※この記事は2020年07月31日にBLOGOSで公開されたものです

足が悪くて旅行に行けない母が、ふと「最近流行ってる“オンライン旅行”って面白そう」とつぶやきました。私自身も超インドアな上に心配性のため、ほとんど海外へ行ったことがありません。

そこで今回は母娘の2人で、オンライン旅行で海外へ行ってみることにしました。ネットで「オンライン旅行」や「バーチャル旅行」と検索するといろんな国のツアーが出てきます。時間はだいたい30分~1時間、価格は数百円~3,000円くらいです。

今回は、お手頃な1時間1500円程度のツアーをチョイス。コロナ禍の影響もあって今急成長している新しい旅のスタイルですが、実際に旅行気分になれるのか試してみました。

(イラスト・文/松崎りえこ)

送られてきた旅行プランに妄想が膨らむ

まず、日本から遠い場所が面白いかなと思って、南アフリカの現地の人が案内してくれる体験を申し込んでみたのですが、なんと3週間の予約待ち!

そこで、「LOCOTABI (ロコタビ)」というサイトで紹介されていたバリ島にしてみました。案内人はバリに住む日本人のAさん(50代女性)。“花と鳥”というハンドルネームもなんだかバリ感があります。

このオンライン旅行の内容は、Aさんがバリの写真を見せながら私たちに解説してくれるというもの。値段は税込み1,650円。申し込むとすぐに返信が来て、「綺麗な景色や、現地の人の様子が見たいです」と希望を伝えると、オンライン旅行プランが送られてきました。

まず世界遺産のティルタエンプル寺院へ行って、その後は秘密の滝を散策。そしてランチタイム。そのあとは地元の市場に少々立ち寄る…など、なかなかしっかりと考えられたプランです。体験前からワクワクが止まりません。

さらにバリ島に加えて、今回はニューヨークにも行ってみることにしました。こちらも旅行プランが送られてきて、バイトの休憩中にそれを読むだけで早くも旅行気分に。

なんと私たちがお客さん第1号に!

ついに旅行当日。母とパソコンの前に座り入室すると、画面に現れたのは少し緊張した表情のAさん。なんと今回が初めてのオンライン旅行コーディネートとのことで、私たちが初めの体験者! ちなみに母もオンラインチャットは初体験。なぜか少し照れています。

Aさんはバリのご自宅からつないでいたのですが、自己紹介の最中にAさんの飼い猫が乱入するというハプニングも発生。最近話題になっている“リモートワークあるある”を生で見られてほっこりしました。

それではスライドショーでバリ島旅行へ

早速、Aさんがスライドショーで写真を見せながら、それぞれのスポットを丁寧に解説してくれます。

まずは海が見える1泊10万円の高級ホテルの写真に、母と2人でため息。現地の人々の生活の様子や、「ほぼ毎日ある」というバリのお祭りも案内してくれます。

つい最近は、鉄でできたものに感謝をする「鉄の日」があったそうで、バイクや車にお供え物をしたり、飾り付けをしている興味深い写真も見せてくれました。「はァ~! 信仰心が強いのねェ~!」と母もビックリ。

素敵な写真&話術で脳内はバリ色に!

バリ島の大自然の写真は圧巻。カラフルなお花や、見たこともない形をした葉っぱに驚きます。Aさんはよく森へ行くそうで「ここは訪れる人も少ない私のお気に入りの滝です。ここでパワーをもらうんですよ」と森の中でキラキラと光る滝の写真も見せてくれました。

東京の満員電車とは正反対の光景…。見ているだけでご利益がありそうです。スライドショーでも、Aさんの話術で十分にバリ島の様子がイメージできました。ていうか、気分はもうバリ島!

しかしバリの観光業の実情は大変なことに…

Aさんとのバーチャル旅行は1時間の予定でしたが話が弾んでしまい、2時間も付き合ってくれました。

たくさんの神技やお祭りがあるバリですが、やはり新型コロナの影響で自粛となっているそうです。感染者は少ないようですが、いつもの日常が奪われているのは悲しいですね。

普段は、現地を訪れる人のサポートをしているというAさん。Aさんのようにオンラインでもビジネスできる人は、リアルな観光だけで食べているガイドさんやツアー会社から嫉妬されることもあるとかで、それが悩みの種なんだそうです。そのため本名ではなくハンドルネームで登録していたんですね。いろいろあるなぁ…。

ニューヨークでは生配信で朝の街歩き体験

母と少し休憩をとり、次の旅の準備です。今度は大自然のバリ島とは打って変わって、大都会ニューヨーク。現地で暮らす日本人(30代女性)、通称“スージー”さんが街歩きしながら生配信してくれます。こちらも税込み1,650円です。

スージーさんとつなぐと、現地は朝の8時頃。早速カメラの目線を切り替えて、まるで自分がニューヨークの街を歩いているかのように見せてくれます。

マスクをした人々とすれ違うスージーさん。私が「コロナに気をつけてくださいね」と言うと、「大丈夫ですよ、ありがとうございます」と明るく返事をしてくれたのですが、そのやり取りを見て「こ、これ生放送なの?」と驚く母。だから会話できてるのよ…!

歩いているといきなり「これがバンクシーの絵です」

まずは有名なスーパー「ゼイバーズ」の中へ。入口には感染対策で25人までという入場制限の貼り紙がありました。ゼイバーズのオリジナルグッズなども映してくれて、まるで買い物をしている気分に。いつか実際に訪れたらお土産に買いたいなぁ。

そして通りに出て、てくてくと歩いていくと突如「これがバンクシーの絵です」とスージーさん。ええ! こんなにラフに置いてあるの? 男の子が消火栓をハンマーで叩こうとしている『ハンマーボーイ』という作品が壁に描かれています。

それを見て、「誰かがこれに落書きしちゃったら大変よね!」といきなり心配をし始める母。すると「さっき入ったゼイバーズが保護していて、ちゃんとガラスが張ってあるんですよ」とスージーさんが豆知識を披露。なるほど、この伏線のためにさっきゼイバーズに入ったのか…! 感心しました。

セントラルパークで出会った路上ミュージシャン

その後は映画『ナイト ミュージアム』でおなじみのアメリカ自然史博物館の周りを散歩。そしてセントラルパークに着くと「あ! リスです」と指を差すスージーさん。結構大きめなリスが木に登っていきました。

パーク内は本当に人がいなくて、まるで貸し切り状態。しかしかすかに切ない音楽が聴こえてきます。「パフォーマンスをしている人がいますね」と音鳴るほうへと歩いていくと、画面に『戦場のメリークリスマス』を演奏している一人の男性路上ギタリストが…。朝っぱらから暗すぎるよ!

そして街歩きを開始して1時間で、ゴールのベセスダの噴水に到着! 一生懸命歩いてくれたスージーさんにお礼をして、笑顔でお別れしました。楽しかった~!

通勤の鬼から一言

今回はたった3時間でバリ島とニューヨークを旅行できました。リアルならあり得ない強行スケジュール! でも思った以上に旅気分に浸れました。

最近ではテレビでも、旅行者が歩いているような一人称目線で撮影された旅番組も多くなりましたが、オンライン旅行ではそれに加えて自分が気になった場所をその都度フォーカスしてくれたり、疑問にも答えてくれたりするので、より自分が旅行をしている感覚になれます。

私はかねがね海外の治安が心配だったのですが、現地の方にお話を聞くとその心配も溶けてきて、体験後はなんだか無性に旅行に行きたくなりました。しかし、いつになったら行けるんだろう…。その日を楽しみに妄想が膨らみます。