ねずみ年の今年はねずみ講に要“チュー“意! 「一緒に夢をかなえよう」など甘言に落とし穴潜む消費者トラブル - 岸慶太

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※この記事は2020年01月07日にBLOGOSで公開されたものです

幕を開けた2020(令和2)年。今年の干支は「子(ねずみ)」だ。

ねずみと言えば、思い出されるのはミッキーマウスに、ミニーマウスなどかわいいキャラクターだ。その一方、ふと頭に浮かんだのが“ねずみ講”。最近はあまり耳にしなくなったものの、海外では政変のきっかけともなった。普段の生活の中で思いがけずに巻き込まれることもあり、注意は必要だ。

そもそもねずみ講とは何なのか――。そんな疑問を抱え、独立行政法人・国民生活センターを訪ねると、その時々に合わせて目まぐるしく変わる消費者トラブルの手法を教えてもらった。ねずみ講を皮切りに、消費者問題の今を伝えたい。

東欧ではねずみ講きっかけに大規模暴動に

私たちの生活に入り込んでくる問題という印象が強いねずみ講。ところが、これが全国的な暴動に発展したこともある。今から23年前、東欧のバルカン半島南西部にあるアルバニアで1997年に起きた話だ。当時の新聞記事をめくってみた。

アルバニアなど東欧の旧社会主義国は、1990年代初頭までの東西冷戦終結を受け、次々と自由主義経済を導入した。

ところが、経済犯罪の拡大などで混乱を招き、アルバニアではねずみ講が急速に普及してしまった。当時のアルバニアは、紛争中の周辺国に対して武器を不正輸出することで外貨を獲得し、なんとか経済を維持。その資金源はねずみ講によって上部へと吸い上げられた金だった。

ところが、1997年になると周辺国の紛争は終結に向かう。同時に、武器密輸のシステムが崩れることで、国民の多くが参加していたねずみ講システムも崩壊した。これによって、国民は被害者としての感情を抱くようになる。

当時の朝日新聞は短い記事で以下のように伝える。

 【ウィーン27日=宮田謙一】ねずみ講式の利殖業者の相次ぐ倒産で大規模な抗議運動が広がっているアルバニアの議会は二十六日、運動の鎮圧に軍隊を使うことを決め、ベリシャ大統領に権限をゆだねた。市庁舎などへの襲撃、放火事件が南部を中心に全国で多発していることから、軍隊を動員して主要な行政機関や与党本部を警備することにしたもの。現地からの報道では、すでに二十六日から自動小銃を手にした兵士が首都ティラナの政府機関や与党本部などに配備され、警備に立っている。
 週末にかけて、ティラナで約三万人が抗議集会を開き、警棒や放水車で鎮圧しようとした警官隊との小競り合いで多数の負傷者が出たのをはじめ、国営テレビは全国十三都市で市庁舎や裁判所、与党事務所が燃える様子を放映した。警察側は二十六日だけで八十四人が負傷したと発表しているが、抗議運動側の負傷者数は不明。
 デモに参加する人々は右派ベリシャ政権の打倒を叫んでいるといい、最大の野党・社会党(旧共産党)は超党派の暫定内閣をつくったうえで早急に総選挙を行うよう求めている。

1997.01.27 東京夕刊 2頁
【ウィーン10日=宮田謙一】アルバニアからの報道によると、ねずみ講の倒産に伴う反政府デモが続く南部ブロラで九日、数万人の群衆と警官隊が衝突し、一人が死亡、少なくとも四十人が重軽傷を負った。今回の騒ぎで死者が出たのは初めて。現地の病院関係者は、死んだのは四十歳代の男性で心臓マヒとしているが、死因ははっきりしない。

1997.02.10 東京夕刊 2頁 2総

死者が出るまでに至ったアルバニアの暴動。暴徒化した民衆との対立は激化し、政府は1997年3月には非常事態宣言を発令。国連安保理の決議に基づき、7000人からなる国連軍が派遣されるに至った。

6月に実施された総選挙では、民主化を進める一方、ねずみ講と不当な武器輸出を黙認しつづけたベリシャ政権が退陣に追い込まれる結果となった。

“親しき友の会”名で112万人 国内最大のねずみ講で相次いだ自殺者

日本国内を見てみると今から40年前、債権者約112万人ともされる「天下一家の会・第一相互経済研究所」が、日本最大規模のねずみ講事件として知られる。

天下一家の会は1967年、特攻隊の生き残りだった男が熊本県で設立。第一相互経済研究所はその別名とされ、“親しき友の会”という名称のねずみ講を展開していく。男は観光地・阿蘇に13億円を投じてピラミッド型のビルを建てるなど、大きな収益を上げていた。

会員はさらに新規加入を増やすことを求められたが、多くの会員は勧誘に行き詰って自殺も絶えなかった。全国各地で入会金の返還訴訟が相次ぎ、1979年5月に無限連鎖講の防止に関する法律が施行されると、80年9月に会員約102万人を抱えたまま破産。当時、熊本地裁は、債権者を112万448人、債権総額を1896億2284万円と認定している。

ねずみ講は明らかな違法 システムは必ず崩壊する

ここまでで、ねずみ講が多くの被害者を生むものであることは理解できた。

しかし、ねずみ講に、マルチ商法、ネットワークビジネス――。どれも似たような意味に感じてしまい、区別がつきにくい。そもそもこれら三つの言葉はどう区別したらよいのだろうか。

国民生活センター相談情報部の小池輝明主事に尋ねてみると、まずはっきりしたことはねずみ講が明確に違法という事だ。

ねずみ講を禁止しているのは、「無限連鎖講の防止に関する法律」だ。

その条文を見てみよう。第一条では無限連鎖講(ねずみ講)がもたらす影響を“社会的な害悪”と記し、第二条が「無限連鎖講とは?」を示している。

第一条 この法律は、無限連鎖講が、終局において破たんすべき性質のものであるのにかかわらずいたずらに関係者の射幸心をあおり、加入者の相当部分の者に経済的な損失を与えるに至るものであることにかんがみ、これに関与する行為を禁止するとともに、その防止に関する調査及び啓もう活動について規定を設けることにより、無限連鎖講がもたらす社会的な害悪を防止することを目的とする。

第二条 この法律において「無限連鎖講」とは、金品(財産権を表彰する証券又は証書を含む。以下この条において同じ。)を出えんする加入者が無限に増加するものであるとして、先に加入した者が先順位者、以下これに連鎖して段階的に二以上の倍率をもつて増加する後続の加入者がそれぞれの段階に応じた後順位者となり、順次先順位者が後順位者の出えんする金品から自己の出えんした金品の価額又は数量を上回る価額又は数量の金品を受領することを内容とする金品の配当組織をいう。

小池さんによると、ポイントは第一条の「終局において破たんすべき性質のもの」、そして、第二条の「金品の配当組織」だ。

例えば、あなたが友人から「儲かる話があるから」とある組織へ加入するよう勧誘される。高額の会員費を支払うことで“親会員”となったあなたは、会社の同僚や友人などを“子会員”として相次いで勧誘し、会費などの名目で収入を上げていく。

金品の配当組織」とは、こうしたシステムに該当する。また、人口が有限であるために、必ず崩壊することから「終局において破綻すべき性質のもの」として、明確に違法とされている。

マルチ商法は「一応は」合法 販売シテムは半永久的に続く

一方のマルチ商法。ネットワークビジネスとほぼ同義で、一応は合法だ。ただ、特定商取引法(以下、特商法)を根拠として厳しく制限され、トラブルが絶えないのが実情だ。

そもそも、マルチ商法とはどういったものなのか?特商法33条はマルチ商法の正式名称「連鎖販売取引」の通称で次のように定めている。

1. 物品の販売(または役務の提供など)の事業であって
2. 再販売、受託販売もしくは販売のあっせん(または役務の提供もしくはそのあっせん)をする者を
3. 特定利益が得られると誘引し
4. 特定負担を伴う取引(取引条件の変更を含む。)をするもの

なんとも難解だ。消費者庁ウェブサイトをのぞいてみると、特定商取引法ガイド(https://www.no-trouble.caa.go.jp/)の解説がやさしい。

例えば、「この会に入れば、この壺を売値の3割引きで買えます。友人を誘ってその壺を販売すれば儲かります」、もしくは「お友達を誘ってこの会に入ってもらえば、紹介料として1万円がもらえます」などと言ってあなたが勧誘される(これによって生じる利益が「特定利益」)。取引を行う条件として1円以上を負担させる(この負担が「特定負担」)。

上記のような例が連鎖販売取引に該当し、この規定から逸脱すると行政規制の対象となる。

“ねずみ算”式に拡大する組織 うまい話に騙されるな

ここまでではっきりしたことは、ねずみ講が違法で、マルチ商法は一応、合法だが特商法の規制を受けるという事だ。ただ、ほぼ共通する部分がある。

“ねずみ”に例えられるように、両方とも組織がねずみ算式、ピラミッド式に拡大していく点だ。例えば、あなたが5人を勧誘し、さらにその人たちも5人ずつ勧誘する。すると、子会員は5人、孫会員は25人、ひ孫会員は125人と瞬く間に拡大する。

また、口コミや紹介で広がっていくことが多い点が特徴だ。『毎月50万円の副収入になった』『働かずに金が降ってくる』など虫のいい言葉で勧誘されることが多く、小池さんは「うまい話には絶対に裏がある。おかしいと気づくには普段からこうしたトラブルに関するニュースにアンテナを張り、きっぱり断ることが重要」と指摘する。

1万件超相談のマルチ商法 20代の若者が狙われやすい

ねずみ講が“違法組織”として認知が進んだ一方、マルチ商法は依然としてグレーな部分が多い。過去5年間に全国で1万件超の相談が寄せられ、トラブルは絶えない。

小池さんによると、これまではシャンプーや化粧品など商品を契約した後に自らが契約者となって紹介料などの報酬を得る、いわば「商品型」が多かった。ところが、近年は商品を介することなく“投資で不労所得を”“副業で毎月の安定収入を”といった謳い文句の「役務(サービス)型」が増えているという。

近年の統計を見てみても、2016年度までは“商品型”が過半数を占めたのに対し、17年度からは逆転。国民生活センターはこうした商品型を「モノなしマルチ商法」(以下、モノなし)と名付けて注意を呼び掛けている。

モノなしに関連して、特に相談が多いのが20歳代や20歳未満だ。18年度は45.2%と過半数近くを占め、小池さんは「20歳代など若い人は社会経験が少なく、そこに付け込まれている。一般に人間関係を構築していく世代にもあたり、孤立を恐れるあまり断り切れない面もあるかもしれない」と分析する。

友人や、LINEやツイッターなどSNSで知り合った人から、仮想通貨や海外事業への投資や、アフィリエイトなどの儲け話を紹介され、契約したものの、解約や返金ができないケースが目立つという。

相談の具体例は以下のようなものだ。

20代の女性は、マッチングアプリで紹介された20代男性に“100億円の資産家で、芸能界にいたというリーダー”を紹介された。女性はリーダーから「みんなで金持ちになれる」と120人ほどのメンバーのコミュニティーに誘われ、話を聞くうちに“洗脳状態”となった。

その中で、「入会金は80万円ほどだが、人を紹介すると30万円がもらえ、2人を紹介して60万円を手にした人もいる」と言われた。ATMで80万円を下ろして50万円をリーダーに、30万円を紹介者に渡したが、契約書や領収書は渡してもらえず、株のデータが無秩序に入ったアプリを読み込めと言われるばかり。一向に儲かる気配はないという。

甘すぎる言葉に要注意 「どこかに罠潜む」

小池さんは次のような甘言を紹介し、「どこかに罠が潜んでいると思って」と注意を呼び掛ける。

一緒に夢をかなえよう
こんなに立派な人間になろう
今頑張らないと一生ダメだ
人生豊かになって親孝行をしよう
家族を旅行に連れて行こう

マルチ商法を含む消費者問題はその時々に合わせて、手口や手法が異なる。小池さんに昨年、国民生活センターの取り組みを含めて2019年を振り返ってもらった。

① 若者を中心に広がる「もうけ話」のトラブル
② ネット関連の相談は年齢問わず SNSがきっかけになることも
③ 架空請求に関する相談引き続き 新しい手口も
④ 高齢者からの相談 依然として多く
⑤ なくならない子供の事故 死亡事故も
⑥ チケット不正転売禁止法施行 相談件数は5倍以上に
⑦ 「アポ電」と思われる不審な電話相次ぐ
⑧ 改元に便乗した消費者トラブル発生
⑨ キャッシュレス化が進む 関連したトラブルも
⑩ 各地で自然災害発生 国民生活センターでも被災地域の支援行う

今回のテーマ「ねずみ講」に合うものは①②などだろうか。それ以外にも今こそ、注意すべき問題は多い。

2019年らしいトラブルが⑧だ。

5月1日の「令和」改元に合わせて、上皇さまの退位を記念したアルバムの購入を勧誘する電話が確認された。さらには、実在する団体を装って「改元で法律が変わる」との通知が届き、口座情報や個人情報を記入して返送してしまったため、口座情報を知られたりキャッシュカードをだまし取られたりする例もあったという。

ラグビーW杯でもチケットトラブル 東京五輪で再燃?

小池さんが「今年も十分な注意が必要だ」と強調するのが⑥だ。昨年6月にチケット不正転売禁止法が施行され、特定の興行について入場券の不正転売や、不正転売目的の譲渡が禁止された。

しかし、9月からのラグビーワールドカップ日本大会では、非公式サイトで購入したチケットは無効とされたものの、「海外にあるチケット転売仲介サイトなどを公式サイトと思い込んで注文した」との相談が相次いだ。

インターネットでのチケット転売に関する相談は18年に比べて5倍以上に急増したといい、小池さんは2020年の東京五輪・パラリンピックに触れ、「同様のトラブルが考えられる。公式サイトを確認するなど自衛策が不可欠」と指摘する。

「定期購入」に落とし穴 相談件数は近年激増

「これはぜひ紹介してほしいです」と、小池さんが最後に強調したのが“定期購入”をめぐるトラブルだ。

化粧品や健康食品、飲料などの販売サイトで、「1回目は90%OFF」「初回は実費0円」などと通常価格より安価に購入できる広告だが、実際には1年間などにわたる「定期購入が条件だった」というものだ。初回を申し込んでから定期購入が必要であることに気づき、解約も断られるというケースだ。

国民生活センターによると、相談件数は年々増加し、2019年度はすでに2万9117件(11月30日現在)の相談が寄せられ、前年同期の2.3倍に及ぶ。18年度の相談件数は2万3002件で、すでに上回ったことになる。

定期購入が条件であることが分かりづらいことや、SNS上のアフィリエイト広告から注文したために商品の効果や低価格な面ばかりに目が向いてしまう点などが原因という。ただ、実際に商品を購入する際に規約を細かに確認することは容易ではない面もあり、トラブルに巻き込まれるなどした際には消費者ホットライン「188(いやや!)」番などに連絡するのも効果的だ。

スマートフォン一つで何でもできてしまうとされる時代、トラブルに巻き込まれたことに気づいたときには“すでに時遅し”かもしれない。自衛のために何ができるか?「トラブルの事例についてしっかりと知ることが第一歩となる」と小池さん。テレビやネットのニュースだけではなく、国民生活センターホームページにある報道向けの発表情報(http://www.kokusen.go.jp/news/news.html)のコーナーはおすすめだ。全てが生活に身近なことばかりで、トラブルはいつ身に迫ってもおかしくないことを気づかせてくれる。