うがい薬騒動に″おまじない″ステッカー 知事の実力差が出たコロナ対応 - 毒蝮三太夫
※この記事は2020年08月26日にBLOGOSで公開されたものです
国は今、これというコロナ対策を打ち出すでもなく様子見だ。5月、6月あたりは、安倍さんも日本の対策がうまくいってるようなことを言って、麻生さんも「(外国に比べて)国民の民度が違う」なんて自慢めいたこと言ってたっけ。だけど7月、8月と感染者が増え始めると国会も閉じてすっかりダンマリ。貝になっちゃった。こりゃ「国貝議員」だね(苦笑)。
国会議員に感染者が出ないのは、黙りこんで口も開けないから、ウイルスが入らないって話かな?
まるで通販番組 大阪・吉村知事のイソジン事件
そのぶん、各都道府県の知事は否が応でも対策に追われ続けている。先日(8/19)は東京(186人)よりも大阪(187人)のほうが感染者がひとり多かったってニュースになってたな。東京の人口が1400万人、大阪が880万人ってことを考えると、大阪は心配だね。
大阪府知事は吉村さんだ。ルックスがスッキリしてて、年齢も40代で若く、あちこちのテレビに出て発言する機会も多いからか、何かと好感度が高い。だけど府知事として言ってることやってることが、どうも慎重さに欠けてる。
ご存知の通り、うがい薬を何種類も並べて、これがコロナ対策に有効だって会見したら、あっという間にうがい薬が買い占められる騒動になってしまった。これが結局、医療現場を混乱させ、薬局に問い合わせが殺到、働く人々を余計に疲弊させ、大勢の人の足を引っ張る失態を起こした。
吉村さんもさすがにマズイと思ったのか、次の日にすぐ言い訳してたけど、ちょっと考えればあんな会見をするとどういう影響を起こすか、わかりそうなもんだろ。だけどそれをやってしまう。知事の周りに冷静な意見をする人がいないんだろうね。
だいたいさ、知事が会見やりますってテレビに映させて、うがい薬を幾つも並べて「これが効きます!」なんてさ、まるで通販番組じゃねえか(笑)。「きょうご紹介するのはコチラ!」ってね。なんだか大手代理店が仕掛けたイベントかと思ったよ。
テレビを見てる視聴者は誰もがコロナで不安なんだから、そんなの見たら欲しくなるよ。で、結局買い占めに走っちゃう。あれね、前にみのもんたさんが午後の番組をやってた時とまったく一緒。「奥さん、納豆にはこんな効果があったんです!」「サバ缶でお肌がよみがえる!」、そんなのが放送されるたびにスーパーからその商品が消えちゃう。
あれは情報番組という衣をまとった通販番組だったんだ。最後に、商品の値段と申込先の電話番号を言わないだけ。そこで、人気ある著名人がひとつの商品を取り上げて「これが体にいいんです、健康にいいんです」とテレビで強く訴えれば、そのまま商品のPRとなり、宣伝となり、視聴者がその商品を欲しくなる。
これ、人気の無い人が同じことやってもみんな食いつかない。大阪府知事であり、コロナ対策で連日テレビに出て、誰もが知ってる吉村さんだから、大きな影響力が出ちゃう。吉村さんはあの会見で「吉村府知事のテレビショッピング」をやっちゃったんだ。
吉村さんってホントよくテレビ出てるけど、テレビからコロナ対策を発信することが目的だとしたら、現在の大阪の状況は複雑だな。なんだかさ、府知事本来の仕事以上に、テレビに出たい、目立ちたい、称賛されたい、って気持ちが見え隠れするんだけど、どうかな?
いま大阪府の庁舎では吉村知事が「これをやる」って言うと、周りは誰も「NO」と言えないんだろうね。だからああいう不用意な「うがい薬会見」をしてしまう。府知事がああ言ってるんだから止められないよって話で、明らかにマズイことになるとわかってても、事前に止めたり修正できる腹心や参謀がいない。いるのは知事のイエスマンばかり。大阪なのに「なんでやねん!」って言えるツッコミがいないんだ・・・。
なんだかさ、吉村さんという座長がいて、その座長がする芝居を周りは囃し立てるだけ。ワンマンな座長に誰もツッコめない。明らかにウケないとわかってる芝居でも「イヨッ、座長!」って持ちあげちゃう。そういう「吉村新喜劇」なんだろうね(笑)。
この先、明らかに間違いそうな時にきちんとツッコめる座員がいないでワンマンのままだと、この吉村新喜劇は似たような座長芝居をずっと繰り返すよ。本来であれば府議会がその役割を果たさなきゃいけないんだけど、府議会与党の「維新」「公明」がこの座長を持ちあげっ放しだからな・・・。
大丈夫かね、吉村座長は。つい先日も、大阪のコロナ重症者が急増している理由を問われて吉村さんは「東京や他県よりも早めに人工呼吸器をつけているから」って答えて問題になったよ。おいおい、どうして大阪だけ医療のルールが違うんだって、あちこちからツッコまれたよ。
普通の新喜劇ならコケてツッコめばそれで済むけど、府知事が医療に関して生半可なことをテレビで発言するのは、ちょっと危なっかしいよ。きっと吉村さんはさ、大阪で重症者が増えている理由を、自身のコロナ対策の落ち度だと言われたくなかったんだろうね。だから、府知事のレベルとは思えない理由を口にしたりするんだな。でもね、守らなきゃいけないのは吉村さんのプライドではなくて、市民の命や健康なんだよな・・・。
東京都の感染防止ステッカーはただのおまじない
一方、東京の小池都知事は8月に入って、感染症対策をきちんとしている飲食店や事業者に向けて、七色の虹がデザインされた「感染防止徹底宣言ステッカー」を東京都で発行したね。都民の皆さん、このステッカーの貼ってあるお店を利用しましょうと呼びかけて、街のあちこちのお店にあのステッカーが貼られるようになった。
だけどあの虹のステッカー、インターネットで自己申告すれば誰でも手に入るんだろ。別にこのためのきちんとした審査があるわけでもない。ステッカー貼って安心しましょうってレベルの話だ。
言い換えれば、「このたび東京都では、おまじないのお札を作りましたので、皆さんにお配りします」って話だ。アハハハハ、東京都はお稲荷さんになっちゃったよ。みんな軒先にお札を貼って疫病退散を念じましょうっていうね。それじゃあ小池さん、都知事じゃなくてお巫女さんだよな(苦笑)。
しかも小池さん、ステッカーと同じデザインをあしらったTシャツを着て記者の前に現れて、どんどん私の姿を全国に映してねって、ポーズとってたね。小池さんって昔からそうだけど「私を見て」「私を撮って」が大好きだよね。やっぱりこの人も座長なんだよね。座長だけが客の視線を集める座長芝居が好きなタイプ。さしずめ「劇団 小池百合子」だな。
この劇団は座長がパッと客の目を引くことに力は入れるけど、いかんせん中身がない。Tシャツとかフリップとか、衣装や小道具はしっかり用意する。だけど芝居に肝心な台本そのものに中身がない。
今回の「感染防止徹底宣言ステッカー」も外側だけのキャンペーンだし、こないだやってた「東京アラート」も見映えだけでうやむや。実が伴わない。最近も「とくべつな夏」なんて短い台詞が飛び出すけど、芝居の中身はどうにも見えない。
気づけば座長の小池さんが記者を集めて見得を切ってる。そこで芝居は終わり・・・。
そうこうしてたら先日、あの虹のステッカーを貼ってる店からも感染者が出た。そりゃあ出る時は出るよ。いつどこで感染するか誰もわからないし、ステッカーがウイルスを防ぐわけじゃないんだから。単なるおまじないの札なんだもん。
そしたら小池さん、悪いのはお店でステッカーではないような言い方したんだよな。これって、おまじない師のよくある手口でさ、うまく行けばおまじないのおかげ、うまく行かなかったときは信心が足りてないとか、その人の責任にしちゃう。
時によってはおまじないも必要だけど、それは都知事がやる仕事じゃないよ。
知事の実力差が出たコロナ対応
他府県の知事もそれぞれに苦労の日々だ。その中で、「知事としての仕事をきちんとされてるな」っていう知事ももちろんいる。コロナ初期からの対策で独自の判断を進めて成果を出し「和歌山モデル」と海外からも評価されてる和歌山の仁坂知事は、感染症や医療現場のことをよく知っているというか勉強されてるのがわかるよ。鳥取の平井知事、岩手の達増知事もそう。対応が慎重で発言が冷静だと思う。優秀だよ。
なんだか今って各都道府県が江戸時代の藩のように、お互いに競いあっているみたいだ。米沢藩(山形)の名君・上杉鷹山のようなトップがいれば藩は立ち直って潤う。知事のチカラは大きいよ。知事同士でいいところを見習って、地元のために働いてほしいね。
なにしろ大衆は不安やデマにすぐ煽られてしまう。そういう大衆をいかに落ち着かせてコントロール出来るかが指導者である知事の腕だ。そこで「表現と伝達」っていうことを言っておきたい。「表現」ってのはまあ誰にでも出来る。だけどそれをきちんと正しく「伝達」しないと「表現」そのものが伝わらない。「表現と伝達」の両方が成されてひとつの完結なんだ。
大阪の吉村さん、東京の小池さん、やたらと表現はするけど伝達がうまくできていないように思う。逆に大衆を煽るような方向に持っていく時もあるしね。大都市を背負っている知事は、やり方次第でコロナの行方を左右する立場だ。だから座長芝居はほどほどにして、きちんと中身が伝わる行政を願うばかりだよ。
コロナが一日も早く千穐楽を迎えられるようにね。
(取材構成:松田健次)