高橋みなみを悩ます“花粉症”。シーズン到来前に知りたい、最新治療と対策術
毎年悩まされる人も多い花粉症のシーズンが近づいています。皆さんは、アレルギーの症状を感じたことはありますか?「自分は、まだ大丈夫」。そう思っていても、発症のリスクは少しずつ蓄積しており、誰しもが花粉症になる可能性があります。一方で、根治治療である舌下免疫療法の開発や、従来の治療方法の改善を含め、花粉症治療は日々進歩しています。今回は、高橋みなみさんが悩まされている花粉症事情を踏まえ、花粉症治療において日本を代表する存在である大久保公裕先生とともに考えていきます。
インタビュー:
高橋みなみ(タレント)
監修医師:
大久保公裕(日本医科大学耳鼻咽喉科 教授、日本耳鼻咽喉科学会認定専門医)
1984年日本医科大学卒業後、アメリカ国立衛生研究所への留学を経て、2010年には日本医科大学耳鼻咽喉科 教授へ就任。花粉症治療において日本を代表する存在であり、舌下免疫療法の開発では、厚生労働省の承認のもと、全国に先駆けて臨床試験を積極的に行っている。
大久保先生
高橋さんはいつ頃から花粉症を自覚しましたか?
高橋さん
アレルギー性の気管支喘息と同時に自覚したので、幼稚園の年長くらいの時だと思います。
大久保先生
どのような症状がありましたか?
高橋さん
くしゃみが止まらず、目が痒くなりますね。
大久保先生
それは一年中ですか?
高橋さん
春先が特に辛いですが、一年を通して症状はあります。花粉症になると、肌も過敏になる気がします。
大久保先生
なりますね。花粉でくしゃみや鼻水が出るのは、体の中にヒスタミンという物質が出ることが原因です。蕁麻疹でも同じ物質が出るので、花粉症で肌が荒れたり、痒くなったりするといった症状が出る可能性はありますね。
高橋さん
一年中辛い思いをしているのですが、花粉症の原因は何でしょうか?
大久保先生
アレルギーも花粉症も、基本的には異物に対する免疫反応です。ハウスダストなどの異物や、環境の変化を起因とした気管のアレルギー反応が喘息です。鼻のアレルギー反応で、春に起こるものが花粉症。一年中症状を伴うものは、通年性のアレルギー性鼻炎と言います。高橋さんには、複合的なアレルギー症状があるのだと思います。今までに治療はされましたか?
高橋さん
改善したいなと思いつつ、市販薬しか使ったことがありません。
大久保先生
病院への受診はされていないということですか?
高橋さん
そうですね。定期的に血液検査をして、アレルギーの数値を測定する程度です。
大久保先生
目薬は使いますか?
高橋さん
痒くなったらすぐ使えるように、目薬は色々な場所に置いていますね。
大久保先生
治療として基本的な部分は悪くはないと思います。しかし一度は受診をしていただいて、自分の症状にあった治療薬を処方してもらうと、より治療効果は高いかもしれませんね。高橋さんのご家族で花粉症の方はいますか?
高橋さん
家族にアレルギーを持っている人はいません。
大久保先生
アレルギーには遺伝も関係していますが、高橋さんの場合は、生活環境やご自身の持っている体質の影響が強そうですね。
高橋さん
私の症状は、どのような診断になりますか?
大久保先生
通年性のアレルギー性鼻炎です。現代人に多いタイプで、ベースにハウスダストやダニの影響を受けつつ、スギやヒノキ、ブタクサなど様々な植物の花粉にも影響されていると思います。
高橋さん
一年を通して症状があるので、本当に辛いですね。
大久保先生
そうですよね。ただ、花粉症に対する意識がしっかりされていて、採血でご自身のアレルギーの状態を検査していることは、非常に良いことだと思います。
高橋さん
続けたほうがいいですね。例えば、ある年はヒノキの数値が高かったとして、時間が経ってから血液検査をした時に、その数値が変ることはありますか?
大久保先生
あります。たくさんヒノキが飛んだ時は、ヒノキの抗体価は上がります。ヒノキがあまり飛んでいないと、抗体価は下がります。
高橋さん
飛んでいる花粉の量に応じて、アレルギーの数値が変動するということですか?
大久保先生
はい。原理はコロナワクチンを受けて、抗体価が上がるのと一緒です。体の中に異物が入ってくると、その量に応じて抗体ができるということですね。
高橋さん
それは別に治ったわけではないということですね。
大久保先生
はい。異物がないから抗体価も下がるというだけです。
高橋さん
ちょっとショックですね。私は抗体価が下がっていると、治ってきたのだと思っていました。
大久保先生
今はコロナ禍で、マスクをすることが習慣になっていますから、皆さんが花粉に対する抗体価は上がりにくい状態なのだと思います。
高橋さん
確かにここ2~3年は、体が楽な気がします。コロナが落ち着いてきたら注意が必要ですね。血液検査だけではなく、しっかりと医師の診察を受けて、治療をしてみたいと思います。
高橋さん
花粉症の主な症状について教えてください。
大久保先生
花粉症の主な症状には、くしゃみ、鼻水、鼻詰まりがあります。くしゃみは花粉を吹き飛ばし、鼻水は花粉を洗い流し、鼻詰まりは花粉が入らないよう防御している状態です。異物を体から遠ざけようとする反応が症状として出現します。目に入ると涙目になるのも、異物を流そうとする反応ということですね。
高橋さん
花粉症の原因となる植物について教えてください。
大久保先生
2~4月にはスギ、4月と5月がヒノキ、6~8月にかけてイネ科、8~10月でブタクサやヨモギといったキク科の花粉が飛んでおり、それぞれ花粉症の原因となります。
高橋さん
花粉症の人が聞いたら、ちょっとゾッとしますね。
大久保先生
そうですね。西日本ではヒノキも多くなってきていると言われていますが、日本で最もメインとなる花粉症の原因はスギです。
高橋さん
やはりスギは多いんですね。
大久保先生
日本は島国なので国土を守るための防風林や防砂林が国土の27%を占めていますが、その約70%がスギ・ヒノキ人工林(国土の19%)と言われています。
高橋さん
多いですね。海外の花粉事情はどうですか?
大久保先生
スギに関しては日本特有のものですね。韓国と中国に少しある程度で、ほかの国にはほとんど存在しないです。ヨーロッパは牧草地帯なので、イネ科。アメリカにはブタクサが多いと言われています。
高橋さん
飛散時期のピークはいつ頃ですか?
大久保先生
東京を中心に考えると、スギに関してのピークはバレンタインデー前後になります。大阪と九州はそれより一週間ぐらい早く、東北では2月の後半に飛び始めるため、ピークは3月の第一週から第三週の間ぐらいになると思います。
高橋さん
花粉の飛散量は徐々に増えているんでしょうか?
大久保先生
今あるスギのほとんどが戦後の1970年代に植えられました。スギの木はおおよそ30年で大人のスギとなり花粉の飛散を始める為、花粉の飛散量が多くなるのだと思われます。
高橋さん
大人になったほうが、花粉は飛びやすいということですね?
大久保先生
そうですね。ただし屋久杉のように、200年以上経つと花粉は飛ばなくなりますね。
高橋さん
200年ぐらいの樹齢であれば花粉は飛ばなくなるけど、私達は大人のスギが多く存在する時代に生きているから、花粉にさらされやすいということですね。
大久保先生
そういうことになりますね。
高橋さん
年齢別の罹患率について教えてください。
大久保先生
花粉症の有病率は徐々に増えていて、1998年では16.2%であったスギ花粉症の有病率は、2008年に26.5%。2019年の調査結果では38.8%に増加しています。
高橋さん
増えていますね。
大久保先生
3人に1人はスギ花粉症ということになりますね。30~50代がピークとされていましたが、最近のピークは10~20代と言われています。5~10歳の有病率も7.5%から20年の時を経て、30.1%と4倍に上昇しており、花粉症になる年齢が徐々に若年化しています。
高橋さん
若い人の有病率が上昇しているのは、スギの木が大人になり花粉の飛散量が増えていることが原因ですか?
大久保先生
それも一つの原因と言えますね。加えて、現代は環境の変化によりバイ菌や異物に触れる機会が少なくなっていることも原因と思われます。私たちの時代は、砂場や自然の多い場所で遊ぶ機会が多くありましたが、現代の子供たちは砂場で遊ぶ機会さえ無くなっています。環境が清潔になるのは良いことですが、そういったバイ菌や異物に触れる機会が少なくなると、アレルギーになりやすい体質へ変化してしまうのだと思われます。
高橋さん
難しいですね。生活する環境が清潔になることは良いことではあるけど、バイ菌などに対峙する機会が減っているから、花粉にさらされた時に花粉症を発症しやすくなっているということですね。
大久保先生
そうですね。都心部では、野原を走り回ったりすることも出来ないので、子供の体の強さを引き出すことが難しくなっていますね。
高橋さん
デメリットばかりに見える花粉症にも、意外なメリットがあると聞きました。
大久保先生
花粉症のメカニズムは、花粉が体の中に入ってきた時に、それを異物として認識し排除しようとする免疫反応です。花粉症などのアレルギーを持っている人は、細胞の突然変異で発症するがんに対しても、この免疫反応が起こりやすい可能性があると言われています。
高橋さん
アレルギー症状の出やすい人は、花粉以外にも、がんや自分の体の異物だと感じたものに対して敏感に反応しているということですね。がんの死亡率にも影響はありますか?
大久保先生
はっきりとしたエビデンスはありません。しかし、免疫反応というメカニズムを花粉症やがんに当てはめると、その可能性もあるのだとは思いますね。
高橋さん
花粉症も少しプラスに考えられるようになりますね。素朴な疑問なのですが、遺伝や体質は花粉症の発症に関係はありますか?
大久保先生
関係性はもちろんありますが、遺伝が全てではないですね。アレルギーを持っている人同士が結婚すると、生まれた子供の6割は何らかのアレルギーを持っている可能性が高いです。アレルギーを持っている人とそうでない人では、3割程度がアレルギーを持った子供が生まれると言われています。
高橋さん
大人になって花粉症を発症する人も多いと思うのですが、高齢者はどうでしょうか?
大久保先生
年齢を重ねると花粉症は発症しにくくなります。これは、免疫反応が全体的に弱まっていることが影響していますね。80歳以上になると花粉症は発症しにくくなります。
高橋さん
年齢によって対策も変えていく必要があるということですね。
高橋さん
花粉症の治療事情について教えていただけますか?
大久保先生
花粉症の治療は、薬物治療・免疫療法・手術療法(レーザー)が主な治療法です。薬物治療は抗ヒスタミン薬、鼻詰まりに使用される抗ロイコトリエン薬、鼻のスプレー、点眼液などを組み合わせて実施されます。眠くなりやすいとされている抗ヒスタミン薬は、日々進歩しており、眠くなりにくいことに加え、水無しでどこでも服用できるように改善されています。
高橋さん
手術療法はどのような治療をするのですか?
大久保先生
目には実施できないのですが、鼻の粘膜をレーザーで焼きます。焼いて乾燥させると花粉がくっつかないことに加え、粘膜が腫れにくくなり、くしゃみ・鼻水・鼻詰まりなどの症状が改善すると言われています。
高橋さん
免疫療法はどのような治療をするのでしょうか?
大久保先生
免疫療法には注射製剤と舌下製剤を使用する方法があります。
高橋さん
何を注射するんですか?
大久保先生
スギ花粉のエキスを注射して、スギに対する免疫を作っていきます。そうすることで、スギ花粉に対する反応が徐々に弱くなっていきます。
高橋さん
何回くらい注射するんでしょうか?
大久保先生
1週間に1回の注射を2カ月間から始め、徐々に頻度を減らして最終的には1カ月に1回の注射を合計で2年間以上行います。
高橋さん
長いですね。
大久保先生
注射製剤は通院が必須ですが、現在は舌の下にスギの錠剤を置く舌下免疫療法も実施されています。治療期間は注射と同じで2年間以上にはなりますが、通院する回数を減らすことは可能ですね。
高橋さん
免疫療法はどのようなメカニズムで治療をしていくのですか?
大久保先生
スギ花粉にアレルギーのある人は、それを異物と認識し排除しようとするから症状が出ます。免疫療法は、スギ花粉のエキスを少しずつ体内に入れることによって、それを異物として認識しないようにしていきます。スギ花粉を排除しない体へと変化させていくというわけです。
高橋さん
花粉のトレーニングみたいなものですね。費用はどのくらい掛かりますか?
大久保先生
薬剤がおよそ100円なので3割負担で約30円、1カ月で900円くらいになりますね。
高橋さん
舌下免疫療法のメリットには、どのようなものがありますか?
大久保先生
メリットは、家で治療ができる点や注射による痛みがないことはメリットと言えますね。体内に入る抗原量をコントロールしやすいことから、アナフィラキシーショックが少ないこともメリットの一つと言えますね。
高橋さん
反対にデメリットは何かありますか?
大久保先生
治療できる対象がダニとスギに限られることがデメリットですね。注射製剤は、ダニとスギに加え、ハウスダストやブタクサ、イネ科、猫アレルギーなど様々な治療を行うことができます。また、舌の下に入れることで口の中が腫れてしまう可能性があることや、治療を毎日継続しなければいけないことはデメリットと言えますね。
高橋さん
アナフィラキシーショックは少し怖いですね。舌下免疫療法は子供でも行うことはできるのですか?
大久保先生
子供に対する適応はありますが、舌の下に薬を置いて1分間待つことが必要となるので、それが理解できるおよそ3歳以上が実際の適応と言えると思います。治療自体はより早期に、できれば子供の頃から開始したほうが治療効果も高いように感じます。大人の60~70%に対して、10代やそれ以下だと90%程度の効果がある印象です。
高橋さん
できるだけ早く治療を開始することが大事なのですね。免疫療法以外の治療法についても同様のことが言えますか?
大久保先生
薬物治療も早期治療が重要ですね。花粉に敏感な人は、1月中に症状が出現することも多いので、症状が出たらすぐに治療を開始することを推奨します。
高橋さん
点眼薬も花粉を感じたら、できるだけ早く始めるのが大事なんですね。
大久保先生
その通りですね。花粉によって粘膜が炎症を起こし、腫れていきます。炎症がひどくなるほど治療は大変になる為、炎症が小さいうちに点眼薬を使用することが重要です。
高橋さん
手術療法についてはどうでしょうか?
大久保先生
レーザー治療は、花粉症の季節が始まる前の12~1月までには行っておくことをお勧めします。舌下免疫療法は翌年の2月に効果が出ないことも想定されるため、遅くても12月までに治療を開始してください。
高橋さん
早期治療を実現するためにも、かかりつけの医師と治療方針を決めておくことも重要ですね。自分でできる花粉症の対策があれば教えてください。
大久保先生
まずは体の中に花粉を入れないことが重要です。基本ではありますが、マスクとメガネ、帽子の着用、うがい、手洗いはぜひ行ってください。
高橋さん
花粉症に有効な食べ物はありますか?
大久保先生
お茶に含まれるポリフェノールは抗酸化作用で粘膜の炎症を抑える働きがあります。また、ヨーグルトなどの乳酸菌や発酵食品は摂取することで、免疫力が上がると言われおり、花粉症に対しても有効である可能性があります。
高橋さん
室内でできる対策は、何かありますか?
大久保先生
人が集まるようなリビングは空気清浄機を使用し、寝室は加湿をすると良いですね。窓を開けなければ基本的に花粉は入ってこないのですが、窓を閉めてしまうと既に室内に入った花粉は外へ出づらい状態となります。その為、人が集まるようなリビングは、空気清浄機を使用することで花粉の影響を最小限にできるからです。
高橋さん
寝室は加湿をするんですね?
大久保先生
はい。ベッドに横になる時に舞った花粉は、加湿をしていると重くなり飛べなくなります。また、加湿は鼻の粘膜にも良いということもお勧めの理由ですね。室内の対策には、加湿と空気清浄機の使い分けが重要です。
高橋さん
コロナ禍で、定期的な空気の入れ替えが推奨されていますが、そういう場合はどうすればいいですか?
大久保先生
換気の際には、窓を全部開けずに網戸を閉め、レースのカーテンをしておくだけで、花粉をある程度ブロックすることが可能になると思います。
高橋さん
ありがとうございます。舌下免疫療法をはじめ、知らないことばかりですね。今すぐにでも出来ることは今日から始めていきます。
編集部より
症状の現れ方や程度はさまざまではあるものの、今もアレルギー症状に悩まされている人は多いでしょう。花粉大国であり、3人に1人が花粉症患者と言われる我が国においては、誰しもが花粉症を発症するリスクがあります。
生活環境が整備され、清潔であることは望ましいものの、異物やバイ菌にさらされにくい環境が、アレルギー発症の引き金となるということにも驚きました。
この記事をきっかけに、花粉症の最新治療や自分でできる対策方法を知り、花粉症に悩む人のみならず、全ての人のアレルギー対策の参考になることを願います。