カタールW杯の日本代表快進撃を象徴する「三笘の1ミリ」。三笘薫の執念のアシストが、スペイン戦での逆転ゴールを呼んだ(写真:AP/アフロ)

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【連載】サッカー・カタールW杯 森保ジャパン勝負の1年(最終回)

現代は占いの時代だ。占い本はベストセラーになり、定期的に入れ替わる占い師にテレビ局は「冠」を与え、若者たちはスマホで自らを占う。FIFAワールドカップ(W杯)2022カタール大会でも、識者が日本代表を占った。城彰二氏のように、グループリーグ敗退を断言した人も多い。

だが、森保一監督率いる日本代表はグループリーグを突破した。同時に「手のひら返し」が起きたが、ベスト16で敗れたことで「森保監督じゃダメ」論が再浮上した。

我々メディアは、予言者ではない。「ジャーナリストは事実に対する現状や意義、展望を報道する専門家」と言われている。2022年1月に始まった本連載の最終回は、森保ジャパンを振り返り、次大会への展望を記したい。(石井紘人 @ targma_fbrj)

「委任戦術」初めは不安定なチーム

まず森保監督への辛口な批評で多いのが、「戦術がない」「4年間の上積みがない」だ。同じように「戦術がない」と評された「ジーコジャパン」を思い出す。

当時の主力メンバーだった久保竜彦氏に以前、「森保ジャパンは似ていると思うか」とたずねた。すると、

「似てないでしょ、全然違うチーム。試合のテンポがあきらかに違うし、走っている量も全然違う」

と断言した。

久保氏が言うように、森保ジャパンはジーコジャパンとは違う。守備の規律はある程度整えつつも、「〇〇しなさい」と選手に徹底するのではなく、幅を与える委任戦術をとっていたと思う。これにより、「日本代表」というチームの中で発揮すべき個とグループの強化を進めた。それゆえにチームが安定せず、当初は苦しんだ。

そこで森保監督は、「負けたら終わり」のホーム・オーストラリア戦で、4−3−3にシステムを変更し、勝利。委任戦術は貫きつつも、選手がプレーしやすいシステムで流れを変え、そのままW杯出場の切符をつかみ取った。ただし、4−3−3は簡単に言うと、中盤の負荷が高い。W杯向けのシステムではなく、あくまでもアジア予選を突破する策で、森保監督の転換期だったとは思わない。

以降も森保監督の試合運びに戦略は感じられず、大きな期待は抱けなかった。

急な3バックにも選手が対応できた

そんな森保監督に「違い」が出たのは、カタールW杯だ。

4年間、選手に対する委任の継続が実を結ぶ。急な3バックにも選手が対応でき、プレッシングのかけ方も選手間で決めることができた。日本サッカーは「マニュアル通りにしか動けない」と評されてきたが、委任戦術の徹底により、選手が自主的に動けるようになった。強制ではなく自発的だからこそ、守備に奔走した前線の選手たちから大会中に不満があがることもなかった。

森保監督の「ラージグループ」は、数百人の選手をふるいにかけるというより、選び抜いたW杯登録メンバーの倍の数である50人前後を固定して浸透させていく手法だった。ゆえに、「新戦力を呼ばない」という批判も起きた。だが、W杯初出場の谷口彰悟がスムーズにフィットできた点をはじめ、連携面はラージグループを重視してきた成果だ。

そして、森保監督自身も、明らかに変わった。

選手に任せきりだった予選とは違い、カタールW杯のドイツ戦では積極的な選手交代でドイツを混乱させた。予選や親善試合で見せなかったことで、データを相手にとらせず、グループリーグ最終戦も森保監督の戦略によってスペインが「パニックになっていた」(スペイン代表ルイス・エンリケ監督)。

それはメディアから「ただ蹴るだけで何の変化もない」と散々批判されてきたセットプレーも同様だ。クロアチア戦ではいくつか効果的なサインプレーがあり、見事に先制点を奪った。

強豪相手に主導権握るのはまだ難しい

「2010年南アフリカW杯から進歩なく、引いて守ってカウンターでつかんだベスト16では」

今大会の結果に、こうした批評もあるだろう。

ただ、これには南アフリカW杯の「当事者」である本田圭佑が、Abemaでのクロアチア戦解説時にこう語っている。

「(南アフリカW杯ラウンド16)パラグアイ戦は、点取れるプランはなかった。(当時と)比べたら(クロアチア戦は)プランがある」

今、クロアチア戦を振り返っても、防戦一方だったわけではない。日本も勝利に値するプレーをしていた。フットボールに「たられば」は禁句だが、あえていえば、ワントップに収まっていれば攻撃は変わっていた。コスタリカ戦で上田綺世がハマっていれば、クロアチア戦でジョーカーになったと思う。そういった意味でも、強豪国のような選手層が必要になる。

おそらくドイツ戦やスペイン戦の前半の印象が強く、今大会の日本代表は防戦一方だった記憶が残った人は多いのではないだろうか。ドイツやスペイン相手に主導権を握るのは、まだまだ難しい。クロアチアに勝ち切れていれば、森保ジャパンに対する印象はがらりと変わったと思う。

リアクションやカウンターでは、小柄な久保建英や堂安律の能力がフルに発揮できないという批判もある。だが、前大会のロシアW杯同様に今大会も、カウンターから多くのチャンスやゴールが生まれた。W杯という大会で、相手が引いてブロックを組んできたところを崩すのは最難関だ。スペインはモロッコから点を奪えず、ブラジルですらクロアチアをこじ開けるのに延長まで時間を要した。

いかに効果的なカウンターが出来るかは重要であり、問題は一試合の中でのメリハリだと思っている。つまりカウンターが悪いのではなく、フィジカルで劣る日本人の消耗度を減らすための工夫だ。自分たちが主導的にボールを保持して時間を作る「アクションサッカー」を提唱する人もいるだろうし、関西国際大学・坂本康博総監督と夏嶋隆氏が提唱するような、フィールドを分割してエリアを効果的に使うことでミスを減らす考え方もある。

ビルドアップが課題

森保監督の続投は正しい選択なのか?

筆者が森保ジャパンの問題点だと感じるのがビルドアップ。再現性はほとんどなく、ゆえに久保や堂安など前線から今大会の戦術への違和感があがったのだと思う。カウンターは素晴らしかったものの、前線の選手たちに後ろからボールが運ばれることは、まれだった。

森保監督続投後のコーチ陣は発表されていないが、今大会になかったビルドアップの組み込みやゾーンディフェンスを洗練させてくれるコーチはマストだと思う。高いコーチ力が求められるため、クラブとの兼業でのテクニカルダイレクターを認める手もあるだろう。

森保監督自身もコーチの重要性を語っており、カウンターとポゼッションを併用できる優秀な参謀の入閣には肯定的なはずだ。組閣には、JFA(日本サッカー協会)の手腕が問われる。

また、JFAは欧州に拠点を持っているので、森保監督はそこを足場に欧州サッカーと触れ合い、さらなるアップデートをして欲しい。

今大会で見えた新時代が、2026年にW杯が開かれるカナダ・メキシコ・米国の地でどう広がっていくのか。4年後が楽しみで仕方がない。(選手敬称略)

=この連載おわり=