不逮捕特権が復活 国会招集で疑惑の政治家は逮捕逃れる - 渡邉裕二
※この記事は2020年01月21日にBLOGOSで公開されたものです
「トカゲの尻尾切り」とはよくいったものである。総理主催の桜を見る会を巡って、招待者名簿を行政文書ファイル管理簿に記載しなかったことなどが、公文書管理法違反に当たるとして問題視されたが、内閣府は先週、田和宏内閣府審議官をはじめとする6人の幹部を厳重注意処分とした。
「今さら、何が処分だ!」
「厳重注意ぐらいじゃ生ぬるい!」
なんて声もあるが、確かに違法行為を犯しておきながら厳重注意で済ますなんていうのは、一般社会ではありえない話であり、「甘過ぎる」といわれるのも当然だろう。まして官僚の立場。常に法令遵守が求められているはずだが…。
安倍政権では処分が出世に繋がる?
今回、処分されたのは、2011~17年度にかけて、内閣府の人事課長だった田和氏をはじめ経済社会総合研究所長、賞勲局長、政策統括官、経済社会総合研究所総括政策研究官、そして特定の情報を不適切に消去して昨年11月に国会に関連文書を提出した吉岡秀弥人事課長の6人。
「違法状態」であることの報告を内閣府から受けた菅義偉官房長官は、その理由については「事務的な記載漏れ」と説明していたことを考えると、今回は処分といっても単に「表向き」「世間的」な〝トカゲの尻尾切り〟だったといえなくもない。実に姑息である。
とはいっても、「内閣人事局」が設置されたことから、人事権は総理に握られ、それこそ安倍総理を〝護る〟ために支離滅裂な答弁をせざるを得ない内閣府の官僚たちである。多少は理不尽なことだと思っていたかもしれないが、今の政権は「処分」が「出世」に繋がるともいわれているだけに、実際のところは「有り難く処分を受けさせて頂きます」なのかも。
そう考えたら、官僚や公務員に、もはや〝公僕〟なんていう精神はない。そのカケラすら感じられない無責任なものになっているのかもしれない。
世間の大多数は「独断で違法行為をするわけない」と思っているはず。本来なら政治家はもちろん、この案件に関わった人間は全て厳罰に処されるべきだろう。しかし、〝この世界〟は「ゲゲゲの鬼太郎」に登場する妖怪、ネズミ男のような輩が、あちらこちらで跋扈(ばっこ)しているのだからどうにもならない。
「桜を見る会」に限らず、昨年7月の参院選では、運動員のウグイス嬢などに法定上限を超える報酬を支払ったとして、河井案里参院議員(自民、広島選挙区)が公職選挙法違反(買収)容疑に問われ、広島地検によって関係先が家宅捜索されている。この公職選挙法違反疑惑を巡っては昨秋、夫の河井克行衆院議員が法相を辞任した。さらに菅原一秀衆院議員も地元有権者への贈答品などを巡る疑惑で経産相を辞任するなど、わずか1ヶ月の間に2閣僚が責任を問われる事態となった。
案里氏については先週、広島地検の任意の聴取に男性秘書が「報酬は法定の倍額だった」とした上で「違法性を認識していた」との趣旨の供述をしていることも分かっている。
政治家も官僚もいい加減 相次ぐ不祥事
それだけではない。
昨年の暮れにはカジノを含む統合型リゾート施設(IR)への日本参入を目指していた中国企業「500ドットコム」を巡り、外為法違反事件で秋元司衆院議員(東京15区)が逮捕された。この問題では、元郵政民営化担当相の下地幹郎衆院議員(比例九州)が、「500ドットコム」から現金100万円を受領したことを認めた他、東京地検特捜部が白須賀貴樹衆院議員の事務所を家宅捜索している。
各省庁でも不祥事は続く。森友・加計問題は説明責任どころか、もはや問題そのものが風化しようとしているが、この時の財務省は公文書改竄と事務次官のセクハラという前代未聞の不祥事で地に落ちた。
厚労省に至っては、ズサンな統計問題を含め、仕事納めの12月27日にも介護保険料に絡む算出ミスを発表する始末。2019年は「不祥事に始まり、不祥事に終わった」といっても過言ではなかった。
防衛省も相変わらずの不祥事続きで、中でも陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の東日本での適地選定をめぐる調査データの誤りは「情けない」の一言だった。
スポーツ紙社会部デスクはいう。「岩屋防衛相が佐竹敬久秋田県知事らと会談し、データの誤りやその後の住民説明会での職員の居眠りなど、対応の不手際で謝罪に追われました」。
さらに文部科学省では、センター試験の後継として始まる大学入学共通テストで活用する予定だった英語民間試験などが、萩生田光一文科相の「身の丈発言」からその活用が見送られることになった。「結果的には文科相の発言が功を奏した」なんて声もあるが、同省の過去の不手際がクローズアップされることになった。
そして総務省も、民営化された日本郵政グループの「かんぽ生命」の保険の不適切な販売を巡る問題で、同省の鈴木茂樹・事務次官が日本郵政の鈴木康雄・上級副社長に対して、同省が予定していた同グループに対しての行政処分の内部情報を漏らしていたことから、両氏とも退任するというこれまた前代未聞の不祥事が大きな話題となった。
検察にしても、カジノ疑惑や一部の政治家の公職選挙法違反疑惑の捜査でお茶を濁す一方、日産自動車の前会長、カルロス・ゴーン被告の国外逃亡で大騒ぎしているが「肝心なことはスルー状態」と皮肉の声も。
安倍政権になって落ちた政治家のレベル
いずれにしても、政治家も官僚も、この国では全てが曖昧、いい加減。
政治家のレベルは国民のレベルとは言うが、安倍政権になって政治家のレベルが一気に低下したことは否めない。何といってもカリスマ性のある政治家がいなくなったことも確かだろう。だいたい、「もはや過去の人」なんていわれている小沢一郎衆院議員が、ちょっと登場してきただけでも大騒ぎになるのだから…。
いずれにしても、日本国民にとっての悲劇は安倍総理に続く適任な政治家が与野党を通して見当たらないことだろう。とにかく〝役者〟が皆無なのだ。
「政治」について語るフォークシンガーの松山千春はステージで、
「政治というのは権力を持たないもの、貧しいもの、障害を持つもの、声を出したくても出せないもの。そういう人たちに向けられるべきもの。是非ともそんな政治家が一人でも多く育ってほしい、また我々も育てていかなければならない」
といっていたが、それは最低限のことだろう。
五輪でウヤムヤ?安倍政権は安泰か
1月20日、第201通常国会が召集された。
安倍総理は、全世代型社会保障改革実現や憲法改正論議の進展に全力を挙げているが、現実は「桜を見る会」の問題に加え、「カジノ」「公職選挙法違反」を巡る疑惑で自民党議員らが捜査を受けているだけに足元は揺らぐ。
毎度のことだが、一歩も二歩も攻めきれない野党は対決姿勢を強める構えでいるようだが…。
それにしても通常国会がスタートしたことで、捜査は続いても、政治家には「不逮捕特権」というのがある。したがって、少なくとも疑惑の渦中にある何人もの自民党議員については「逮捕」がなくなったことも事実。
さらに検察も公務員。〝桜の季節〟には人事があるだけに、気づいたら「カジノ」も「公職選挙法違反」も春の陽気にウヤムヤなんてことになりかねない?
加えて、今年は東京都知事選挙はあっても、その後は「東京五輪」で日本中が湧き上がるだろう。
「当然、これまで問題となってきた疑惑や騒動の話題も薄まるだろうし、何より政治が疎かになる。現時点での安倍政権は何だかんだいっても支持率は落ちていないし、結局は安泰なのです」というメディア関係者は多い。
その一方で「果たして景気が上向くのか、それは大きな疑問」といった意見もあるのだが…。
もっとも、今年は何が起こるかわからない。一寸先は闇なのも確かである。