ハーフタイムに監督から指示を受ける倉吉東の選手たち。わずか15人という少なさがグラウンドでも際立った【写真:吉田宏】

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高校ラグビーの課題と未来への挑戦・前編

 102回目の“花園”――全国高校ラグビー大会は1月7日、東福岡の6大会ぶり7度目の優勝で幕を閉じた。今季も多くの熱戦、激闘が繰り広げられたが、華やかな強豪同士の戦いの一方で、都道府県予選では対戦校のメンバー不足により鳥取・倉吉東が県予選を1試合も戦わずに花園出場を決めるなど、参加校不足、部員減少に苦しむチーム、地域も増えている。日本ラグビーが発展するための基盤でもある高校ラグビーは、これからどうなるのか。前編では、当事者となった倉吉東の岩野竜二監督をはじめ、参加校不足や部員減少に苦しむ地域からの花園出場校の監督に、その実情や問題点、これからの挑戦について話を聞いた。(取材・文=吉田 宏)

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 東福岡が圧倒的な力を見せて、今季の花園は幕を閉じた。王者にも、敗れていったチームの中にも、これからの日本代表を背負う可能性を持つ好素材を数多く見ることができたが、開幕前には日本ラグビーの未来にも影響しそうなニュースが報じられた。

『1試合もせず「花園」 鳥取予選が投げ掛けた高校ラグビーの課題』

 昨年12月9日付けの毎日新聞(電子版)の見出しだ。3チームが参加した鳥取県予選だったが、1回戦に参加予定だった米子工、倉吉総合産が、試合を満たす選手を揃えることができず、ともに辞退を申し出た。そのためシードされていた倉吉東が、決勝戦を行わずに5大会ぶり12度目の花園出場を決めたのだ。

 その倉吉東は花園の1回戦第1日の第1試合に登場すると、出場30回を誇る宮崎・高鍋に0-66とスコアレスで敗退した。出場校最速で花園を去ることになったが、実力も経験値も、そして選手層も差がある相手に、弾き返されても粘り強くタックルに入り、まとわりつき、60分間抵抗し続けた。何度も吹っ飛ばされ、ボールを繋がれ、最後は独走される場面も多かったが、相手のアタックを1歩でも遅らせようと体を張り、再び走り続ける姿が印象的だった。

 苦しいチーム運営を続けながら部員たちを全国の舞台に連れてきた同高OBでもある岩野竜二監督は、真っ先に花園の夢を終えた選手たちを称えた。

「選手は立派だったと思います。諸事情で試合に出られない子が4人いたので、選手たちにはその子の分までということと、しっかり価値のある時間を過ごしましょうという話をしてきました。彼らなりに最後まで体を張り続けてくれたので、そこは価値があったと思います」

 試合前、発表されたメンバーリストを見て驚かされた。当初は19人の選手登録を予定していたが、リストに書かれた選手はわずか15人。つまり交代選手なしの布陣で戦うことになった。試合後に、岩野監督は理由を「感染症のため」と言葉少なに語ったが、取材する側は、よくぞ試合が成立する人数に感染者を押しとどめてくれたという、監督、スタッフ、そして選手たちへの称賛の思いしかなかった。

綱渡りだった部員集め、演劇部からの転部選手も…

 花園という舞台で60分間、15人でプレーできたことが何よりだったが、リザーブメンバーなしで戦うことは相当困難なことだ。岩野監督は「もともと少人数なので、1人が複数ポジションをできるようにやってきました。しかも(感染は)4人同時になったわけでもないので、メンバーが少なくなっていくなかで、どんどん(メンバー、ポジションを)変えていきました。不慣れなポジションでやっている子が半数以上でした。本当に綱渡りでした」と、ピッチ外でも苦闘を強いられた挑戦を振り返った。部員には、この試合がラグビーの実戦デビュー戦だった選手、演劇部からの転部選手もいた。

 今回はなんとか15人以上を揃えて花園での実戦まで漕ぎ着けた倉吉東だが、1年間の活動は苦難の連続だった。

 中国大会ブロック予選などは、米子工、倉吉総合産と合同チームで出場。合同チームの全国大会「コベルコカップ」も、もちろん混成チームで臨み、選手個々のレベルアップを図った。ようやく単独チームで試合ができるようになったのは花園予選前。本大会へ向けては、花園出場を決めていた近隣の島根・石見智翠館、香川・高松北に練習試合を組んでもらい、夢の舞台にやってきた。

 試合が終わったばかりのタイミングだったが、岩野監督に倉吉東での部員確保の現状を聞いてみた。

「鳥取自体が人口がすごく少ないところです。中学の部活(ラグビー部)がなくて、ウチのチームではラグビースクール経験者は3人です。新入生を部員たちが勧誘しています。どこの高校でも選手集めは大変だと思いますが、友達同士の関係で集めてきています。それが広がっていければいいと思います」

 鳥取県予選で出場を断念した2チームについても、戦わずして花園を断念せざるを得なかったのは無念だっただろうが、花園出場を果たした倉吉東にとっても歓迎できる出来事ではない。今季に限っても、中長期的に見ても、他校との真剣勝負の試合、練習が県内で組めないことは、同じ地域で競い合い、ともに強化を進めていくためには深刻な問題だ。もちろん県内のラグビー関係者も、競技人口増加、試合を成立させようと工夫や新たな取り組みにも挑戦している。

減少し続けている高校年代の競技人口

「県内では、1チームで1学年8人選手を増やしましょうという話はしています。それができれば、2学年で16人なので試合ができる。なので、とにかく、なんとか8人。その8人をどう集めるかというところですけど、こうやって花園を目指すのは当然ですが、やはりラグビーの魅力を伝えるだとか、放課後の2時間、3時間をどう過ごすかという部分で、僕ら指導者も含めて関係者が価値のある空間にしないと選手は集まってこないと思います。選択肢が多様な時代ですし、価値観も多様な時代ですから。その2、3時間で人間関係を充実させるような仕掛けをしていくことが重要だと思います。ラグビーだけじゃなくスポーツ人口自体が減ってくるので、そういう意味でのロールモデルじゃないですけど、そういうふうに繋いでいくんだというのが発信できればいいと思います」

 岩野監督の言葉は現場の生の声として、傾聴するべき意見だろう。今回の倉吉東のケースは、一見すると鳥取県で起きた異常事態のように受け止められるかもしれない。だが、実は全国各地で同じような状況が起きている。それが1試合も戦わずに出場を決めるという極端な形で現れたことで、鳥取が大きく取り上げられたに過ぎない。

 問題の要因は3点ある。まずは、恒常的に予選の出場校が少ない地域が増えていること。ここに直近でのコロナ感染と、中長期的には少子化が響いている。

 全国高校ラグビー大会は、大阪府など複数校が出場する地域を含めて47都道府県から毎年51チームが出場する。そのなかで、今季大会の地方予選(都道府県大会)の参加校が3チーム以内だったのは7県。複数校で編成された合同チームを除く参加が8校に満たなかったのは、前出の7県を含めて25の地域で、都道府県ごとで見れば半数を超えている。

 背景には、高校年代の競技人口減少に歯止めがかからない現実がある。今年度の花園予選に出場したチームは全都道府県で578校だったが、昨年の631校から確実に減少している。コロナ感染などの影響はあるが、感染拡大前の2019年大会は688校が出場し、10年前の2012年度は801校が参加していることを考えれば、コロナだけではない落ち込みと言わざるを得ない。

 47自治体別の予選参加チーム数を21年度と22年度で比較しても、増加したのはわずか3県、増減なしが16県で、28都道府県が減少している。鳥取での県予選が1試合も組めなかったということも踏まえて、部員確保、増加の特効薬はないと考えていいだろう。コロナ感染が事態を悪化させているが、高校ラグビーの中長期的な競技人口問題は、かなり深刻だと改めて痛感させられる。

高松北が活用する「せとうち留学」の制度

 米子東と同じ大会第1日で花園を後にした香川・高松北も、部員数、参加校数という戦いをなんとか乗り越えて夢の舞台に立った。香川県予選の参加校は3チーム。高松北の花園登録選手は、倉吉東の15人よりは多いが、わずか18人だった。3人しかメンバーを入れ替えることができないなかで、留学生も擁する大分東明に0-130と大敗した。

 試合を終えた高木智監督は、18人の戦いぶりを淀みない声でこう言い切った。

「凄いと思いますよ、ホンマに。まだ始めたばかりの子が6人くらい出場して、あんな(強豪)チームとよく体張ってやるなと思います」

 この1年の部活を聞くと、やはり人繰りとの戦いだったという。

「全国的にそういうチームが多いと思いますが、今年は夏まで部員は10人でした。練習試合も合宿もできませんでした。そこから、野球部から5人、バドミントン部などからも入ってきてくれて、なんとか18人になった。15人で試合ができるようになったのは10月くらいですね。それで、この花園第1グラウンドで、あのチームとやるなんて、こいつら凄いなと思います。夏までの活動で、みんな(部活を)諦めなかったんです。諦めないことを、私も選手から学びました。だから、この試合前にも諦めるなと話して送り出しました」

 完敗に終わったが、60分間決して諦めない15人の姿は観戦した誰もが見て、感じ取ることができたはずだ。そして敗戦後の高木監督にも、チーム、地域での選手確保の取り組みを聞いた。

「みんな頑張っていると思いますよ。鳥取も香川もね。頑張っているけれど、やはりラグビーをやる環境がないので、うちみたいに今回の10人からスタートしてということになる。香川では2年前から、教育委員会が『せとうち留学』という入試制度を始めたんです。全国から、香川で挑戦したいという子を募っています」

 この制度を利用して入学してきたのが、CTB(センター)で先発した普門晃輔(2年)だ。東大阪市出身で、花園ラグビー場は「家から自転車で20分くらい」(普門)。わずか15歳で「どうしても花園に出たかった」と単身、香川での挑戦を始めたが、里帰りして憧れの花園のピッチに立った。何度も力負けして、タックルを弾き返されたが、前半20分には突進してきた185センチ、111キロの留学生NO8ダウナカマカマ・カイザ(3年)をタックル一発で止めるなど、“留学生”の意地も誇りも見せた。高木監督は「知り合いのところで紹介してもらえた子です。大阪から、こっちを受験してくれた可能性を持った選手です。せとうち留学では1年生にも2人の選手がいるので、この制度で3人が入部してくれています。毎年知り合いのところを回って、(制度の)資料を渡しています。そこに学内では、部員と私で新入生を勧誘して部員を確保しています」と、県外からの選手にも門戸を開き競技人口確保に奔走する。

合同チームの花園参加だけでは解決しない

 倉吉東同様に部員集めに腐心しながら、新たな制度も活用して部員数確保に奔走する高木監督だが、今後の新たな可能性にも期待を寄せる。

「合同チームの花園参加が、早ければ来シーズンから実現しそうです。例えば香川県の場合、極論すると4校が15人揃いません。なので、4校合同でという考え方はあると思います。そうなっても花園には出られることで、生徒にしたらやり甲斐があると思うんです」

 合同チームとは、1校で15人に満たない学校同士が1つのチームを編成して大会に出場する方式だ。すでにラグビーでは地方予選には参加しているのだが、合同チームの場合は花園出場権がない。県予選での優勝は過去にはないが、勝てても花園には出場できないのが現状だ。

 だが、全国高等学校体育連盟(高体連)は昨年12月22日に、ラグビーをはじめ9競技について、次年度から合同チームの全国高校総体(インターハイ)出場を認める方向で検討していることを明らかにした。少子化による部員減少と、高校生に部活の成果を披露できる機会を広げようと顧慮したもので、高木監督が語るようにこの動きが加速していけば、部員数、参加校数に悩む都道府県にとっては、選手たちに花園出場の可能性を広げる朗報になる。

 しかし、忘れてはいけないのは、この合同チームが果たすのは、「いま」試合ができるかできないかという境遇の選手たちへの急務の策という役割に過ぎないということだ。部員数や単独チームでの参加校の増加に、直接繋がる制度ではない。

 山形南は、山形中央と2校だけの県予選を勝って夢舞台を掴んだ。1回戦では、同じ東北の岩手・黒沢尻北に0-45とスコアできずに敗退したが、阿部貴洋監督は県下有数の進学校で、ラグビーと勉強の両立に苦闘してきた選手たちを労った。

「今年は3年生が13人いましたが、9人が部に残ってくれた。その中で4人は進路が決まったが、5人は共通テストが目前なので、宿でもミーティングを終わった後に広間に残って勉強しています。バスの移動でも12時間くらいずっと勉強していましたね」

 例年なら3年生になると、全員が受験準備のために部活を辞める山形南で、9人の部員が部活を続け、5年ぶりの花園出場を果たしたのだ。同監督が3年生の選択を、こう説明する。

「去年、一昨年は、3年生はほぼ全員残らなかった。コロナの影響で大会自体どうなるか分からなかったことも影響しました。でも、去年の3年生の中で1人だけ部活を続けた子がいたんです。その姿を目の当たりにして、今の3年生が今年こそ絶対に勝つという気持ちを持ったのが大きかったと思います」

山形南監督が描く中学、高校の枠を超えたラグビー普及

 部活を続けた3年生のFB(フルバック)小関一輝主将にも、仲間たちの決断の理由を聞いてみた。

「去年1人で(部に)残ってくれた先輩が、僕たちのために戦ってくれたことが本当に印象深かった。その先輩に対するリスペクトが大きくて、残るという決断を決めた部員が多かったと思います。部活をしながらの勉強という面では、周りの(部活を辞めている)子たちは学業一本に専念できていた。でも、自分たちはどう上手く両立するかと考えながらやってきたことが、今後のステージでも必ず役立つことだと思います。残った生徒は絶対に成長するなと思っています」

 3年間を懸けたラグビーでの挑戦が終わった直後に、これだけのコメントができる高校生がいること自体、すでに将来が楽しみだが、ラグビーと受験という難しい挑戦の両方を続けてきたマネジメント力は、必ず人生の様々なフィールドでプラスになることは間違いない。

 文武両道に挑む部員たちと一緒に奮闘を続けてきた阿部監督は就任3年目。現役部員同様、花園は初体験という若い指導者だが、この3年間の経験で、山形でのラグビー普及への思いを巡らせている。

「うちのチームは現在26人の部員がいます。山形の競技人口が少ないなかで、通常30人近く確保できているのは恵まれていますが、3年間やってきて、中学、小学生の子供たちと高校生の繋がりをもっと作ったほうがいいのかなという気がしています。少人数かもしれないですが、むしろ人数が少ないからこそ、いろいろな学年を混ぜて、いろいろなことに取り組むべきだとはすごく感じています」

 高校、中学の枠を超えての普及活動には障壁もあるように思われるが、このチームだからこそ実現できる可能性もあるという。

「うちのチームは初心者がほとんどです。なので、新入部員だと先輩たちよりもむしろ中学生たちとタックルなどの初歩的な練習をしたり、栄養面を考えた食事の講習会のようなものも一緒に受講してもいい。こういう学年を問わない取り組みや、子供たちにラグビーの面白さを伝えることで、山形のラグビーが盛り上がるんじゃないかと思います」

 ラグビー協会でも様々な普及の取り組みは継続的に行われているが、阿部監督のような目線を低い位置に置くことで見えてくるアイデア、取り組みは、現場にいないと目も手も行き届かないのが現状だ。山形や鳥取のような競技人口で苦戦が続く地域のダイレクトな声に耳を傾け、協会もサポートに手を差し出すことで、プランを現実の競技人口拡大の施策に転じていくことが重要だろう。

 阿部監督が語る問題や課題は、部員数、チーム数が少ないチーム、地域に限ったものではない。後編では、花園常連校と言われる強豪チームを率いる指導者の視点を紹介したい。

(吉田 宏 / Hiroshi Yoshida)

吉田 宏
サンケイスポーツ紙で1995年からラグビー担当となり、担当記者1人の時代も含めて20年以上に渡り365日欠かさずラグビー情報を掲載し続けた。W杯は1999、2003、07、11、15年と5大会連続で取材。1996年アトランタ五輪でのサッカー日本代表のブラジル撃破と2015年ラグビーW杯の南アフリカ戦勝利という、歴史に残る番狂わせ2試合を現場記者として取材。2019年4月から、フリーランスのラグビーライターとして取材を続けている。長い担当記者として培った人脈や情報網を生かし、向井昭吾、ジョン・カーワン、エディー・ジョーンズら歴代の日本代表指導者人事などをスクープ。