2022年11月11日に破産手続きを申請した仮想通貨取引所「FTX」の創業者であるサム・バンクマンフリード氏は、顧客の資金を不正に流用した詐欺などの疑いで逮捕・起訴されています。アメリカ証券取引委員会(SEC)が提出した訴状から、FTXのシステムに顧客の資金を流用できるようにするソフトウェアの変更が施されていたことが分かりました。

Exclusive: How a secret software change allowed FTX to use client money | Reuters

https://www.reuters.com/technology/how-secret-software-change-allowed-ftx-use-client-money-2022-12-13/

ロイターによると、2020年半ばにFTXのチーフエンジニアであるNishad Singh氏がソフトウェアに秘密の変更を施したとのこと。Singh氏が行った変更は、バンクマンフリード氏が所有するヘッジファンドのアラメダ・リサーチを、借入金による損失が大きければ資産を自動的に売却するという取引プラットフォームの機能から除外するというもの。これによりアラメダ・リサーチの資産は決して売却されることはなく、さらにアラメダ・リサーチはFTXから担保なしで資金を借り続けることができるようになりました。

SECは「アラメダ・リサーチが免責されていたことにより、アラメダ・リサーチはFTXから担保の価値に関係なく資金を借り続けられるようになっていました。これにより、アラメダ・リサーチは事実上無制限の信用枠を得たことになります。さらに、コードの変更の後にFTXがアラメダ・リサーチにひそかに貸し付けた数十億ドル(数千億円)は、FTXの準備金ではなく、顧客の預金でした」と指摘しました。

このコードはSingh氏とバンクマンフリード氏、その他数名しか知らなかったと伝えられています。Singh氏はコードにコメントを残しており、「FTXはAlamedaのポジションを決して売却すべきではない」と強調していたとのこと。



規制当局は、バンクマンフリード氏が非公開のベンチャー投資や高級不動産購入、政治献金を行うために顧客の資金をアラメダに流用したことを隠蔽したと主張しています。ロイターは「SECの訴状は、バンクマンフリード氏が投資家やその顧客、ほとんどの従業員が知らないうちに顧客の資金に手を付け、FTXの収益よりも数千億円多く使っていたという新しい洞察を提供するものです」と述べました。

その後2022年に仮想通貨の価値が急落したため、アラメダ・リサーチの貸し手の内数社が返済を要求してきたのですが、アラメダ・リサーチにはその要求に応えるだけの資金がありませんでした。そのため、バンクマンフリード氏はアラメダ・リサーチに上述の信用枠を利用して数十億ドルの融資を受けるよう指示したとSECは主張しています。

そのような状況の中で訪れたのがFTXの破産騒動です。2022年11月にFTXに財務上のリスクがあることが伝えられたため顧客は資金を引き出そうとしましたが、この時点ですでに多くの資金が存在しないことが報告されていました。FTXはハッキングの被害を受けつつも未払いの解消に取り組んでいましたが、最終的に債権者を推定100万人以上抱えたまま破産手続きを行うこととなりました。

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この報道を受け、ソーシャルサイトのハッカーニュースでは「この背後にある本当の問題は、お金を稼ぐ人々が誠実さとは何かという概念を持っていないことです。自分たちの仕事は顧客の利益とお金を守ることだという基本的な前提に立っていないのです」と非難するコメントや、Singh氏についても「事情を知っていたのでは」と推測するコメント、「ソフトウェアエンジニアとして絶対にやってはいけないことで、間違いなく懲役刑に処せられます」といったコメントが投稿されました。

A software change allowed FTX to use client money | Hacker News

https://news.ycombinator.com/item?id=33975926