北朝鮮の弾道ミサイルが、グアムを射程に収めるようになってしまいました。中国の巡航ミサイルによる脅威も高まってきています。日本人には馴染み深い南の島グアム、その防衛の現状と、今後の展望について解説します。

5年ぶりに日本上空を通過した弾道ミサイル

 グアムといえば、日本人には自国から程近い南国リゾートとして馴染み深く、いわゆる「南洋幻想」にも彩られる西太平洋の島です。その島でいま、防衛装備品の配備が急速に進められています。


アメリカ空軍のステルス戦略爆撃機B-2「スピリット」。グアムのアンダーセン空軍基地にて(画像:アメリカ空軍)。

 2022年10月4日(火)、北朝鮮内陸部から1発の弾道ミサイルが発射され、青森県の上空を通過する形で日本列島を飛び越え、日本の東約3200kmの太平洋上に落下しました。北朝鮮が日本列島を飛び越える形で弾道ミサイルを発射したのは2017(平成29)年9月以来、じつに5年ぶりのことです。

 防衛省の分析では、今回の弾道ミサイルは最高高度約1000km、飛翔距離は約4600kmに達しており、これまで北朝鮮が発射した弾道ミサイルの中では最長の飛翔距離となります。また、北朝鮮側の発表によると、このとき発射されたのは新型の中長距離弾道ミサイルとのことで、北朝鮮の労働新聞に掲載された発射時の画像から、以前発射された中距離弾道ミサイル「火星12」、もしくはその改良型ではないかと分析されています。

アメリカにとっての重要軍事拠点 グアム

 この北朝鮮の弾道ミサイル「火星12」は、その射程から西太平洋に浮かぶアメリカグアム島を攻撃するためのものであると考えられています。日本ではおもに南国の観光地として知られるグアム島ですが、アメリカにとってこの島はインド太平洋地域における重要軍事拠点と位置付けられるものです。

 北朝鮮から約3300km離れたグアム島には、アメリカ空軍の爆撃機などが展開する拠点として知られる「アンダーセン空軍基地」や、水上艦艇や潜水艦の停泊や補給のための拠点である「グアム海軍基地」など、インド太平洋地域でのアメリカ軍の活動を支える重要な基盤が集中しています。

 さらに、北朝鮮や中国と比較的距離が近い日本に置かれている在日米軍基地は、有事の際に激しい攻撃にさらされる可能性が高い一方で、それらの国から一定の距離があるグアム島は比較的安全と考えられるため、こうした国々と戦争になった場合には、グアム島は重要な反撃拠点となるのです。

脅威度高まるグアム その防衛の現状

 しかし現在、グアム島の安全性は徐々に低下しつつあります。というのも、北朝鮮が「火星12」のような射程の長い弾道ミサイルを開発し、中国が弾道ミサイルに加えて航空機や艦艇から発射可能な長射程巡航ミサイルを配備するなど、グアム島を比較的容易に攻撃可能な兵器が登場し、有事の際に攻撃を受ける可能性が高まっているからです。そのため、アメリカグアム島を防衛するための施策を推し進めています。


グアムに配備されたTHAADシステムの発射器(画像:アメリカ陸軍)。

 現在のところ、アメリカグアム島に配備している防衛システムは、落下してくる弾道ミサイルを迎撃するための装備であるアメリカ陸軍の「THAAD(終末高高度防衛)」のみで、これに加えてアメリカ海軍のイージス艦が随時、防衛にあたっています。

 しかし、これでは能力が向上する北朝鮮の弾道ミサイルや中国の巡航ミサイル、さらに迎撃が難しいとされる極超音速兵器への対処が難しいため、アメリカはこれらに加えてさらなる防衛システムの配備計画を進めています。

アメリカが進める脅威への対抗策 なぜ「全周」をカバーするのか

 この新しい防衛システムの特徴は、グアム島の全周360度をカバーでき、かつ分散配置で、さらに移動可能な複数の装備によって構成されるという点です。

 先述したように、中国は航空機や艦艇から発射可能な巡航ミサイルを運用しています。そのため、グアム島に対して幅広い方角から攻撃を行うことが可能です。さらに、中国や北朝鮮が開発を進める極超音速滑空兵器は、発射後にブースターから切り離された弾頭が弧を描いて飛翔する弾道ミサイルとは異なり、切り離された弾頭が飛翔途中に軌道を変更することが可能で、弾道ミサイルと異なりさまざまな方向から目標を攻撃することができます。そのため、こうした脅威に対応するために島の全周をカバーすることが求められるのです。

 また、日本でも配備が計画されていた地上配備型のミサイル迎撃システム「イージス・アショア」のような固定式の装備の場合、あらかじめその位置が特定されてしまうため、有事の際は敵から真っ先に破壊される可能性が高まります。そこで、移動式の装備とすることでその位置が特定されるのを防ぎ、生存性を高めようというわけです。


2019年に行われたトマホーク巡航ミサイルの地上発射試験。グアムに配備されるけん引式地上発射装置の原型とされるもの。

 現在判明しているところでは、まず敵のミサイルを探知するセンサーとして、日本でも「イージス・システム搭載艦」に装備される予定の高性能レーダーである「SPY-7」が配備され、次いでミサイルを迎撃する装備としては、弾道ミサイルを迎撃する「SM-3」と、巡航ミサイルを迎撃する「SM-6」が、トラックけん引式の地上発射装置にそれぞれ収められて配備される予定です。

 そしてこれらの各種装備は、宇宙に配備されている衛星や洋上のイージス艦、早期警戒レーダーを含むその他の地上配備型センサーが捉えた情報が集約される指揮統制センターの下で運用される予定で、これにより迫る脅威に的確に対処することが可能となります。

 現在、日本においても弾道ミサイルや極超音速兵器への対応策に関する議論が加速していることを踏まえると、アメリカグアム防衛の行方は要注目と言えるでしょう。