コンビーフはやっぱり台形に限る - 赤木智弘
※この記事は2020年01月20日にBLOGOSで公開されたものです
2020年1月15日「ノザキのコンビーフ」の公式ツイッターが、長らく親しまれてきたコンビーフ特有の独特な形の缶詰「枕缶」での販売を終了するという内容をツイートして話題となった。(*1)なお、新パッケージは「アルミック缶」という柔らかく、フタがシール状の容器になるようである。
僕はそれほどコンビーフ大好きというわけでもないが、スーパーで見かけてはいるし、酒のつまみにしたり、サンドイッチの具にすることもある。
今回、終了してしまう枕缶を開けるときの、あの鍵に缶の端を差し込み、缶をくるくる巻いていく行為は、コンビーフを使うときにしか味わえない、ちょっとした楽しみだった。それが無くなってしまうのだ。
ネットで話題になったことで、ちょっとした買い占め騒動も起きた。
とは言っても、枕缶が無くなるだけで、コンビーフ自体が終売するわけでは無いので、メルカリで定価よりも高い価格での転売が見られた程度である。(*2)
ノザキも注意喚起を行っているが、現在の流通分を含めれば、まだお別れまでの時間はそこそこありそうだ。
しかし、コンビーフを販売するブランドはノザキだけでは無い。他のブランドではまだ枕缶が生き残るのでは無いかと思ったのだが、明治屋は2012年から柔らかいタイプの容器に変わっている。(*3)
K&Kは今も枕缶だったはずだとサイトを確認すると、こちらも今年からアルミック缶にリニューアル(*4)をするそうで、昭和、平成と続いた枕缶を令和の時代に見ることはできなくなる。(*5)
ノザキのツイートでは「製缶等製造ラインが限界」とあることから、枕缶の機械を製造すること自体が産業的に成り立たなくなり、ラインを整備できるだけの技術環境も無くなってしまったのだろう。 食品新聞社の記事(*5)によると、ノザキでは国産コンビーフを発売し始めてから2年後、1950年から、この巻き取り式の枕缶を使用しているという。
独特の台形は、広い方からコンビーフを充填することで、底の角に隙間ができにくく、空気が缶の中に残ることを防ぐという。(*6)(*7)
そんな四角い缶詰を簡単に開けるために、あの鍵を用いてくるくると缶を巻き取って開ける、独自の開け方が産まれたのだろう。
もう少し時代を下れば、フルオープンエンド、つまり食品の缶詰でよく見かける、缶詰のフタが完全に取れるタイプのイージーオープン缶にもできたし、実際そうした商品もラインナップされているが、やはりコンビーフと言えば、あの台形と独特な開け方である。これがコンビーフの「アイコン」として、実に70年間も親しまれてきたのである。
それを考えると、やはり枕缶が無くなることは衝撃的であり、ちょっとした買い占め騒動が起きるのも分からなくは無い。
枕缶の登場から70年の時が過ぎ、パッケージングの技術は向上した。充填作業も高度化したから、台形のパッケージにこだわることは無い。実際、イージーオープン缶やレトルトパウチのコンビーフも販売されている。
それでも、今回リニューアルするノザキはもちろん、同じくリニューアルのK&K。すでに新しい容器になっている明治屋のコンビーフも、メイン商品はこれまでと同じ台形を採用している。
台形の缶詰と言えばコンビーフ。コンビーフと言えば台形の缶詰。
枕缶は消えても、昭和平成を駆け抜けた台形という独特の形は、コンビーフを表す形として親しまれ続けるのだろう。
*1:【大切なお知らせ】この春、台形の枕缶に入ったコンビーフの販売を終了いたします。 枕缶での販売開始から70年、製缶等製造ラインが限界に来ており、 このような決断となりました。 長年のご愛顧、 誠にありがとうございました。 あと少しの間 枕缶をどうぞよろしくお願いします。(Twitter)https://twitter.com/nozaki1948/status/1217250132506353664
*2:ノザキのコンビーフ、高額転売が相次ぎ...公式が呼びかけ「まだ在庫があります」(J-CASTニュース)https://www.j-cast.com/2020/01/18377460.html
*3:MYブランド「コンビーフ類 スマートカップ」新発売のご案内(明治屋)http://www.meidi-ya.co.jp/news/20120629.html
*4:新!国分のコンビーフ(国分グループ本社株式会社)https://www.kokubu.co.jp/brand/kkcornedbeef/
*5:コンビーフ、刷新相次ぐ 「ノザキ」と「K&K」(食品新聞社)https://shokuhin.net/28035/2020/01/17/kakou/kandume/
*6:THE MAKING (306)コンビーフの缶詰ができるまで(サイエンスチャンネル YouTube)https://www.youtube.com/watch?v=_2-JRrZGuNI&feature=youtu.be
*7:コンビーフのいろは(ノザキ)https://www.cornedbeef.jp/iroha.html