※この記事は2020年01月14日にBLOGOSで公開されたものです

皆さんは『ちはやふる』という漫画作品をご存知でしょうか。もし読んだことがなくとも、作品名は耳にしたことがあるという人がほとんどではないでしょうか。

『ちはやふる』は競技かるたに熱中する高校生達の青春を描く少女漫画で、2008年に講談社の女性向け漫画雑誌『BE・LOVE』で連載開始されました。直後から大変な人気を博した本作は、アニメ化、映画化もされ、コミックの累計販売部数は現在までで2500万部超。日本語のみならずさまざまな国の言葉に翻訳され、海外でも広く親しまれています。

競技かるたを支援する「ちはやふる基金」を設立

そんな大人気作である『ちはやふる』の著者、末次由紀さんが発起人となり、競技かるたを支援する「一般社団法人 ちはやふる基金」が2019年12月に設立されました。今日はこの「ちはやふる基金」について、ぜひ皆さんに知っていただきたく記事を書いています。

……というのも、実は私紫原はこの「ちはやふる基金」の理事に名を連ねているのです。もともとは『ちはやふる』という作品の一愛読者であった私が、回り回って、ちはやふる基金の理事に……。本当に、人生何が起きるかわかりません。もうやめたいと思っても、くじけずに生き続けてみるものです。

あまりにも突拍子もないので少し経緯をお話させていただくと、すべての始まりは本保さんという一人の女性がきっかけでした。末次さんと12年前からの友人である本保さんは、ありがたいことにかれこれ18年(!)も前から私が書くブログを読んでくださっていたそうなのです。で、2015年のあるとき、私がブログに『ちはやふる』に寄せる思いをしたためたところ、それを読んだ本保さんが、末次さんご本人に知らせてくださったのです。

こうして末次さんとのご縁をいただいた私は、TwitterやFacebookを通じて、少しずつ末次さんとお話をさせていただくようになりました。末次さんは、お忙しいお仕事の最中にもしばしば私の書いた記事を読んで、これ以上なく的確な要約とともにシェアしてくださるので、いつも本当にありがたく感じていました。

そんな中、私の初めてのエッセイ集『家族無計画』が朝日出版社より出版されることになり、私は大変図々しくも、末次さんに、「書店さんに置かせていただくポップ用のコメントを書いていただけないでしょうかと」お願いしたのです。とはいえそれがいかに恐れ多いことかということは重々承知していたので、断られても絶対に落胆しないぞと、予め心に何重にも予防線を張っていました。

ところが末次さんは、「私が書くことで、少しでも出版業界の活性化に貢献できるのであれば」と、すぐにご快諾のお返事をくださり、私の処女作に、それはもう温かい、心震えるコメントを寄せてくださったのです。

私は、自分が物書きとして歩み始めた直後に、このように偉大な先輩の背中を見せていただけたことを、つくづく幸福なことだと感じています。自分の利益だけではなく、自分が身を置く業界と、自分の後輩たちのために、惜しむことなく手間と時間を費やす。仕事を続けていく中で、私もいつか必ずこんな振る舞いができる人にならなければと、強く思いました。

こういう経緯があるため、2019年の夏頃、末次さんからちはやふる基金の構想について初めてお話を伺ったときにも、全くもって驚きはなく、至って自然なことに思われました。末次さんはこんな風にお話されました。

「私はこれまで、かるたからあまりにもたくさんのものをいただいてきたから、その恩返しがしたいんです」

末次さんがそう考える人であることは、とっくの昔に知っていました。

……ただ、「一緒にやりませんか?」とお誘いいただいたことだけは、地球がひっくり返りそうな驚きの事態でありました。そもそも私はチームで働くことがとても苦手で、だからこそリスク満載のフリーランスをやっているはぐれ者なのです。そんな私が、あろうことか自分にとって特別に大切な人とチームになって良いものなのかと、当初はとても悩みました。けれども、私自身が、末次さんと『ちはやふる』という作品から、これまであまりにもたくさんのものをいただいてきたのは紛れもない事実であって、それはつまり、間接的に、私もまたかるたからたくさんのものをいただいてきたということで、それらすべてにお返ししないわけにはいかないのであって。せっかく、それができるチャンスを与えていただいたのだから、お引き受けする以外に選択肢はないと思いました。

“たいていのチャンスのドアにはノブがない。自分からは開けられない。だれかが開けてくれたときに迷わず飛び込んでいけるかどうか。そこで力を出せるかどうか”(『ちはやふる』23巻)ですからね。

競技人口の増加に悩む競技かるた界

『ちはやふる』の連載開始以降、かるたの競技人口は右肩上がりを続けており、現在ではその数、実に100万人にのぼるとも言われています。

伝統競技の振興は喜ばしいことである一方で、これまで長きにわたり競技かるたの世界を支えてこられた関係各所の皆さんには、選手の育成支援や、大会運営において、さまざまな負担増が余儀なくされているといいます。

“大会への出場を希望する選手が増える一方で、会場のキャパシティには限界があり、全員を受け入れることができない”
“遠方の大会に出たいけれど、旅費がかさむ”
“かるたと百人一首についてもっと知ってほしいけれど、広報の人手が足りない”

こういった現場の声を受けてちはやふる基金では今後、競技かるたを支える皆さんと協力しながら、現役の選手の皆さん、また未来の選手である子どもたちにとって、よりよい競技環境を構築するための、人的、金銭的なサポートを行っていきます。

また、より多くの人に、競技かるたをもっと身近なものと感じていただくために、個人サポーター及び企業スポンサーの皆さんからの寄付を、サイトにて常時受け付けています。『ちはやふる』をきっかけに競技かるたの魅力を知った皆さん、あるいはTwitter上の陽気な末次先生をきっかけに競技かるたに興味を持った皆さん、よければぜひ一度、基金のサイトを覗いてみてください。

「ちはやふる基金」公式サイト
http://chihayafund.com

余談ですが、ちはやふる基金の理事長は誰あろう、私のブログを末次さんに紹介してくださった本保さんなのです。一本のブログ記事をきっかけに思わぬご縁をいただいた私は今、瑞沢高校かるた部の面々さながらに、バラバラなところにいた人たちが同じ場所で少しずつ調和し、一つのチームになっていく、そんな過程を、身をもって体験しているところです。