【楽天モバイル失速の罪深さ】携帯電話の官製値下げは、「落胆(楽天)モバイル」失速で風前の灯火 - 大関暁夫
※この記事は2020年07月25日にBLOGOSで公開されたものです
「そう言えば…」の話なのですが、安くなると言われてきた携帯電話料金が実際に安くなったという実感がありますでしょうか?
菅義偉官房長官の「日本の携帯電話料金は4割安くできる」発言から約2年。私も含め大半の人は、携帯電話の料金が安くなったという実感は未だ得ていないのではないかと思っています。
本来、昨年10月「第四のキャリア」楽天モバイル(以下楽天)の登場を機として、大改革が進められる見通しであった携帯料金官製値下げはどこへ消えてしまったのか、その事情と今後の見通しを探ってみましょう。
新料金プランに変更しても”4割値下げ”ならず
菅発言を受けた携帯料金引き下げは、昨年4月に業界トップのNTTドコモ(以下ドコモ)が先行しました。複雑な料金プランを2つに絞り込み、「新プランでは最大4割安くなる」という触れ込みでのスタートでした。
注意点は、このプランと引き換えに携帯電話機購入時の値引き上限が2万円に制限されたので、プラン見直しと同時に携帯端末を買い換えた場合、月々の負担は大きくなるケースもあるという点。
すなわち月々料金が確実に安くなるのは、携帯を買い換えずに料金プランのみ見直ししたケースに限られます。
ちなみに昨夏にこの新料金プランに切り替えた我が家は、4台契約で月平均24,000円の携帯料金が21,000円代に下がりましたが、料金値下げ率は1割程度。
4台の個別契約が一律にギガホと言われる契約に移行したからなのか、料金構造に明るくない私にその理由の詳細は判りませんが、スタッフの説明に沿った変更ではこの値下げが限界でした。
恐らく新料金プランに移行した世の大半の方々も同様の状況にいるように思いますし、自らプラン変更を申し出ないと安くならないことすら知らない人も多いかもしれません。
さらに我が家もこの先4台のうち1台でも携帯を買い換えたなら、以前の料金を上回ることが想像に難くなく、今回の新料金プランへの変更の恩恵は決して大きくはない印象でした。
「期待の改革者」になることができなかった楽天モバイルの罪深さ
auやソフトバンクはどうなのかといえば、楽天参入に合わせた値下げを予定していましたが、結局現時点まで値下げを見送っています。
料金値下げ競争の起爆剤となると見られていた楽天の新規参入が半年先延ばしとなったことに加え、「我々はもう値下げの宿題をクリアしている」(高橋誠KDDI社長)とドコモの新料金水準には既にあるということが、その理由です。
すなわちau、ソフトバンクの利用者は官製値下げ騒動の恩恵を受けることなく現在に至っているわけです。
しかも、この騒動が「携帯キャリアもうけすぎ批判」に端を発しているにもかかわらず、20年3月期で約2割減益となったドコモに対して料金を据え置いたau、ソフトバンクは、増益を計上するという珍現象まで起きているのです。
この問題で最も罪深いのは楽天です。2018年に総務省から携帯電話事業への参入が認可され2019年10月のサービススタートが予定されていながら、基地局整備で目に余る遅れが続き、3度もの行政指導を受けた挙句、結局半年のサービス開始延期となりました。
しかも、スタート延期決定後の試験サービス提供においても通信障害が起きるなどトラブル続きで、「期待の改革者」イメージはすっかり地に堕ちてしまいました。
4月のスタートを前に満を持して発表されたプラン「月2980円でデータ無制限」は、対象が自社回線利用時のみという中途半端さで、楽天の登場に期待していたネット上の携帯へビーユーザーたちからは、“落胆モバイル”との批判まで出される始末。
この料金体系には先行3キャリアからも、「楽天対策は2~3年後でいい」(寺尾洋幸ソフトバンク常務)、「条件付き料金で比較対象外」(吉沢和弘ドコモ社長)、「無制限は誇大表現」(高橋誠KDDI社長)と冷ややかな意見が相次ぎ、動じる気配は全く感じられなかったのです。
問題が相次ぎ携帯電話の官製値下げは風前の灯火
さらに、そんな出鼻に追い打ちをかけるように、楽天はサービス開始後も問題が相次いでいます。
ひとつは6月に、唯一の自社製品である旗艦モデル「Rakuten Mini」について、対応周波数を無断で変更し、かつ利用者への告知も怠っていたとして、行政当局から説明を求められたという不祥事です。
そして、その問題から10日あまり後には同じく「Rakuten Mini」について、電波法の技術基準に適合していることを示す認証番号を誤って表記していたことが判明します。これは、対象機種数万台の利用者がソフトウエアの更新が必要になるという不祥事でした。
いずれの不祥事も事象そのものは致命的なものではないとはいえ、国民の共有資産である電波を扱う認可業者としてあまりに自覚に欠けた業務姿勢であり、猛省が促されて当然な状況にあります。
行政指導、サービス開始延期に加えこのような初歩的な不祥事が続く状況下では、携帯事業者としての楽天ブランドは一層のイメージ低下が避けられず、今春から「新4強」が居並ぶはずだった携帯電話業界は早くも「3強1弱」の様相なのです。
そこに追い打ちをかけたのが、今年3月以降の新型コロナ危機です。急遽有事に転じた経済情勢下では、もはや政治主導の官製値下げ圧力は影を潜めざるを得ない状況にあり、楽天の新料金発表、サービス開始に際しても政府からの後押し的コメントは一切なし。
楽天の期待ハズレ感満載の不甲斐なさに突発的な有事状況が相まって、もはや携帯電話官製値下げは風前の灯火といった感が漂っています。
すなわち携帯電話官製値下げ騒動は、ドコモの、au・ソフトバンク並み料金への値下げと携帯電話機器の実質値上げだけを置き土産に、再び凍結という状況になりつつあるわけなのです。
5Gスタートで携帯料金は再び高止まりか
新型コロナ終息後に待ち受けているのは、今春スタートした大容量次世代通信5Gサービスの本格化です。
5Gこそ携帯通信キャリア各社が新たな収益源の本命と目するサービスであり、つい先日もドコモの吉沢社長が年内に低価格の5Gスマホを販売し、急ピッチで5G通信契約獲得増加に動く考えを示しているように、5Gへの移行で収益環境の改善をはかるという腹づもりは先行3キャリアの共通認識であります。
ここでも4G施設の整備すらままならない楽天は蚊帳の外感が強く、「3強1弱」は一層進んで、楽天が料金値下げの起爆剤的役割を果たすことはますます考えにくくなると思われます。
一方、5G時代の本格到来を利用者サイドから見れば、5G契約への移行によって現在の少しばかりでも低下傾向にあった4G通信料金体系はゼロクリアされ、携帯利用料金は再上昇を余儀なくされることが想像に難くありません。
2015年秋の「安倍首相の指示」に続く2018年夏の「菅官房長官4割値下げ宣言」による官製値下げ騒動は、またもや「泰山鳴動して鼠一匹」に終わり「新サービス」の名のもとで高止まりな携帯電話料金に舞い戻っていく。そんな悲しい結末が、おぼろげながら見えてきたように思います。