【外国人労働者】日本へ技能実習生を送る東南アジア6カ国の現状を初調査 韓国に行けぬ人材来日の構図顕在化 - 清水駿貴

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※この記事は2020年01月17日にBLOGOSで公開されたものです

日本の人口減少が進むなか、労働力の一端を担う「技能実習生」などの外国人材の数は年々増加している。しかし、日本で働く外国人を取り巻く労働環境には依然として課題も多い。

外国人材をめぐる現状を把握し、改善につなげようと、独立行政法人国際協力機構(JICA)は、ASEAN6カ国(インドネシア、フィリピン、べトナム、カンボジア、ラオス、ミャンマー)で初となる、送り出し国側の制度や現状(農業分野)を調査。東京・麹町の本部で16日、フォーラムを開催し中間報告を行なった。

フォーラムでは、各国が海外人材派遣には積極的である一方、条件のよい韓国での就労が認められなかった人材が日本を選択するという構造が生じていることなどが報告された。

参加した専門家からは「実習生が日本で就労を目指す際の情報の透明性を高めるべき」「技能実習を廃止して、新在留資格の特定技能へ全面移管するべき」などの指摘があがった。

韓国に流れる外国人材 「単純労働力の確保」という視点では労働者は逃げていく

2019年6月時点での日本における技能実習生は36.8万人で、19年度は過去最大になる見込みだ。同年4月には出入国管理法が改正され、就労目的である在留資格「特定技能」が新設された。日本政府は2024年までに約35万人の外国人労働者を受け入れる方針を掲げている。

調査はそういった背景のもと、継続的に質の高い外国人材を確保するために解決すべき課題を表面化し、日本と送り出し国が相互に恩恵を受けられる取り組みにつなげようと実施。期間は19年9月~20年11月まで。各国の制度と送り出し機関の現状調査、帰国した技能実習生らへの聞き取りを行なっている。

冒頭、JICAは農業分野を例として、技能実習の理想的な流れを説明した。

そのうえで中間報告では

・各国は海外人材派遣に積極的ではあるが、管轄省庁や機関との連携に課題がある

・東南アジアからの人材をめぐっては、買い手市場から売り手市場に変化しつつある

・韓国や台湾などへの送り出しが増加。韓国では政府間での人材受け入れ制度が整備されており、希望しているにも関わらず行けなかった人材が日本に技能実習で来日するという構造が各国で顕在化してきている

・事前研修時の日本語教員不足や、質のばらつきなどの課題

・実習では単純作業が中心で部分的な学びにとどまる

・帰国後のサポート不足で、就労につながっていない

などが指摘された。

送り出し国側の現状としては、「優良な管理団体の効率的な見つけ方が口コミや人づて以外にない(インドネシア)」、「政府が対策を講じているものの、日本における犯罪率、失踪率、不法滞在率でトップに(ベトナム)」などの点が報告された。

またJICAは、日本の現状について「外国人労働者の確保は競争の時代に。単に安い労働力を確保するとの視点では外国人労働者は逃げていく」、「就労・生活環境の良さが口コミで伝わり、日本を目指す人材が集まる環境を用意できるか、ここ数年が正念場」との認識を示した。

送り出し国側のメカニズムはブラックボックス 日本企業は把握して対処すべき

中間報告を受け、専門家らによるパネルディスカッションも行われた。

著書に『自治体がひらく日本の移民政策』(明石書店)などがある日本国際交流センターの毛受敏浩執行理事は、2020年代の10年間で日本の人口は550万人減少(※)することが見込まれるなか、外国人は200万~300万人増加する可能性があると指摘。技能実習を廃止して特定技能へ全面移管するなどの制度改革の必要性を訴えた。(※国立社会保障・人口問題研究所問題研究所推定)

また、中間報告であがった韓国の外国人材受け入れ制度に関して「海外から希望者が韓国に多いのは、斡旋業者が入らず中間搾取がなく非常にクリーンであることと、韓国人並みの給料であることが理由にあげられる。さらに外国人労働者の支援センターが各地にできている」と指摘。「日本は特定技能の給与は日本人並みだが、技能実習は最低賃金に張り付いているのが現実。いい人材を欲しいのであれば、いい制度をつくらないといけない」と述べた。

外国人労働者問題に詳しい杉田昌平弁護士は「JICAが進めている調査によってブラックボックスだった部分にようやく光が当たり始めた」と評価。

「日本の法令や技能実習制度と、送り出し国の法令・制度の分断化を構造的に把握できていないという問題がある。例えばブローカーの介在によって過度な経済的負担を負って実習生が来日するというケースがあるが、送り出し国のメカニズムは何も見えない。そういう部分の透明性を高くした上で、企業や消費者が採用の起点から変えていき、帰国後まで日本として社会的責任を持つべき」と訴えた。

企業のCSR報告書の制作支援などを行う株式会社クレアンの薗田綾子代表取締役は「外国人材に関しては良い取り組みをされている企業もあり、アワードを設定して発信していくことも重要。企業も何をやればいいのか、どう改善すればいいのかということを広めていくことが今後できれば」と話した。