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アウディeトロンの実力

純正採用のスタッドレスタイヤ「ダンロップ WINTER MAXX SJ8」を装着したアウディeトロン・スポーツバックで、ショートトリップを試みた。

【画像】アウディeトロン 凝ったデザインをみる【ディテール】 全68枚

本来ならば降雪地域へ赴きインプレッションを取る予定だったが、折しも試乗日は上越地方が記録的な大雪に見舞われた直後だったため、残念ながらドライ路面での試乗となった。


アウディeトロン55クワトロ

確かめたかったのは、モーター制御となったクワトロ(AWD)の、雪上における走破能力。そしてこれがもたらす、コンフォートライドの実力だった。

ちなみに筆者はこのeトロンがデビューを控えた2018年に、ナミビアの大地でプロトタイプの走りを堪能した経験がある。

アウディがeトロンのローンチにアフリカの大地を選んだ理由はピュアEVの先進性と環境性能の高さをPRする上で、この地が極めて強いコントラストを放つと考えたからだろう。

ともあれ筆者はその広大な赤土の大地でeトロンを走らせ、このまますぐにでも発売できそうな、完成度の高さに唸らされた。

フロアに一番の重量物であるバッテリー(700kg)を敷き詰めたことで得られる、車体剛性の高さと重心の低さ。フロントにエンジンを搭載しないことで得られる、鼻先の軽さと前後重量配分の良さ。

こうしたEVならではの体幹バランスが走りの質感を高めることは、今でこそ多くの人々に知られるところだ。

しかしアウディはこれを4年以上も前にいち早くミドルサイズのSUVへと落とし込み、400km以上の航続距離と、トレンドを先取りしていた。

ガソリン時代の性能を継承

その車体は2.5tを超えるヘビー級だが、eトロンはSUVならではのストロークフルな足周りでこれを支えた。

大容量のエアサスが極めて快適な乗り心地を維持し、可変ダンパーがしなやかにそのロールとピッチングを制御した。


アウディeトロン55クワトロのポテンシャルの高さは、運転しやすさに直結する。レスポンスや駆動制御が例だ。

極めつけは、モーター制御となったクワトロだ。ドライブセレクトを「ダイナミック」に転じれば、エレクトリックブースト機能で通常350psのモーターパワーが408psまで高められ(これは市販モデルも同じ)、それまで安定志向だった4輪の制御を後輪よりのトルク配分に変更して、コーナーを積極的に曲げて行く。絶妙なアングルを保ちながら、前へと進んで行く。

ドライブシャフトもセンターデフも持たないクワトロはしかし、確かに自分がよく知るガソリン時代の性能を受け継いでいた。

いやヨーレート検知の速さや、アクセルレスポンス的にはそれ以上のポテンシャルだ。そして恐ろしく静かに大地を駆け抜けるギャップに、新しい時代を感じた。

こうしたポテンシャルの高さが、現実ではどのように生かされるのか? 雪上路面で言えば、それはひとえに運転のしやすさだ。

アクセル開度に対してレスポンス遅れなく、かつ適切なトルクを立ち上げることができる駆動制御は、雪道での緊張感を大いに和らげてくれたはずである。

とはいえオンロードにおける、スタッドレスタイヤを履いたeトロン・スポーツバックの走りは確認できたので、それを最後にお伝えすることとしよう。

「旗艦」名乗るに相応しい

まず関心したのはWINTER MAXX SJ8の、剛性バランスの良さだ。

試乗車はまさに下ろしたての新品タイヤを履いており、その溝も深くブロックがそそり立っていた。


WINTER MAXX SJ8は、クルージング時におけるトレッド面のムービングもなく、意地悪くアクセルを強めに踏み込んでも、トルクステアが起こらない。

そんな状態でもWINTER MAXX SJ8は、とても快適だった。さすがは専用タイヤというべきなのだろう、街中ではエアサスとの相性もよく、スタッドレス特有のゴムの重さ、段差を超えたときなどに起きるバネ下のバタつき感がみごとに抑えられていた。

高速巡航ではこうした乗り心地を維持しながらも、直進性がきちんと保たれていたのが好印象だった。

レーンチェンジでの応答性は穏やかかつしっとりしており、速度域が低い日本では、むしろこちらが好みだというユーザーもいるかもしれない。

クルージング時におけるトレッド面のムービングもなく、意地悪くアクセルを強めに踏み込んでも、トルクステアが起こらない。

ロードノイズが抑えられているのはタイヤだけでなく、eトロンの遮音性によるものだろう。

もちろん高負荷領域においては、eトロン側でも4輪制御を巧みに利かせているはず。アクセルを踏みつけたところでスタッドレスタイヤのグリップ力を超えない範囲でトラクションを管理しているはずだが、なおかつWINTER MAXX SJ8が専用タイヤとして、そのマッチングをさらに深めているというのは体感できた。

確かにその価格は1320万円と高めだが、ガソリンモデルのQ8(340ps/51.0kg-m)よりも高出力なSUVを、ピュアEVで味わえるとなればその先取り感には納得が行く。

2023年モデルが「Q8 eトロン」に改名されることを考えてもこの55 eトロン・スポーツバックは、現アウディのフラグシップモデルを名乗るに相応しいSUVであった。