【外国人労働者】パスポートを取り上げられ返還も拒否 フィリピン人女性が横浜市の雇用先を提訴 - 清水駿貴

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※この記事は2020年01月17日にBLOGOSで公開されたものです

神奈川県在住の30代フィリピン人女性が、預けたパスポートの返却を拒まれ続けているとして、雇用先の行政書士・社会保険労務士事務所「アドバンスコンサル」(横浜市)を相手取り、16日、パスポートの返還や損害賠償などを求めて横浜地裁に提訴した。女性は17日に厚生労働省で開かれた会見で「自分の身分証を奪われたことに不安と恐怖を覚えた」と訴えた。

提訴をめぐる経緯

2017年4月 「留学生」として来日

2019年5月 事務所でアルバイトとして勤務開始。パスポートなどを預ける

同年7月5日 在留資格が「技術・人文知識・国際業務」に、雇用形態は契約社員に変更。事務所はパスポートなどの返還を拒否

同月9日 事務所に出社しない旨をメール

同月19日 退職する旨を文書で事務所に提出

2020年1月16日 事務所を相手取り横浜地裁に提訴

パスポートを事務所が管理 退職希望しても返還認められず

訴状などによると、女性は2017年4月に「留学生」の在留資格で来日し、日本語学校に2年間通った。卒業後、在留資格更新の相談で訪れた行政書士事務所で、働きながら新しい在留資格を得ることを勧められ、19年5月からアルバイトとして翻訳・通訳業務に携わることになった。

入社の際、「在留資格の変更に必要」と説明を受け、パスポートや卒業証明書などを預ける契約書を結んだ。 事務所側から英語やタガログ語での説明はなく、日本語で契約内容の一部が説明されたのみだったという。

パスポートなどの管理に関する契約書や労働契約書には

・契約締結日からパスポートを預けるものとし、使用する場合には事務所の許可が必要。使用後はすぐに再び預けるものとする。

・パスポートの管理方法、保管期限はすべて事務所が管理する。

・パスポートは退職後も事務所が管理する。退職後に請求があった場合は7日以内に返還するものとする。

・自己都合により退職を申し出る場合には1年以上前から書面で申し出なければならない。ただし、退職は許可制のため会社の書面による許可があった場合に限り退職を認める。

などの条件が記されていた。

同年7月5日、女性の在留資格が就労目的である「技術・人文知識・国際業務(技人国)」に変更され、雇用形態も契約社員へと更新された。

在留資格の変更後もパスポートが返還されなかったため、労働条件に疑問を抱いた女性が転職を考慮し、返還を要求するも事務所側は契約書を理由にそれを拒否し続けている。女性によると事務所側から「返したら逃げるだろう」などと言われたという。

女性は7月19日に労働組合を通じて退職する旨の文章を事務所側に提出した。

女性はフェイスブックを通じて別のフィリピン人女性が日本語学校から強制帰国させられたことを伝える記事を読み、NPO法人POSSEに相談。20年1月の時点でパスポートなどは返却されていないため、16日、横浜地裁に提訴した。

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「自身の証明書が手元にないことに不安と恐怖を覚えた」

女性は記者会見で「パスポートが返還されないと知った時、恐怖を覚えました。自身を証明するものが一切手元にないことにたいして不安になりました」と振り返る。

また「今回のケースは私が不運であっただけで日本に対するイメージは変わりません」と話し、「同じような状況に置かれている外国人労働者の方は、相談機関に相談して、きちんと自身の権利のために戦うという行動に移してほしい」と語った。

女性は現在、クラウドファンディングで支援を募っている。

事務所側は編集部の取材に対し、「結構です」と対応を拒否する姿勢を示した。

「パスポート取り上げに関して甘すぎる」 日本の法制度

女性の代理人弁護士である指宿昭一弁護士によると、技能実習法において在留資格「技能実習」の外国人に対してはパスポートや在留カードの保管が禁止され、刑事罰も設置されている。しかし、昨年4月に新設された「特定技能」などの在留資格では、法的に取り上げ行為は禁止されておらず、同じようなケースが散見されるという。

指宿弁護士は「パスポートを取り上げて外国人を意のままにさせるというのは強制労働にあたり、国際的な常識からすると犯罪にすらなる行為」と批判。

「パスポートの取り上げに関しては日本の法制度は甘すぎる。留学生や外国人労働者の取り上げ事案は多いが、当事者はなかなか声をあげられず、従わざるを得ない状況に追い詰められているケースが多い」

「本件はそういうなかで勇気を持って声をあげた。この裁判を通じて、パスポートや卒業証明書の取り上げ行為、管理行為というのがいかに違法なことなのか、社会的に明らかにしていきたい」と力を込めた。