液の流れをよくすることで予防や改善が見込めるので、軽い運動で身体を動かす、マッサージをする等も効果的です。また、リンパ浮腫が起きている部分は、リンパ液の巡りが悪く皮膚が傷つきやすい状態になっています。皮膚を清潔にして保湿をすることで、皮膚に傷ができて病原体が入り込むことを防ぐことができますよ。

編集部

自分でケアしても治りにくい場合、病院で受けられる治療はどのようなものがありますか?

荘子先生

リンパ管の流れに沿って専門家が行う医療的なマッサージがあります。用手的リンパドレナージと呼ばれており、手でマッサージしながらリンパ液を残っているリンパ管の方に誘導することで、リンパ液の溜まりを改善する方法です。

編集部

リンパ浮腫の対策として「弾性ストッキング」というものを聞いたことがあります。詳しく教えてください。

荘子先生

弾性ストッキングは普通のストッキングよりも締め付けが強いもので、普段から履いておくことで浮腫を軽くしてくれます。医師に必要な書類を書いてもらい、領収書と一緒に健康保険組合に提出すると、3割の自己負担で購入できますので、ぜひ主治医に相談してみてください。

編集部

病院に行った方がいいのはどういう時ですか?

荘子先生

リンパ浮腫は、術後すぐに出る患者さんもいらっしゃれば、何年も経って現れる患者さんもいらっしゃいます。日頃から自分の身体をチェックし、「なんだかむくんでいる」と感じたら、がん治療の主治医に相談してください。リンパ浮腫は治りにくいとされていて、なるべく早めに見つけて治療を始めるのが大切です。 リンパ浮腫が起きている部分に傷口ができて腫れてきたり、熱を持ってきたりしたら、「蜂窩織炎」と呼ばれる状態になっている可能性が高いです。できるだけ速やかに医師の診察を受けましょう。

編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

荘子先生

リンパ浮腫によって生活に支障が出て苦しむ患者さんを少しでも減らすため、私たち医師もがん治療の際には最大限配慮したり、予防のためのセルフケア方法をお伝えしたりするように心がけています。がん治療を受けた後で「いつもと違う気がする」と感じた時には、お気軽に主治医にご相談ください。

編集部まとめ

リンパ浮腫は、がん治療によってリンパ節が切除されたり、なんらかのダメージを受けたりすることで、リンパという液体が回収されなくなる結果として生じます。症状として、に対応したむくみが出るほか、全身の重さ・だるさや皮膚の張った感じが出ることもあります。用手的リンパドレナージというマッサージの一種や、弾性ストッキングというものを着用することで治療できます。また、弱くなった皮膚に傷ができて感染するのを防ぐため、日頃から丁寧なスキンケアを行うのが重要です。

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